第8話 クラスメイトの葬儀でも、彼女はいつもと変わらなかった。

 桜井のお通夜は、駅の繁華街から離れたところにある葬儀場で行われた。

 俺は焼香を済ませた後、葬儀場の建物を出た。

 出入り口前には、制服姿のクラスメイトや、喪服を着た大人がいた。皆、話し合ったり、涙を流していたりと様々だ。

 俺は桜井がいなくなったことを多少悲しみつつも、家に帰ろうとした。

「もう、帰るのね。八坂友則くん」

 足を止めて、声がする方へ体を移せば、高塚が両腕を組んで立っていた。目は俺に合わさず、葬儀場の方へ向いていた。

「今気づいたけどさ。ちなみに、これは俺の単なるひとり言だ」

「そう」

「高塚が俺に話しかけてくる時は、俺に視界が入らないようにしてるよな。わざと目を合わさずに」

「それは、多少なりの優しさというものよ」

「嫌ってる相手に、優しさとかあるんだな」

「わたしの勝手でしょ?」

「そういえば、桜井と絡んでいた先輩たち、警察に事情聴取されてるみたいだな」

「そうね」

「覚せい剤とか、こんな身近でやってる奴とかいたんだなとつくづく思ったな」

「桜井くんも結局やっていたみたいね」

「先輩たちの事情聴取でわかったのか?」

「そうみたい。職員室でたまたま聞いたけど」

「そうか」

 俺は言い、曇りがちな夜空を眺める。

 いつも、気さくに接してきた桜井。

 あいつがまずいことをやっていたなんてな。人間ってわからないものだな。

「覚せい剤をやる人って、何かしら悩みとか、苦しいことがあるから、それから逃げるために使用することが多いみたいよ」

「それは、桜井に何か悩みでもあったっていうのか?」

「そういうことになるわね」

「けどさ、俺が、高塚のことで悩んでいた時、桜井はそんな話、一切しなかったけどな」

「そうなの」

 高塚はどうでもいいような感じで言う。

「俺も下手すれば、覚せい剤でもやりかねなかったということか……」

「さあ、それはどうかしらね」

「高塚は、そういう悩みとか、なさそうに見えるけどな」

「わたしをまるで、完璧人間みたいな感じで言うわね」

「クラスでは委員長を見事に成し遂げていて、テストの成績はいつも、学年上位。男女から人気があれば、それはもう、悩む余裕すらない感じだな」

「八坂友則くん」

 高塚は呼びかけるも、目は合わせようとしない。

「人間、誰しも完璧な人なんて、いないのよ」

「それはどういう意味だ?」

「わたしの、単なる正直な意見よ」

 高塚は不意に、視線を俺の方へ向け、歩み寄ってきた。

「た、高塚」

「とりあえず、罰ね」

 高塚は言うと、俺の耳に息を吹きかけてきた。しかも、今回は長い。へたり込みそうな感じになっても、高塚はやめようとしなかった。

 気づけば、俺は葬儀場の入り口前で倒れ込んでしまっていた。

 すかさず、近くにいた喪服の大人たちに抱き起こされる。

「大丈夫か?」

「あ、いや、その、大丈夫です。すみません、ご迷惑をおかけして」

 大人やクラスメイトに取り囲まれる俺に対して、高塚はいつの間にか姿を消していた。相変わらず、立ち去りが早い。

 俺は心配そうに声を掛ける人たちに頭を下げつつ、足早に葬儀場の敷地を出た。

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