第3話 俺が苦手なことを彼女はどうして知っているのか。

 放課後。

 俺は再び、高塚に体育館裏へ呼び出された。

「八回」

「は?」

 俺の声に、高塚は鋭い眼差しを送ってきた。

「あなたがわたしの視界に入り込んだ回数よ。今も含めてだけど」

「数えていたのかよ」

「当たり前でしょ? それぐらい、あなたのことが嫌いだから」

 高塚は両腕を組むと、俺からわざとらしく目を逸らした。

「昼休みにわたしが言っていたこと、覚えてなかったの?」

「覚えてるさ。だから、高塚がいる時はそれなりに注意はしてた」

「しょせんはそれなりというわけね」

 高塚は呆れたような表情をした。

「昼休みから放課後までの間、八回もわたしの視界に入ってきたのは、注意を怠ったとしか思えない回数ね」

「ちょっと待て。その回数、高塚の方から、俺が視界に入るようにわざとやったんじゃないのか?」

「わたしを疑うわけね」

「いや、それはまあさ」

 俺はなぜか、高塚から一歩後ずさっていた。

 そういえば、俺は高塚の視界に入りそうになると、隠れるぐらい、怯えている。たかがクラスメイトの関係でしかないはずなのにだ。

 今なんて、手や背中から嫌な汗が吹き出し始めている。

「どうしたの? 八坂友則くん」

「い、いや、何でもない」

「とにかく、約束を守らなかったから、何もしないというわけにはいかないわね。罰は受けてもらうわ」

「罰なんてあるのかよ」

「なきゃ、約束なんて、意味ないでしょ?」

 高塚は言うと、俺の方へゆっくりと歩み寄ってくる。

 やばい。逃げないと。

 俺はなぜか、内心でそう感じていた。

 二歩、三歩と俺は後ずさる。

「逃げるのね、八坂友則くん」

「逃げないと、何か、まずい気がしてさ」

「いい心掛けね」

 高塚は口元だけ綻ばすと、お互いの鼻が触れそうなぐらいにまで近づいてきた。

 やばい。

 俺は逃げようにも、足がぎこちなくなり、うまく動かせなくなっていた。

「フッ」

 気づけば、俺は足を崩して、その場にへたり込んでしまった。

 高塚はそんな俺を見下ろしつつ、不気味な笑みを浮かべた。

「今後は何かあったら、こういう罰を受けてもらうから」

 高塚は言うと、背を向け、歩き去っていった。

 俺への罰。

 それは、耳に息を吹きかけられることだった。

「ハハ……。ハハハ……」

 俺は堅苦しい笑いがこみ上げてきて、出てきそうな涙を懸命にこらえた。

 高塚、なぜ、俺の苦手なことを知ってるんだ。

 俺は曇りがちな空を眺めながら、しばらくの間、立ち上がれないでいた。

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