精神科の門を叩く
そうして、新しい書店で働いていたのだが、精神的にはとても不安で、心があまり、休まらなかった。それは同僚にちょっとヘンテコな人間が三人いたからである。性別、年齢とも違えど、それらの人に共通して言えることは、自己中心で他人の気持ちを慮らないということである。こっちが相当気をつかっていることに気がつかない。ズケズケとした物言い。その一つ一つが心に矢のように突き刺さる。心の調子が悪くなる。
一人は契約社員で、自分の決めたルールを徹底的に他人にも守らせるタイプの人間だった。そのため、下についたアルバイトがどんどん辞めていく、潰し人だった。僕はこの人としゃべったり、仕事をするのが嫌で嫌で仕方がなかった。けれど、向こう様はそんなこと屁とも思わなかったようで、どんどん喋りかけてくる。だから表面的にはうまくやっていた。でも心の冷や汗は一リットルは出ていたと思う。
後の二人はアルバイトで、僕よりずっと年下だったのだが、先輩に、
「なんでこんな人採用したの?」
と思わず聞いちゃうほどひどい人間だった。自分に異常に自信を持っている。人の言うことを素直に聞かない。余計なことをする。分からないことを素直に聞かない。人を小馬鹿にする。こいつらに接していると、心の冷や汗が十リットルは出ていた。脱水症になってしまう。あまり思い出したくないのでこれ以上詳しくは書かない。
冷や汗が出れば出るほど、心の調子が悪くなる。僕は、
「デパス、増えないかなあ」
とありえないことを思いながら心療内科に行った。
心療内科の先生に心の調子が悪いと言ったら、
「もうここでは面倒見られない。精神科に紹介状を書くからそっちに行きなさい」
と言われた。
(精神科かよ。俺もついに来るところまで来たな)
とその時は思った。でも、もっと行き着くところまで行くのだが……。
さすがに精神科は敷居が高い。僕は一人では不安なので、妻に同行してもらって、精神科へ行った。変な言い方だが、なかなかの盛況だ。僕は診療室からどんな先生が出てくるか見守っていた。
そしたら、診療室からスキンヘッドでペイズリー柄のシャツを着た人が出てきた。
(まさか、あの人が先生じゃないだろうな。怖いなあ)
と思っていると、しばらくしてその人が、僕を呼んだ。ぎゃー、やっぱりあの人が先生だったよ。僕は恐れおののいたが、いざ診療室に入って話してみると、見た目と違って口調は落ち着いて優しい雰囲気だった。
紹介状には僕の病名が鬱病だと書いてあった。しかし、その先生は僕の病名を、
「鬱病ではありません」
と断言した。そして僕のことを、
『社会不安症』
だと明言した。あれ? パニック障害はどこに行ったのだろう。
それから薬による治療が始まったのだが、デパスに勝る薬なしとでも言うように、どの薬を飲んでも、僕の重たい心は治らなかった。そして、先生は禁断の薬を出してしまう。
『トリプタノール』
『パキシル』
トリプタノールは史上最高の抗鬱薬と呼ばれている。なんで? 僕は鬱病ではないんじゃないの。と僕は思ったが、知らないふりをした。でも、この時一言、言っておけばよかった。僕はおとなしい患者すぎた。性格の問題だ。
パキシルも効き目が強いことで有名である。正直、評判は良くないってインターネットにはあったと書いたら製薬会社に悪いか?
それから、その先生とは、約三年ほど付き合った。その途中、先生は独立し、自分のクリニックを持った。僕も転院し、そこに通っていた。
この先生の失敗は一にも二にも、僕に、パキシルとトリプタノールを処方したことだ。この二つが僕を躁転させた一因であることは間違いない。恨んじゃいないが、もう顔も見たくない。
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