デパスに頼る

 デパスを服用すると、心がリラックスして、同時に体のこわばりもなくなっていくように感じる。実際、肩こりなどにも処方されている薬のようだ。僕はデパスが手放せなくなってしまった。処方上は朝夕、飲むことになっているが、僕は外に出かける時と発作が襲ってきた時に頓服として使うようにした。パニックの発作は、不定期に襲ってくる。その時、服用できなくては困る。だから、なんでもない時は飲まないようにしていた。

 そのうち、前の会社の先輩から「アルバイトで働かないか」と声がかかり、一も二もなく飛びついた。その頃はもう、正社員での再就職は諦めていた。仕事は書店での勤務である。新規の店舗だった。

 アルバイトは僕以外、書店経験のない人たちだったので先輩にはたいへん重宝された。担当部署は主に商品管理と言って、書籍や雑誌の検品や返品を行う部署だったのでそれほど人と接する機会も少なく、気が楽なところであった。

 だが、すぐに事情が変わってきた。雑誌を担当している社員が不慣れで、全く管理できない。そこで、店長であった先輩から、

「雑誌も見てくれないか」

と頼まれた。雑誌を担当した経験もある僕は、それを引き受けた。だがそうすると、接客をしなければならない。最大の問題はレジに入ることである。とても緊張してしまってうまくできない。他人からは、落ち着いているように見えるているそうなのだが、僕のチキンハートは火のついたように太鼓を打っていた。心臓、バクバクである。


 ある日、気がついた。

「レジに入る前にデパスを飲めばいい」

 デパスの効き目は服用後、三十分くらいで出てくる。だからレジに入る三十分前に服用することにした。これがいけなかった。一日にレジ時間が二回あると、それだけで二錠服用することになる。余裕がなくなる。なのでレジのガントチャートを作っている人に、

「レジ時間はまとめて欲しい」

と要望を出したのだが、それをすっかり忘れられて二度、レジに入るようになっていたりする。そこで僕は、悪知恵を使って、ガントチャートを操作したりした。それでも日曜日など繁忙な時はどうしても複数回入らなくてはならない。三度入る時もある。デパスの容量オーバーになってしまう。それでも、デパスなしにレジに入ることはできなくなってしまっていた。

 仕方がないので、病院で先生をうまく導き、デパスを一日三錠出してもらえるようにした。これが規定の最大量だそうだ。これで、少し安心した。

 この段階でもう、デパス依存症になってしまっていた。でもデパス自体に罪はない。問題は薬に依存してしまう、僕の心の弱さだ。これが後々響いてくる。


 デパスとともに依存していたのが、頭痛薬である。その頃はなぜか頻繁に、頭痛がして、頭痛薬をいっぺんに十箱まとめ買いしていた。頭痛薬は胃に悪い。だから胃薬も大量に買っていた。ストレスが原因なのかなあ。僕は社会に出てはいけない人間なのかもしれない。ストレスに弱すぎるのだ。頭痛薬は最初、バファリンルナ、生理痛に使うものなのだが、それが胃に優しいので、これを服用していた。だが値が張る。そうしたら、同僚のアルバイトで、僕と同じく頭痛持ちの人が、

「ノンフィーブと言うのが安い」

と言うので、激安ドラックストアで聞いたら六十錠入りで五百円だという。これは安いと大量買いした。胃薬はガスター10のジェネリック、ベッセンをこれまた大量購入。本文とは関係ないが僕は十二指腸潰瘍に小学生の頃からなっていて、この前、胃カメラを飲んだら、十二指腸が変形しているそうだ。こっちも一生涯付き合わなくてはならない病気である。

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