第14話 彼女はもう、死んでもいいと覚悟したのかもしれない。
「それ以来だな。俺がシノに対して、一種の怖さを感じたのはさ」
「見ている限り、トモくんはわたしのことは覚えていなくても、体では覚えていたみたいね」
「ああ。昔から苦手の耳に息を吹きかけられることも含めてな」
俺が言ったところで、ブランコを止めた高塚が立ち上がり、俺の方へ歩み寄ってきた。
「そんな昔話なんて、今の状況ではもう、どうでもいいことみたいね」
高塚は口にするなり、ポケットから取り出したものを俺に投げ渡してきた。
掴んでみれば、それは職員室から盗まれていた屋上の鍵だった。
「ずっと持っていたのか?」
「いずれ、わたしが捕まると思って、持っていたのよ」
高塚の声は、淡々としていた。
「話はもう、終わりかしら?」
「いや、まだだ」
「えっ?」
高塚は俺が向けている視線の方へ、振り返った。
見れば、俺と同じ中学校の制服を着た桜井妹が立っていた。
「あなた……」
「あなた、だったんですか」
桜井妹は悔しそうな表情をしていた。
「どうして、お兄ちゃんを殺したんですか!?」
桜井妹は懸命そうに声を張り上げた。
俺は何も言わなかった。
高塚は一瞬、俺の方を見やった後、すぐに桜井妹と目を合わせた。
「そういうことね」
「何がそういうことなんだ?」
「桜井くんが覚せい剤をやめようとした理由よ」
「ど、どういうこと、ですか!?」
桜井妹は高塚の動じないような態度で怖気づいたのか、二、三歩後ずさった。
「桜井くん、言ってたわ。『もう、妹に迷惑はかけられない』って。きっと、受験勉強を乗り越えて、もう、覚せい剤に頼らなくていいと思ったからなのね。それなのに、これ以上、覚せい剤を使い続けるのは妹さんの迷惑になると考えたのね」
高塚は言うと、両手を挙げた。
「トモくん。もう、いいわ。わたしを警察に突き出してちょうだい」
「シノ……」
「そ、そんなの、納得がいかないです!」
桜井妹は叫ぶと、おもむろに手元から何かを取り出した。
「おい!」
俺が叫んだ時には、桜井妹は折り畳みナイフを広げていた。
「お兄ちゃんの敵!」
桜井妹は言うと、ナイフの刃先を正面にして、高塚の方へ突き進んでいく。
「バカ野郎!」
俺はすかさず、高塚の方へ駆けていく。
一方で、高塚は逃げる素振りがない。自分は殺されて当然と、覚悟をしているのだろうか。
それはダメだ。
俺は懸命に走り、高塚と桜井妹の間に飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます