いろいろな薬を試す

 クリニックに行って「鬱転した」と伝えても先生はとても慎重だった。躁転したのが、抗鬱薬のせいだったからだと思う。しかし、僕の気持ちの落ち込みは一向に治らず、ついに抗鬱薬の投入となった。

 最初に処方されたのはエビリファイという薬だった。後で調べてみるとこの薬は抗鬱薬ではなく、抗精神病薬であった。割と新しい薬である。これが、全く効かなかった。飲んでも飲まなくても一緒という感じである。どうも抗精神病薬には相性があるらしい。人間の脳の難しいこところである。ちなみにエビリファイ、今も飲んでいるが、本当に効き目を感じられない。なんで飲んでいるかが分からないけれど、処方されているからやむなく飲んでいる感じである。ちなみに先生も病院も今は変わっている。それについては後述する。


 次に処方されたのはリフレックスという薬である。これは精神面には聞いたのだが、副作用が大きすぎた。まず眠気がひどい。朝起きられず、昼もダメで、夕方やっと起きられる感じである。次に夜中に手足が脱力する。これは気持ち悪いものだ。三に太る。ただでさえ、体重三けたに達しようとしているのに、これは困る。結局、体質に合わないということで服用は中止になった。


 三番目に処方されたのは、サインバルタ。これも抗鬱薬である。この薬は落ち込んだ心を持ち直すというより、やる気を出すというのが先生の触れ込みだった。ところが、いくら服用してもやる気は出てこない。「まただ……」と僕は激しく失望した。エビリファイと一緒である。体質というか脳に合わないのである。結局これもおジャンになった。


 四番目の薬はジブレキサという薬である。これも、エビリファイと同じ、抗精神病薬だ。僕はあまり期待していなかった。だがこれが効いた。心がフラットになり、布団から外に出られた。やったと思った。このまま行けば、社会復帰も近いなと感じていた。しかし、しかしである。

 元気になって外を出歩いていた時である。スマホに着信があった。電話番号だけの通知だったので、僕は無視した。すると留守電が入っている。それを聞いてみる。


——クリニックの●●です。先日、血液検査をした結果、血糖値が500以上あります。ジブレキサの服用をやめてください。


 そういえば、この前クリニックに行った時、血液検査をしたっけ。それにしても血糖値500以上ってなんだ? 僕は家に帰ってインターネットでジブレキサを調べた。なんと、副作用として血糖値が上がるので糖尿病患者への投与は不可と書いてある。僕は、一度血糖値の値が下がって薬の服用を止めていたが、もともと、血糖値が高かった。それを先生に言っていなかった。せっかく、効果があったのにこんなことでつまづくとは。僕はガックリして、内科のクリニックへ行った。血糖値は薬ですぐに下がったが、ジブレキサは二度と処方されなかった。


 それからしばらく、抗鬱薬は処方されなかった。おかげで僕は布団に逆戻りだ。毎日、死んだように暮らし、死ぬことばかり考えていた。実際、首を吊ろうと考えて押し入れにあった洋服掛け用の太い鉄棒にマフラーやネクタイを縛って首吊り自殺を図ろうとしたこともある。でも、できなかった。いざ、やろうとすると体がすくんでしまって動けない。足をちょっと動かせばいいのに動かない。僕は自分の根性のなさに腹が立った。弱虫毛虫、はさんですてろ。


 そういうことがあったことを精神科のクリニックの先生に伝えると、アモキサンという薬が処方された。アモキサンはサインバルタと同じくやる気の出る薬だった。ただし、古くからある種類の薬なので副作用も多い。喉の渇きや便秘などである。初めは二錠服用で処方されたが、あまり効き目がないので三錠に変更になった。そしたら少し、効いてきた。散歩をしたり、軽いストレッチができるようになった。その代わり、夜、眠れなくなった。そのことを次のクリニック受診の際に、同行した元妻が、先生に言ってしまった。すぐに、薬は二錠に減らされた。先生は躁転が怖くて仕方がないのだ。僕はまた、やる気を失った。お布団がおいでおいでと僕を待っている。そそくさと布団に入る僕。そんな生活がだいたい二年続いた。

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