第4話 悩みを聞いてくれる人がいるのは貴重なのかもしれない。

「八坂、元気か?」

「ああ、桜井か。今は授業中じゃないのか?」

「今は屋上で絶賛サボタージュ中。元々は立ち入り禁止だから、人が来なくて、気兼ねなく昼寝できるな」

「珍しいな。今まで、授業をサボるとかなかったはずだよな」

「まあ、こういう時もあるさ」

 スマホからは、桜井の声とあくびが耳に届いてくる。

 学校を休んで三日目。

 親からはさすがに、行くように促されるが、怒鳴ったりして何とか休めてはいる。

 桜井は休みが長引く俺を心配して、電話をしてきたようだ。

「なあ、何かあったのか?」

「別に、何もない」

「あん時から変だぞ、八坂。やっぱり、誰かにフラれたんじゃないのか?」

「……」

 俺は黙りこくってしまうと、スマホからは、「うーん」と悩むような桜井の声がしてきた。

「あん時は確か、『嫌われた』とか言ってたな。誰に嫌われたんだ?」

「言っていいのか?」

「言っていいって、言うと祟られるとか、そういう類のことなのか?」

「別に。ただ、何となくそういう気がしてさ」

「何か、そう言われると、聞いてる俺が何となく不安になってくるな」

「だったら、聞かない方がいいかもしれない」

 俺は真剣さを帯びた口調で答える。

 間が空いてから、桜井が「なあ、八坂」という言葉をこぼす。

「嫌われた奴ってさ、本当に八坂のこと、嫌いになったのか?」

「じゃなきゃ、何だって言うんだ?」

「人間ってさ、本心で思ってもいないことを言葉にする動物じゃん」

「桜井にしては真面目なことを言うな」

「失礼だな。俺はいつでも大真面目だ」

 桜井の返事に、俺は戸惑いを感じた。俺に対して、正面から相談に乗ってくれているみたいだ。

「だからさ、その、八坂を嫌いと言ってる奴は、本当はお前のこと、嫌いに思ってないんじゃないのか?」

「なら、どう思ってんだ?」

「それは、八坂が考えることだろ。その、嫌っているであろう奴がどういう奴か、俺は知らないんだからさ」

 桜井の言葉に、俺は何も言い返せなかった。確かにそうだ。俺を嫌っているであろう奴が高塚だと、まだ教えていないのだから。

「おっ、誰か来たみたいだな。じゃあ、俺はこれで」

「あ、ああ」

 俺は口にする間に、スマホの電話が切れてしまった。どうやら、屋上に誰かがやってきたようだ。にしても、普段は鍵が閉められているというのに、桜井はどうやって入ったのだろうか。

「まあ、それはいい」

 俺は寝転ぶ自分の部屋にあるベッドで、頭を巡らした。

「明日、高塚に真意を確かめるか」

 俺は照明の点いていない天井を見つめながら、おもむろに言った。

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