(4)
駅に着いた。駅前の広場の時計を確認すると、五時〇九分、気温二一度らしい。日の出はもうすぐらしく、東の空が白く光っている。財布に残っているお金を全て入れ、ぴったりの値段の切符を購入する。比較的小さな駅なので、きっぷうりばから改札はすぐだ。
改札を目の前にして、僕の足が再び止まる。もう、この切符を改札に通したら、後戻りはできない。今ならまだ切符が返金できる。家に帰って再び布団の住人になることもできる。正真正銘、片道切符だ。僕はしばらくそこに佇んでいた。
怖いのか?
ああ、怖いさ。だって――。
「二番線に電車がまいります。危ないですので黄色い線の内側におさがりください」
やがて電車が到着するアナウンスが流れた。
その電車に、僕は乗り込んだ。
中学校に入学した。今度も、家から近いところ。学ランや体操服などを母と一緒に買いに行った。少し大きめのサイズを買った。試着したあとに待っている間、セーラー服が目に入った。どうやらウチの中学校の女子用の制服らしい。僕は柚葉がこれを着ている姿を想像してみた。あいつはどんな服でも似合うだろうな――。
そんなことを考えていたら、注文の品を受け取った母が怪訝そうにこちらを見て一言。
「アンタ、なんでニヤニヤしてんの」
反省した。でも、それくらい中学校生活は楽しみだった。
入学式。クラスは残念ながら分かれてしまったが、隣のクラスだったのでひとまず安心した。母は久しぶりに柚葉のお母さんにあったらしく、しばらく話しこんでいた。
「部活、何にするの?」
帰り道に、柚葉が聞いてきた。僕は特にやりたいスポーツもなかったので、入らないつもりだった。
「えー、絶対もったいないって! じゅん君運動得意じゃん!」「いや、得意なのと好きなのは別じゃないのか」
「そうだ、入るとこないんだったら、わたしと一緒に陸上部入ろうよ」
「えー?」
確かに走るのは昔から得意だったけれど、個人的にはすごく疲れるから嫌だった。でも、
「それに……、おんなじ部活はいったら、一緒にいれる時間が増えるし…………。ね?」
「!」
その後、仮入部期間を経て、僕たちは陸上部に入部した。
なにより嬉しかったのは、柚葉の方から一緒にいたいという意思を表してくれたことだった。自分からそういうことを言ったら、またあの時みたいに喋れなくなると思っていたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます