(15)
僕の心臓が、鼓動を早めたのがわかった。
こいつは、なにを言っているんだ?
柚葉が、僕に近づいてきた。
「もう、時間がないよ。さあ、ひと思いにやっちゃって?」
だって、そんな。
「わたしは、もう言いたいことは全部言い切ったから」
もう一度、僕に。
「だから、もう思い残すことはないよ」
柚葉を、この手で殺せというのか。
「いやだ、やりたくない!」
「淳平くん! さっきわたしが言ったこと、覚えてる?」
「あ…………」
「わたしは、あなたのために、これからもう一度死ぬの」
「でもっ!」
「理由ができたんだよ! あなたを元の世界に戻すために、わたしはいなくなるの」
「…………俺には、無理だ」
世界を照らす光が、海の向こうに飲み込まれていく。
次の瞬間、柚葉の唇と、僕の唇が、触れ合った。
柚葉のぬくもりが、僕の体を包み込んだ。
これまでの、柚葉との思い出が脳内を駆け巡る。
初めて会ったとき、父親の後ろに隠れていた柚葉。
「」
幼稚園の時に、一緒にお風呂に入った記憶。
「」
小学校の時の突然の拒絶。仲直り。
「」
中学校、陸上部で、グラウンドを走り回った。
「」
逢坂が、転校してきたとき。その後の事。
「」
二人で一緒の高校に行くために、必死で勉強した日々。
「」
合格発表の前に、二人、宿で過ごした記憶。
「」
――――そして、今日の、楽しかった時間。
それは、永遠にも思える時間で。
「ありがとう」
その唇が離れたあと、柚葉は小さく、そう呟いた。
僕は、短剣を手にとった。
そして、それを。
柚葉の胸に、突き刺した。
瞬間、まばゆい光が辺り一面を覆い隠した。
意識が遠のいていく。
僕は、そんな終わりゆく世界で、柚葉の事を抱きしめた。
この記憶を、忘れないように、刻みつけた。
柚葉は、最後に。
「がんばって」
そう言ってくれた気がした。
ああ、頑張るさ。
そして、絶対に。
「柚葉の生きた意味を、作り上げてみせるから」
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