第12話 妹の勘はけっこうあてになるらしい。

「実は、その、お話ししたいことがありまして……」

 放課後、俺は駅前の喫茶店で、桜井妹とテーブルを挟んで向かい合っていた。

 家へ帰ろうとしていたところ、校門前で桜井妹が待っていた。聞けば、話をしたいとのことだった。

 俺は注文したアイスコーヒーを飲みつつ、桜井妹の続く言葉を待った。

「お兄ちゃんと悪い薬をやっていたのは、あの悪い友達とだけではなかったみたいなんです」

 桜井妹は俯き加減のまま、そばにあるオレンジジュースに口をつけようとしない。

 聞かされた俺は、内心、驚いていた。

 古川と柳田以外に、桜井と覚せい剤で絡んでいた奴がいる?

「誰、なんだ?」

「それが、名前はわからないです」

「じゃあ、その他にいるっていう根拠は?」

「お兄ちゃんが、それらしき人物に電話をしてるのをたまたま聞いたことがあって……」

「内容は?」

「その時はわかりませんでしたが、今思えば、薬のことを話していたようでした」

 俺がさらに尋ねてみれば、桜井は薬の値段について、話をしていたようだった。つまりは、その相手と薬の売買について、やり取りをしていたらしい。

「お兄ちゃん、あの悪い友達から、薬を買っていたみたいなんです。それで、他の誰かにそれを売って使わせていたみたいなんです」

「何で、そうとわかるんだ?」

「妹の勘です」

「勘か。事実だとしたら、すごい勘だな」

 俺は手を口元に当て、考え込んでみる。

「今の話を踏まえれば、あれか。桜井は誰かと覚せい剤のことについて、お金のやり取りをしているかのような電話をしていた。それで、その相手に覚せい剤を売って使わせていたということか」

「はい」

「逆はないのか? その誰かから、桜井が覚せい剤を買っていたとかさ」

「それは、ないと思います。お兄ちゃん、その売ったお金で、あの悪い友達にお金を払っていたみたいでした」

「それも、見たことがあるのか?」

「今思えば、それっぽいことはありました」

 答える桜井妹は、相変わらず顔を上げようとしなかった。きっと、兄が覚せい剤をやっていたと知って以来、困惑しているのだろう。今まであった兄の行動が何なのかわかり、なおさら落ち着かなくなったのかもしれない。

「その、誰かっていう奴が犯人なんだろうな」

「わたしも、そう思います」

 桜井妹は唇を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべた。

「早く捕まってほしいです。いえ、先にわたしの前に来て、犯人だって、名乗りを上げてほしいです」

「ちょっと待て」

 俺は不意にあることが頭に浮かんだ。

「その情報、誰かってわかるんじゃないのか?」

「誰かって、わたしはその人が誰なのか、見当もつかないです」

「いや、わかるかもしれないな。その誰かが桜井と電話したのがいつだったのか、わかればだけどさ」

「ま、待ってください。確か、その電話を聞いた日は,いつも買ってるマンガの発売日でした。その日に、学校帰りに立ち寄って、買いました」

「日付はわかるのか?」

「調べたら、その、わかります」

 桜井妹は言うと、スマホを取り出し、懸命そうに液晶画面を指で操る。

 俺はアイスコーヒーを飲まずに、ただ、結果を見守っていた。

「わ、わかりました……」

 桜井妹は、液晶画面を見つつ、その日付を俺に伝えてきた。

「よし」

 俺は自分のスマホを取り出し、とある番号に電話をかけた。

「あっ、俺です。八坂です」

 俺は出た相手に対して、先ほどの日付について、話をした。

 スマホを握る俺の手からは汗がにじみ出ていた。

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