第4話 友三郎、腹を下す
友三郎は新聞を読み終えると、老眼鏡越しに縫い物をしている初を見た。
「どうじゃな・・・。それが一段落したら、久しぶりに商店街でも歩いてみるか?!」
言われた初は驚くと共に、ウンザリしたような顔をすると、
「嫌ですよ! あなたと、二人なんて。」
と、にべもない返事である。
「いやぁ、二人とは言ってないぞ。孫も誘って、昼飯でもと思ったんじゃ。」
友三郎とて、初と二人っきりで商店街とは思っていなかった。
何か食べたいと思っても、もったいないので家で食べれば良いとか、ここよりはあっちが安いですよ言われるのが落ちだ。そして、挙げ句の果ては初の高い買い物に付き合わされるのである。これでは、シャレにもならない。
言い出した友三郎には、魂胆があった。久しぶりにラーメン屋のラーメンと、
「そうですか?」
初はちょうっと考えていたが、
「それじゃあ、さよ子たちに言ってみますが・・・。どう、言うか?」
そう言いながら初は縫い物を止めると、手早く片付けをして孫たちのところに行く。廊下の向こうから、さよ子の声が聞こえた。
「なんだよ、ばあちゃん?!」
「じいちゃんがね、一緒にお昼を食べに行かないかって言っているんだけれど、アンタたちどうする?」
「へえ、じいちゃんが?!」
「別に、驚くことはないでしょう。」
「珍しいじゃないか、なんか魂胆があってのことか?!」
可愛くない、孫である。
そんな可愛くない孫三人を引き連れて、友三郎と初は商店街を歩いていた。
「おい、じいちゃん! 何を食べさせてくれるんだ?」
誠に可愛げのない言い方であった。
「さよ子、何が食べたいのじゃ?!」
「おい、みよ子にのぼる。何が、食べたい。」
さよ子は、妹や弟にえらそうに言う。
「姉ちゃんは、何が食べたいんだ?」
「わたしゃあ、鰻丼がいいな。」
「鰻丼?!」
とっさに、友三郎は胸算用をはじめる。マズイと思いながら、
「みよ子にのぼるは、何が食べたいんじゃ?」
「私は、カツ丼でいいよ。」
「僕は、ラーメン。」
鰻丼より安いカツ丼と、食べたいラーメンの名前が出てきたので、友三郎はシメシメと思うが、問題は初だ。
「初。お前は、何が食べたい?」
「私は、なんでもいいですよ。」
「せっかく出て来たんだから、食べたいものを食べようじゃないか。」
「そう。それじゃあ、鰻丼にするわ。」
「鰻丼か?!」
「まいったな。高いうえに、わしの食べたいもんじゃない。どうする?」、もくろみの外れた友三郎は知恵を絞るも、いい考えが浮かばない。すると、さよ子が何か見つけたのか、
「ここのシャケおにぎりは、美味いんだぞ。」
と言いながら、とある店屋の前で立ち止まった。「おお、これだ!」、友三郎は小躍りしたくなった。
「そうか、そうか・・・。ここのシャケおにぎりが、さよ子は好きか。それじゃあ、一つ買おう。」
と言っていた。
目の前にぶら下がったシャケおにぎりに、さよ子は一つ返事でうなずく。初はイヤですよと言うので、友三郎はシャケおにぎりを四つ買うと、みんなで食べながら歩いた。
しばらく行くと、この商店街では有名なラーメン屋が見えてきた。
「のぼる?! ラーメン食べるか?」
のぼるは、うれしそうにうなずいた。さよ子もみよ子も初も、のぼるが言うなら仕方がないといった顔でついて入る。まず一つ、友三郎の思いがかなったのだ。
「のぼる、うまいな!」
シャケおにぎりを食べた上に、ズルズルとラーメンをすする友三郎を、初とさよ子とみよ子は、呆れたように見ていた。そしてラーメンを食べ終えた友三郎は、「よし! お父さんやお母さんの土産に」と孫三人に言いながら、お好み焼き店に入ると、牡蠣入りのお好み焼きを六つ注文していた。
その夜のことである。思う存分食べた友三郎だが、何があたったのか、横に寝る初を起こさないよう忍び足で、何度も便所に通っていた。
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