運悪く異世界から転生してきた奴に「お前はしょせん村人Aだ」と教えてあげる仕事が辛い~ドラゴンAの場合~
「異世界転生反応、予測確認。座標を送ります」
オペレーターが、通信機を通じて、話しかけてきました。
「……わかりました。向かいます」
寝転がっていた男は、起き上がり制服を着て、送られた座標に向かって移動を開始しました。男の名前はカタリ。数年前(地球の時間間隔で数年前)に地球の日本からやってきた異世界転生者です。
今日も、カタリの仕事が始まります。
カタリは、広い砂漠にやってきました。遠くの方に、陽炎でぼやけた街が見えます。異世界転生反応は、こうした町の外で起こることが多いのです。というよりは、異世界転生反応が多い場所を避けて街が作られたと言ったほうがいいかもしれません。
「異世界転生反応、予測拡大。サイズ3の可能性があります」
「サイズ3?増援を要求します」
オペレーターの声に、カタリは答えます。サイズ3ともなれば、万が一の時にカタリ一人では対応できない可能性があります。
「増員要求を承認。増援を急募します」
「転生予定時間までには?」
「おそらく間に合いません。危険反応がある場合は武器の使用を許可します」
オペレーターの言葉を聞いて、カタリは腰の銃を確認しました。もっとも、その銃が通用する相手だと良いのですが。
カタリが砂漠に到着してから1分も立たないうちに、目の前の地面に紫色の穴が開きました。
「でかいな。推定直径は5メートルってところか。少なくともサイズ2はくるか?」
カタリは、誰に話しかけるもなくぶつぶつ言います。こうしていると心が落ち着くと、カタリは思っているのです。カタリが数歩後ずさりします。すると、紫色の穴から、転生生物が少しずつせり上がってきました。頭部には、尖そうな牙と角があります。カタリがさらに数歩後ずさりします。転生生物の胴体がせり上がってきました。大きな翼が有り、表面にはこれまた硬そうな鱗で覆われています。カタリが腰の銃を構えます。転生生物の全身が現れます。4本の足には鋭い爪を持ち、たくましい尻尾もあります。立ち上がったその高さは、2メートルくらいでしょうか。手懐ければ、乗ることもできそうですが……。
「転生生物、転生確認。サイズ2のドラゴン型です」
カタリが報告すると、紫色の穴が閉じました。転生生物は、カタリを見下ろしました。
「なあ、言葉はわかるか?」
カタリは転生生物に問いかけます。知能が高ければ、この世界に来た段階で、言葉が通じるようになっているはずだからです。
「お前は誰だ?私はどうしてここにいる?」
転生生物が答えます。どうやら、それなりに知能はあるようです。カタリは少し安心しました。前回ドラゴン型と遭遇した時には、いきなり火を吹いてきたのです。それに比べれば、今回は今のところとても良い状況です。
「俺はカタリ。わからないことが色いろあるだろうから説明したい。そのために幾つか質問をしてもいいか?」
「よかろう」
転生生物は答えます。この世界では、相手がどこの異世界から来ようと、すでに解析されている言葉なら自動的に翻訳してくれます。つまり、この転生生物のいた異世界からこの世界に転生した事例が、過去にあるということです。
「理解が早くて助かる」
カタリの言葉遣いは乱暴ですが、それも相手が理解するときには自動的に丁寧な言葉に翻訳してくれます。便利なものです。
「まず、お前がさっきまでいた場所はどこだ?」
「サガナシュラだ。ここからはどれくらい離れている?」
「サガナシュラな。ちょっとまってくれ」
カタリは異世界カタログを検索します。
「”地名:『サガナシュラ』…該当結果2569界”」
異世界カタログから返答がありました。
(思ったより多いな。面倒なことになった)
カタリはがっかりしました。転生生物にであった時にまず最初に行うことは、元いた世界の特定です。これをしておくと、相手の常識がわかるので、その後の話がとてもスムーズに進むからです。
過去に一度、カタリは世界の特定を失敗し、非常に面倒なことになったことがありました。あれは思い出したくもない経験です。
「えーと……」
カタリは次の質問を考えます。
「で、ここはサガナシュラからはどれくらい離れている?」
「だいぶ離れているというか、別の世界というか」
「別の世界?カカアルシャか?もしやヒョラではあるまいな?」
(よし、新しい情報だ)
カタリは再び異世界カタログを検索します。
「”地名:『サガナシュラ』『カカアルシャ』『ヒョラ』…該当結果728界”」
