運悪く異世界から転生してきた奴に「お前はしょせん村人Aだ」と教えてあげる仕事が辛い

運悪く異世界から転生してきた奴に「お前はしょせん村人Aだ」と教えてあげる仕事が辛い~青年Aの場合~

「異世界転生反応、確認。座標を送ります」

オペレーターが、通信機を通じて、話しかけてきました。

「……わかりました。向かいます」

寝転がっていた男は、起き上がり制服を着て、送られた座標に向かって移動を開始しました。今日も、仕事が始まります。

 ……そこは、森の中でした。1人の青年が、倒れていました。制服の男が駆けつけて、声をかけます。

「おい、起きろ」

「う、うん……」

倒れていた青年が起き上がり、周りを見ます。

「ここは……どこだ……?」

「気がついたか。それじゃあ、説明しよう」

制服の男が言いました。

「説明って、なんだよ……?」

「今さっき、あんたが聞いただろう。『ここはどこだ?』と」

制服の男は言いました。

「た、確かにそうだけど、いきなり説明って言われても……」

青年はたじろぎます。

「いいから、まずは聞け。この世界のルールを説明しようと言っているのだ」

「この世界……?」

青年は、この世界という言葉に、強く反応しました。

「そ、それじゃあ!やっぱりここは、異世界なんだな!?や、やったぞ!ついにやったんだ!これで俺も……」

青年は、希望に満ちた目で制服の男を見ます。

「いや、お前はしょせん村人Aだ」

青年の期待を打ち砕くように、制服の男が言いました。

「へ……?」

青年は、予想外の答えに、固まりました。

「いいか、よく聞け。この世界には、数年前から、異世界人がやってくるようになった。しかも、いろいろな世界からだ。だから今、この世界は、異世界人で溢れかえっている。魔法、科学、肉体、それらが特化した世界からやってきた奴も多い」

あっけにとられる青年の前で、制服の男は説明を続けます。

「見たところ、お前には何もと特別な力は無いようだ。服装から判断するに、科学技術は発展途上、肉体的有意も見当たらない。魔法が使えるようにも見えない」

「……」

青年は、半ば放心状態でその言葉を聞いていました。

「……待てよ。ここは、本当に異世界なのか?」

青年が、口を開きました。

「ああ、お前にとっては、異世界だ」

「異世界って言ったらよお、普通は、あれだろ、ほら……異世界に来た奴は、特殊な力を持って……」

「残念だが、この世界では、それはない。」

制服の男は、淡々といいます。

「う、嘘だ!ここが居世界なら、なんで俺の言葉がわかるんだよ!?おかしいだろ!?」

「分かりやすく言ってやろう。異世界人とも言葉が通じるのが、この世界での法則だ」

「じゃ、じゃあ、なんでお前は、そんなに普通の人間なんだよ!?異世界なんだろ!?人間じゃない奴は居ないのかよ!?」

「俺も、お前と同じ世界からきた異世界人だ。色々あって、今はこの仕事をしている」

制服の男が答えます。

「仕事って……なんだよ……」

青年が、制服の男に問いかけます。

「……運悪く異世界から転生してきた奴に『お前はしょせん村人Aだ』と教えてやる仕事だ」

制服の男は、淡々と答えました。

「そんな……そんなバカな!俺は、元の世界が嫌で……自殺までしたっていうのに!」

「安心しろ。元の世界に戻る方法は無い。お前はここで選ぶんだ。俺に従い、この世界の住人として生きていく手続きをするか、野垂れ死ぬかだ」

「い、嫌だ!俺は……俺は……うわあああ!」

青年は走りだしました。

「それがお前の選択か」

制服の男は、青年を追いませんでした。いえ、追う必要はなかったのです。走りだした青年は、すぐに異世界からやってきたトロールに捉えられてしまったのですから。

「嫌だ……嫌だああああ!助けてくれえええ!こんな……嫌だ!嫌だああああ!」

青年の悲鳴が森に響きます。

トロールは、制服の男を見ると、そそくさと逃げ出していきました。

「まったく、『この世界に帰属しない異世界人は保護対象外』ってのは、嫌な決まりだよ」

制服の男はそう言うと、通信機を取り出して、話し始めました。

「異世界人は要求を否認し逃走。トロールに捉えられ死亡。報告は以上です」

「報告を受理しました。お疲れ様です。帰還してください。」

オペレーターが応答します。

「わかりました」

制服の男はそう言うと、通信を切り、つぶやきました。

「……これだからこの仕事は嫌なんだ」

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