喫煙に走る
何かを変えたかった。何かに変わりたかった。
何を変えたらいいのだろう。どこを変えたら気分が上がるんだろう。ずっと考えていた。
煙草を吸おうと考えたのもその一つだ。煙草と言ったって、タール1mgの超軽いやつだ。本物の煙草喫みからしたら「空気吸ってる」ぐらいにしか感じないだろう。でも僕には十分だ。これ以上強いのを吸うと、頭が痛くなって、吐き気を催す。だから1mgでいいんだ。
実は僕、二十六歳の時から三十六歳まで煙草を吸っていた。その時も1mgのキャスター1を吸っていた。なんでやめたかというと、恐ろしいほど強烈な、喘息の発作を引き起こして、救急病院に運ばれたことがあるんだ。この時は本当に死ぬかと思った。一歩歩くごとにとてつもない息切れを引き起こして歩けない。それなのに会社に行っちゃって、仕事をしてしまい、最後に重い書籍の入ったダンボールを三つ運んでしまってジ・エンド。全く身動きが取れなくなって、元妻(当時は妻)に支えられて救急病院に行ったのだ。レントゲンを撮り、聴診器で診察を受けた結果が喘息。原因は猫と思われた。その猫が今も家にいるアビだ。アビが来てから僕にはろくなことが起きていない。もしかしたら呪われた猫かもしれない。その夜は喘息治療の点滴を打って家に帰った。夜中の二時を過ぎていた。それから一週間、仕事を休んだ。
そんなわけで約十年間、煙草はやめていた。それを急に吸いだすと言ったので元妻はいい顔をしなかった。けれど僕の、
「何かを変えたい」
という気持ちに負けて、喫煙を許可した。
最初は昔吸っていた、キャスター1を買っていたのだが、何の味もしない。まさしく空気を吸っているみたいなので、キャビン1に変えてみた。これがビター系で旨い。僕はどんどん喫煙者の道を突き進んだ。本数は日に日に増えていった。
それで、心に何か変化が起こったかというと、特に何も変わらなかった。単に喫煙依存症になってしまっただけだった。概して僕は依存症になりやすい。遠くはデパス依存症。近くは元妻依存症。そして喫煙依存症だ。僕は気が弱い。それは病的だ。何事も自分一人ではできない。他人の力を借りなければならない。今までもそうやって生きてきた。一人でなんでもやろうとしたら、躁病になった。一人でなんでもやろうとしてもいけないのだ。歯がゆい男である。僕は。
結局、喫煙の習慣だけが残って、今日もベランダで一人寂しく、煙草を吸っている。隣近所に煙と臭いが飛んでいかないかと気にしながら。いつか来るであろう、クレームに怯えつつ煙草を吸う。実際にクレームがきたらどうしよう。平謝りして、煙草をやめるのか。開き直って吸い続けるのか。その時が来なければわからないが、精神に悪影響を与えることだけは確かだろう。なんで、煙草なんか吸いだしちゃったんだろう。そう、自分を責めながら、今日もプカプカと煙草を吸っている。いっそ、肺がんで死んでしまえばいいと思う。そういう気持ちが僕に煙草をやめさせない。
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