人に嫌われる病気

『鬱病は医師の適切な処方があれば完治する。しかし、躁鬱病(双極性障害)は寛解はあっても完治はない。一生薬を飲んでいかなくてはならない』


 インターネットの医療サイトに載っていた言葉だ。僕はもう躁鬱病というレッテルを背中に貼られて生きていかなければならないのか。その一文を読んだ時、愕然とした。


 僕が躁状態になったのは2012年の八月。激躁になったのが九月。この二ヶ月で僕の運命は奈落の底に落ちた。


 躁状態による人生最大の損失は、職を失ったこと、それから友人知人の信用を失ったり、怒りを買ったりした。友人知人が一人、また一人と去って行く。それを止めることは僕にはできなかった。ただ一人、理解を示してくれ、救いの手を差し伸べてくれたのが、元妻だった。非常に感謝している。だけど他の人は僕を気違いと思って逃げるばかりだ。これは、躁鬱病が社会に認知されていない病気であるのが原因である。単極性の鬱病は、社会に認知され、治療法も、日進月歩で進んでいる。それに比べて躁鬱病は、精神を安定させるリーマス一辺倒。そして鬱状態になれば抗鬱薬や、抗精神病薬を一つ一つ試していかなくてはならない。僕はノリトレンが効果がなく、自殺の誘惑にかられるので、変えてもらいたい。でも先生は「新しい、元気の出る薬ができた。でも臨床検査をして、副作用などのデータまとまったら処方しましょう」という言葉を繰り返すばかりである。もう、半年は同じフレーズを聞いている。


 結局、社会に認知されず、人に嫌われる病気が躁鬱病なのだ。最近流行っている、●●だと思ったら病院へというテレビCMを躁鬱病でもやってほしいものだ。統計的に躁鬱病の患者は多くない。でも、鬱病と診断されている人の中には潜在的な躁鬱病患者が多くいるのだ。僕みたいに、激躁状態になる前に、発見されることを心から願う。僕はやらなかったが、暴力事件を起こしたりしたら、警察に逮捕される。そして精神病院の鍵の掛けられた病室に措置入院させられることになる。自由を奪われるのだ。こんな辛いことはない。躁鬱病の社会的な認知を強く求めるものである。


 失った友人知人はもう戻らない。ならば、新しい友人を探せばいいのだが、新しい出会いなんて、現在軽い鬱状態にある僕にはあるわけない。でも考えた。Facebookで古い友人を探すのだ。僕は必死になって記憶をたどって、友達検索をした。そして、小中学校の旧友と、元いた会社の同期と友達になった。すると、会社で一期後に入ってきた同僚が友達申請してきてくれた。ありがたいことだ。少ないかもしれないけど、三人の友達ができた。

 そこで、僕は欲張りすぎた。軽く、ハイになっていたのかもしれない。昔、書店で、アルバイトとして入ってきたを探し当て、チャットをして、無理やり友達にしてしまった。喜んだ僕は、彼女向けの記事を作成して、どんどん更新した。二十年近く会ってもいないのに、「好きだ」という記事も作った。それが迷惑だったようだ。「もうこれ以上続けられません」というメッセージとともに短い友達関係は終わった。これも躁鬱病のさせたことなのか。僕には分からなかった。

 他人の気も知らないで、どんどん記事を載せる。そういうことはいけないんだと気がついた僕は、自分勝手な記事をやめ、花の写真や、出先での写真をあげる、ビジュアル方面に走った。これは評判が良かった。三人の友達に嫌われまいと、文中の文言にも気をつけた。最近はカクヨム一辺倒でFacebookには、あんまり行ってないが、花の写真だけは続けている。


 Facebookも社会復帰の一つの手だと思ったが、カクヨムも社会復帰の一つの手だと思った。カクヨムを見つけたのは一月の初頭だった。インターネットの広告で見つけたのだ。始めはどうしようか迷った。ネットの小説は誹謗中傷が激しいと聞いたからである。鬱状態がひどくなると寝たきりになってしまう。でも、自分の小説がどのように評価されるのか知りたかったし、何しろ、紙に印字しなくていいのがリーズナブルだ。そう思って、登録した。初めは既存の小説新人賞に落選したものをコピーアンドペーストで三作品載せた。それから、物足りなくて、一作、二作、三作と新作を執筆していった。僕はこの作業にのめり込んだ。また、ハイになってしまったようだ。寝る間も惜しんで執筆した。夜の方が執筆がはかどった。ハイだけども躁状態にはならなかった。リーマスのおかげかなと思った。


 二月末、カクヨムがスタートした。もちろんというか、案の定というか、僕の作品は相手にされなかった。がっくりした。最後の作品なんて、スタート日の明け方までかかって執筆したのに。

 僕は一気に鬱になって布団に潜り込んだ。面倒くさい病気である。

 でも、今回はすぐに立ち直って、新作を描いた。多少は反響があり、レビューもいただいた。僕の生活はカクヨムを中心に回っている。



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