第7話 人間はうそをつく動物らしい。
「ちなみに、君の方から、何か質問はあるかね?」
「質問、ですか?」
「ああ。まあ、答えられる範囲でなら、答えるがね」
白髪交じりの刑事が言うと、俺はしばらく考えてから、口を開いた。
「人間は、本心で思ってもいないことを口にする動物なんですか?」
桜井から聞かされた言葉を、俺はそのまま、刑事二人にぶつけてみた。
相手はてっきり事件のことかと思っていたらしい。意外そうに、お互いに目を合わせた。
「それは、人間はうそをつく動物なのかどうかという質問ということかい?」
「まあ、言ってみれば、そういうことですけど……」
「そうだな。職業柄、うそをついた人間は幾度となく見てきた。特に犯人はな。だいたいが罪を逃れようとうそをつく」
白髪交じりの刑事はおもむろに言う。
「だから、そのうそを暴き、事件を解決へ導くのがわたしたちの仕事だからな。だから、君の質問の答えとしては、『それが人間だ』ということかもしれん」
「そう、ですか」
「質問は以上かね?」
「は、はい。その、事件とは関係ない質問をして」
「いやいや。わたしとしては、なかなかおもしろい質問をされて、興味深かった。今度は事件とは関係ないことで話をしてみたいがね」
「ちょっと、ヤマさん」
ヤマさんと呼ばれた白髪交じりの刑事は、「すまない、すまない」と口にした。
「とりあえず、君はもう、大丈夫だ。時間を割いてくれてありがとう」
「こちらこそ、その、どうも」
俺は立ち上がるなり、お辞儀をしてから、応接室を出た。
ドアを閉めるなり、そばに立っていた警察官に頭を軽く下げる。とりあえず、教室へ行こうと足を動かす。
しばらく行ったところで、俺は足を止めた。
見れば、壁に寄りかかり、高塚が待ち構えていた。
「早かったわね」
「別に、いいだろ」
「そう。わたしはてっきり、桜井くんを殺したことに何か関わったのかなと思ったけど」
「俺を疑うのか?」
「あくまで可能性を言ったまでよ」
「そうかよ」
俺は口にした後、高塚が足元の方へ視線を向けていたので、さっさと横切ろうとした。
「三年B組の古川先輩と柳田先輩」
「何だよ、急に」
「桜井くんと覚せい剤をやっていたみたいよ」
「はっ?」
俺は話の内容が信じられず、思わず不快な声を漏らした。
「何を言ってるんだ? 桜井からはそんなこと、一言も聞いたことないぞ」
「校内の一部噂で聞いたわ」
「単なる噂だろ?」
「けど、火がないところに煙は立たないでしょ?」
「何が言いたい?」
「最近、もめていたみたいよ。桜井くん、その三年の先輩たちと」
「先輩らが桜井を殺したっていうのかよ?」
「それは、警察が調べることよ。一概の高校生には興味半分で関わることじゃないわ」
高塚は壁から離れると、俺から視線を合わせずに、反対側の方へ足を向ける。
「じゃあ、屋上の鍵を盗んだのは?」
「さあ、どうなのかしらね? もしかしたら、覚せい剤の売買とかで使っていたんじゃないかしら?」
「高塚、お前、あたかも全部見たかのような喋り方だな」
「そういえば、わたしに話しかけることはなしと言ったわよね?」
「そっちから話しかけてきたんだろ?」
「それは特に、わたしがなしと言ったわけじゃないから」
高塚は言うと、振り向くなり、俺の方へ歩み寄ってくる。
俺は逃げようとしたが、急すぎて、すぐに足が動かなかった。
気づいた時には、俺は耳に息を吹きかけられていた。
俺はその場でへたり込んでしまい、どうすることもできなかった。
「本当に弱いわよね、八坂友則くん」
「ま、まるで、俺のこの弱点をずっと前から知っていたような口振り、だな」
俺が言うも、高塚は「そうね」としか返事しなかった。
「なあ、高塚」
「話しかけるのはなしって、さっき言ったわよね?」
「俺のことが、本当に嫌いなのか、高塚は」
俺はまた耳に息を吹きかけられることを覚悟して、高塚に問いかけた。
高塚は背を向けた。
「言葉通りよ。じゃなきゃ、あなたに嫌がるようなことをしないでしょ?」
「それは、確かにな」
俺は言ってみるも、内心ではまだ納得がいっていなかった。
「なら、今後はわたしの視界に入ってきたり、話しかけたりするようなことはしないことね」
高塚は言うと、俺から目を逸らし、歩き始める。
俺はただ、遠ざかっていく後ろ姿を見るしかなかった。
「なあ、高塚。知ってるか?」
俺は高塚が見えなくなってから、つぶやいてみた。
「好きの反対っていうのは、無関心だろ? なのに、嫌いっていうのはさ、俺のことを本当に嫌ってるんじゃないってことだろ?」
俺はようやく立ち上がった。内容は、テレビで観た、人間の恋愛心理とかを伝える番組だった気がする。
「だから、高塚はうそをついてる。それが人間だからな」
俺は口にするなり、笑みをこぼした。一人で何を言ってるんだというおかしさにだ。
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