*にゃんの2

「ただいまあ~! ルークス、お利口にしていた?」

 飼い主さんが帰ってきた。僕が言うのもなんだけど、飼い主さんは可愛い方だと思う。今まで恋人がいなかったのも不思議なくらい。

「あ、また大きくなった? 少し重たくなったね」

 飼い主さんは嬉しそうに僕を抱きかかえた。僕だってもうすぐ大人だもんね。

 そこでふと、じーちゃんてハムスターにしては長生きだったけど、僕の寿命の何分の一なんだろ。

 まあいいや。じーちゃんがいつ戻ってくるかわかんないし、飼い主さんがくれた缶詰食べてのんびりしてよう。


「まったく。やぶからぼうに呼びつけおって」

「あ、おかえり」

 お腹いっぱいになった僕は寝転がってじーちゃんを迎えた。

「大変なんだね」

「まあ仕方ない。見習いじゃし、無視してこの世にい続けたら消えてしまうしの」

「そうなの?」

「幽霊になると存在している世界が違ってしまうんじゃ。この世は肉体がある方が強いからの、幽霊のままだと存在し続けられなくなるんじゃよ」

「え、でも。ほら、あそこの女の人は幽霊だよね?」

 僕は、ずっと気になっていた窓の外にいる薄い影を差した。雨のなか、道路をじっと見てる。

「ああ、ありゃ事故で死んだ者じゃな。そこのガードレールに取り憑いておるよ」

 とにかく、何かに取り憑いていればいいらしい。思っていたよりも適当感は否めないよね。

「大丈夫なのかな?」

「何がじゃ。ああ、彼女は悪霊じゃないぞ」

 むしろ自分と同じ不幸な事故に遭わぬようにと見張っているとじーちゃんが言った。

「ふーん。じゃあ、いい幽霊さんなんだね」

「とはいえ、いつ悪霊になるかはわからんがな」

「じーちゃんも飼い主さんに取り憑けば修行とかしなくてもいいんじゃない?」

「飼い主だけならそれでいいのかもしれんがの」

 じーちゃんは自分の飼い主だった男の人だけじゃなく、僕と僕の飼い主さんも護りたいから、それには正式な守護霊になって力を持たないとだめなんだって。

 ちゃっかりそういうの考えてたんだな。なんか嬉しいな。ねずみに護られる僕ってどうなのとか思っちゃうけど、じーちゃんならいいや。

「それじゃあ、あっちは?」

 僕が差した方を見たじーちゃんの顔色が少し暗くなったような気がした。ねずみの顔色ってよくわかんないけど。

「あれはいかん」

 左の十字路はよく事故が起こってる。そのせいなのか、お地蔵さまが置かれているんだけど──そのお地蔵さまは、なんだか黒いモヤみたいなのに覆われていた。

「お地蔵さま、まっくろ」

「お地蔵さんが一生懸命に悪霊を閉じこめておるんじゃな」

 悪さをしようとしている幽霊をお地蔵さまが頑張って抑えているらしい。ほんとうなら、もっとひどい事故があってもおかしくないんだって。

「じーちゃんはなんとか出来ないの?」

「見習い風情に何が出来ると言うんじゃい」

 わしが変にこづきまわして悪霊を怒らせたらどうする。

 じーちゃんはちょっと低い声で唸った。あそこの幽霊さんはそんなに怖いのか。僕はずっと家のなかにいるからよくわかんないけど、もし外に出ることがあったら近づかないようにしよう。

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