カタログから返答がありました。だいぶ減りましたが、まだたくさんあります。
「いや、どちらでもない」
「ではどこというのだ?まさかアカモニの外だというのか?だとしたらなぜハザの声が通じる!?」
転生生物の苛立ちが見えてきました。サイズ2の転生生物を怒らせたことは、カタリも何度か経験がありますが、増援が来ない今、それはなるべく避けたい状況です。
「えーと、それはだな……」
カタリは返答をごまかしながら、再び異世界カタログを検索します。
「”地名:『サガナシュラ』『カカアルシャ』『ヒョラ』『アカモニ』、言語『ハザ』…該当結果3界:『アカモニ』『アカモニア』『アカモニアニ』”」
カタログから返答がありました。ここまでくれば、もう少しです。カタリは3つの異世界の概要を確認します。
「”『アカモニ』…異世界概念:有、『アカモニア』…異世界概念:無、『アカモニアニ』…異世界概念:無”」
カタログから返答がありました。カタリは心のなかで祈りながら、質問をします。
「ここは、異世界だ。お前のいた世界とは別のな」
ここで、異世界のことを転生生物が知っていれば、元いた世界がほぼ確定します。ですが、回答は無慈悲なものでした。
「”異世界”?なんだそれは?」
これにはカタリも今日一番のがっかりです。この転生生物には、まず異世界のことから説明しなければいけないからです。
「えー、異世界というのは……」
カタリは異世界を説明するためのマニュアルを読み上げながら、異世界カタログを確認します。
「”『アカモニア』…転生概念:無、『アカモニアニ』…転生概念:無”」
カタリの今日一番のがっかり顔が更新されました。
「……なるほど、異世界というものについてはよくわかった。で、私はなぜここにいる?」
転生生物は、ひとまず落ち着いたようです。ですが、ここからさらに、転生(つまりこの転生生物が元の世界で死んだということ)を説明しなければなりません。
カタリはさらに異世界カタログを確認します。
「”『アカモニア』…死亡確認:侮辱、『アカモニアニ』…死亡確認:侮辱”」
カタリの今日一番のがっかり顔が更新されました。
(まあ、転生概念が無い時点で、これは覚悟していたが、しかし面倒だ。あーもう)
「ええと、気を悪くしないで欲しい」
カタリは、覚悟を決めて言葉を続けました。
「お前は一度死んだ」
「何を言うか!?私はこうして生きているではないか!?それを死んだだと!?」
転生生物は今にもカタリに噛み付きそうです。カタリは噛みつかれて死んでも魔法の力で生き返らせてもらえますが、死の苦痛はできれば避けたいものです。過去に死んだことが一度だけありますが、あの時の痛みは二度と味わいたくありません。
「そうだ!たしかにお前は生きている!いや、生き返ったのだ!転生によってだ!」
カタリは、唸る転生生物の音にかき消されないように、大声で叫びます。
「なるほど、生き返ったというのはわかった。だが、”転生”とは、なんだ?」
転生生物は、カタリの話を聞こうとするようです、この転生生物の知的好奇心が高かったことが、カタリを救いました。
「えー、転生というのは……」
カタリは転生を説明するためのマニュアルを読み上げながら、祈るように異世界カタログを確認します。
「”『アカモニア』…蘇生概念:無、『アカモニアニ』…蘇生概念:有”」
カタリは心のなかでガッツポーズを取りました。
(よおし!やっと元の世界が見えたぞ!今回はだいぶ長かったな)
「なるほど、異世界で生き返ることを転生というのだな。やはり私はあの戦で死んだのだな」
「理解が早くて助かる」
カタリは話しながらも、異世界カタログの確認を続けます。
「”禁則事項検索結果:異世界『アカモニアニ』、種族『ドラゴン型』…尻尾の形(羞恥禁則)、角の形状(羞恥禁則)、種族の言及(尊厳禁則)……”」
様々な禁則事項が列挙されます。おおよそ20個くらいでしょうか。カタリはそれを頭に叩き込みます。
(禁則事項が多いぞくそ。一言一言考えないと行けないタイプじゃねえかよ、あーもうめんどくせえ)
「よし、異世界転生について理解してもらったところで、この世界について説明しよう。まず……」
カタリは、増援が来るのを待ちながら、慎重に言葉を選びながら、転生生物にこの世界について説明を続けます。そして、内心、こう思っていました。
(これだからこの仕事は嫌なんだ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます