運悪く異世界から転生してきた奴に「お前はしょせん村人Aだ」と教えてあげる仕事が辛い~魔王Aの場合~
「異世界転生反応、予測確認。座標を送ります」
オペレーターが、通信機を通じて、話しかけてきました。
「……わかりました。向かいます」
寝転がっていた男は、起き上がり制服を着て、送られた座標に向かって移動を開始しました。男の名前はカタリ。数年前(地球の時間間隔で数年前)に地球の日本からやってきた異世界転生者です。
今日も、カタリの仕事が始まります。
カタリは、小高い山の頂上にやってきました。下界を見下ろすと、大きな都市が見えます。異世界転生反応は、こうした町の外で起こることが多いのです。というよりは、異世界転生反応が多い場所を避けて街が作られたと言ったほうがいいかもしれません。
「今回の出現予測座標は空中です。頭上に気をつけてください」
「はい」
オペレーターの声に、カタリは視線を上に向けます。いきなり自分の頭の上に落ちてこられてはたまりません。
「転生者の識別は?」
「出現予兆から、魔法文明系の可能性が高いです」
「魔法文明系ねえ……気難しいやつじゃないといいんだけど」
この世界には、様々な世界から、転生者や転死者がやってきます。カタリは元地球人ですから、科学文明系に分類されます。同じ文明だと、話が通じやすいのです。
カタリがぼんやりと空を眺めていると、真上に魔法陣が現れました。
「来やがったな」
カタリは数歩さがり、転生者を迎える体制に入ります。すると、魔法陣から人型の生物が吐き出され、地面に墜落してきました。
「ぐぎゃっ!」
転生者は悲鳴を上げます。
「転生生物、転生確認。サイズ1の人型ですね、たぶん」
カタリが報告すると、転生者は立ち上がりました。
「なあ、言葉はわかるか?」
カタリは転生生物に問いかけます。知能が高ければ、この世界に来た段階で、言葉が通じるようになっているはずだからです。
「む、キサマは誰だ?ワシは魔王だ!頭が高いぞ!」
転生生物が答えます。協力的かどうかはさておき、会話できる知性はあるようです。
「……訂正します。サイズ1の魔王です」
カタリが訂正の報告をします。
「なにをごちゃごちゃ言っておる?ところで、ここはどこだ?」
自称魔王は、周りを見ます。
「それじゃあ説明しよう。ここは、お前にとっての異世界だ」
「異世界か、なるほど。ワシを倒すとかほざいとった勇者とやらも、異世界から来たとか言っとったが、ここがそれか?」
「あー、いや、違う……と思う」
「『と思う』とは何じゃ!?いいかげんなことを言うとただでは済まさぬぞ!」
この魔王は、随分と怒りっぽいようです。というよりも、自称魔王というのは、基本的に怒りっぽいものなのです。カタリも、何人かの自称魔王の異世界転生に立ち会ったことがありましたが、大抵はそういう性格でした。
「まあ落ち着いてほしい。そもそも、自分が一度死んだということは、わかっているか?」
「死んだだと!?このワシがか!ハッ!笑わせるわ!」
「死んだから、この世界で生き返ったんだよ。異世界転生ってやつだ。最後の記憶、なんだ?」
カタリはいつもどおり冷静です。
「バ、バカな。いや、だが確かに、勇者と戦い、聖なる力がどうのこうのとか言っとったが、まさか、ワシは……」
「そうだ。一度死んだんだよ」
「嘘だ!無限の力を持つワシが、死ぬなど!」
取り乱した魔王は黒いマントを翻し、杖から雷を放ちます。雷は、丘の上の木を焼き、カタリも炭にしました。
「どうだ……これほどの力よ。ワシが死ぬはずなど……」
「いやだから死ななきゃこの世界にこないんだよ」
カタリが炭から復活します。
「!?……ははあ、幻か」
「いや、実体だよ。すげー痛かった」
カタリはいつもどおり冷静です。この仕事には、こういった危険がつきものです。ですから、異世界転移対応局転生生物課の回収作業員であるカタリ達には、協力な生命保護処理が施されています。
「転生者、攻撃行動を確認。危機レベル2、回収作業員の死亡です」
カタリは、淡々と通信を行います。そして、魔王に向かって言いました。
「いい加減に認めてくれよ。一度死んだってことを。それと、この世界では、あんたは無敵ではないってことを」
カタリを見た魔王は同様しましたが、それでも意地があります。
「ふ、ふん!キサマがワシの魔法を耐えられたとしても、あの街はどうだ!」
魔王は、眼下に広がる街に向かって、杖を振り下ろしました。すると、街の上に巨大な火の玉が現れました。
「フハハ!どうだ!見ろ!街1つを滅ぼすワシの力を!」
ですが、巨大な火の玉は、町に落下する途中で、消えてしまいました。
「言っただろう。あんたはこの世界では無敵じゃない」
「バカな!なぜだ!」
「簡単な話だ。この世界には、あちこちから異世界転生者がやってくる。あんたくらいの魔法使いは、いくらでもいるってことだ」
「バカな!バカなバカなバカな!!」
魔王はうろたえて杖を落としてしまいます。
「そして、町への攻撃は危機レベル3、強制連行だ」
カタリがそう言うと、檻が突然現れて、魔王を閉じ込めてしまいました。
「その無敵の力とやら、魔力配送課で思う存分振るってくれ。この世界のためにな」
魔王は、檻を破ろうとめちゃくちゃに魔法を放ちます。ですが、その魔法は、すべて降りに吸い取られてしまいます。
「ワシは魔王だ!世界の支配者だった!なのに何だこの仕打は!」
「お前は支配者”だった”ってことだよ。自分でわかってるじゃないないか、ただの”魔王A”さんよ」
カタリが転送装置を起動すると、魔王を閉じ込めた檻は、町へと転送されました。自称魔王は会心するまで、魔力を供給する資源として丁重に扱われることでしょう。
「このワシが……このワシがァーッ!」
魔王の転送は完了しました。カタリは、市の痛みを思い出しながら、ぽつりとつぶやきました。
「これだからこの仕事は嫌なんだ」
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