(13)

それから僕たちは、ゲームセンターで遊んだ。手始めに、クイズゲーム。僕の圧勝だった。

それにむくれた柚葉は、「雑学はできないけど、ダンスならできるもん!」と、ダンスゲームの筐体を指差した。なぜか勝負を挑まれ、僕は見たこともない踊りを初見でやらされるという辱めを受けた。終わったあとに、「あはは、イカみたいだったよー」と言われたが、そんなことより、人前であんなに堂々と踊れる柚葉が心底恐ろしかった。振り付けも難しかったし。

メダルゲーム。子供の頃には、近くのスーパーにあった小さなヤツが、フロアにびっしりと並べられているのが見えて、テンションが上がったが、全部を遊んでいたら日が暮れてしまいそうだったので、少しだけにしておいた。

クレーンゲームもやった。ムキになってしまい、九回目でようやく取れた時には、思わずハイタッチをしようとした。

だが、柚葉と僕の手は音も立てずお互いをすり抜け、代わりに顔と顔が急接近した。そんなことで、また彼女も、自分も死んでいるのだと実感が湧いてきて、胸が締め付けられるようだった。

スマホの上部には、白い文字で15:25分とあった。



「まだ時間あるし、買い物に付き合ってもらっても、いいかな?」

[ああ、大丈夫だ]

柚葉の買いたいものは、意外にも、家具売り場にあった。

「お母さんに、プレゼントしなきゃ、って思ってね」

それは、包丁だった。どうやら今使っている包丁が刃こぼれしかけているから、せっかくなら新しいものを買ってあげようということらしかった。なるほど、だからあの梨は切り口が乱れていたのか。僕は心の中で、納得した。

時刻は、午後四時をちょうど過ぎたところだった。


僕は、だいぶこの会話形式に慣れてきていた。わかったことは、口で話している時より、文字の方がだいぶ饒舌に、積極的になれるということ。もう一つは、傍から見ると、僕が柚葉を無視し続けているように見えるということ。もっとも、この空間ではボクら二人以外のことは考えなくてもいいから、関係ないのだが。

僕がそんな自己分析を脳内で展開している間、柚葉は随分前の方に行ってしまったようだ。その後ろ姿を見つけ、追いかけようとしたその時、向こう側に知り合いを見つけ、足が止まった。

迂回して、声の聞こえる所まで移動し、物陰に隠れる。

「久しぶりやなあ、柚葉ちゃん」

――――逢坂だ。髪は相変わらず汚い金色に染まっていて、服装もチャラチャラしている。あいつを見ていると、中学時代のことが思い出されて、思わず吐きそうになった。

でも、柚葉はまったく怯えていなかった。それどころか、少し笑っていた。まるで、何かを決意したあとみたいに。

「うん、久しぶり」

「よくもまあ、やってくれたなあ」

逢坂は、楽しそうに言ったが、表情は全然笑っていなかった。

「んー? なにがー?」

すると逢坂は、柚葉を壁際に押しやって、壁に両手をつけた。

「ワレ。わしを馬鹿にすんのも大概にせーや」

僕は駆け出した。今度こそ助ける。それだけを考えていた。でも、柚葉は僕の方を見て、左手の手のひらをこちらに向けた。

「こないで」

そのセリフは、逢坂に対してではなく、僕を静止させるためのものだった。

「今更ビビってるいうんか? さっきの威勢はどうしたんや」

「ごめんなさい。これをあげるから許して」

そう言って柚葉はピンクの鞄を開けて、何かを探し始めた。

その様子を逢坂も、僕も、黙って見ていた。

やがて、その手が鞄から取り出される。

「はい、どうぞ」


そう言った柚葉の手に握られていたのは。

――――むき出しの包丁だった。

そして柚葉は、それを。

逢坂の心臓めがけて、突き出した。

「切れ味バツグン!」という宣伝文句で買ったその包丁は。

逢坂の胸を、いともたやすく、貫通した。

看板に偽りはなかった、というわけだ。

逢坂が倒れ込んだ。

柚葉は、僕の方に走ってきた。

「淳平くん! ちょっと目を瞑って!」

僕は急いで、スマートフォンを取り出した。

「いいから早く!」

急かされるままに、目を瞑る。

「『ミナカミ』さん! やっちゃって!」

聞き覚えのあるワードが、柚葉の口から放たれた次の瞬間。

とてつもない冷たさが、僕の全身の感覚を攻撃した。

僕は、この感覚を知っている。と、いうことは――――。

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