(10)
公園についた。
この公園は、市内でも一番大きな公園で、真ん中に大きな湖があるのが特徴だった。一〇時半過ぎという時間のせいもあってか、公園には誰も人がいなかった。僕は湖のほとりにある、ベンチへ向かった。ここは丸い形が湖にせり出しているような形で、ここの周りだけロープがなく、野鳥などと戯れることができるらしい。
僕は、湖の前で、靴を脱ぎ始めた。湖は、太陽の光を受け、一瞬ごとに見事な光のコントラストを作り上げている。
脱いだ靴を、ベンチの後ろに揃えて、置く。
もう、この世界に思い残すことはない。
湖の中に、ざぶざぶと入り込んでいく。足首が。脛が。膝が。飲み込まれていく。水温は、意外と冷たかった。好都合だ。
続けて、太腿。腰。下半身が完全に沈んだ。汗が、湖に落ちて、ピチョン、と音を立てた。
腹。胸。服が濡れて、重くなってきた。本当にこれでいいのだろうか。そんなことを思ったが、もう後戻りはできない。
ついに、肩まで入水した。水の冷たさを、より一層感じる。と、同時に、おびただしい数の感情が芽生えてきた。
一つは、純粋な死への恐怖。
一つは、愛してくれた人への申し訳なさ。
一つは、自分に対する嫌悪。
様々な感情がごちゃまぜになって、僕はそれ以上前へ進めないでいた。
しかし、体は正直に拒否反応を示す。全身の熱を、湖の冷気が奪っていく。まだ間に合う。まだ、今なら。
それでも、前に進むのはやめない。だって、柚葉に会いたいんだ。僕は、柚葉に会って、謝りたいんだ。だから、これは自殺なんかじゃない。
口。水が口の中に溢れてくる。苦しい。辛い。まだ。まだ間に合う。
鼻。もう、息をすることもできない。
耳。暴力的なまでに、水が穴という穴から入ってきて、体内を蹂躙する。遠くで何かが聞こえたような気がした。
頭。完全に、全身が水に浸かった。と、同時に、意識がゆっくりと堕ちていくのがわかった。
全身の力が抜ける。
やがて体が沈んでいく。
薄れゆく意識の中で、僕は柚葉のことだけを考えていタ。
――あいタイ。
――――アイタイ。
――――願わクバ、うマレカわッタトキに、モウ、イチ、ド。
―――――ユズハニ、アイタイ・・・。
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