第2話 俺の高校生活は彼女に対して、常にビクビクしなければならないらしい。

「面倒いことになったな」

 俺は教室の席に突っ伏すと、窓から映る校外の住宅街をぼんやりと眺めた。

「ようよう。元気ないな、八坂」

 顔を上げれば、クラスメイトの桜井が俺の肩を叩き、笑みを浮かべていた。中学校からの友人だ。

「何か悪いことでもあったのか?」

「すげー悪いことがあった」

「女の子にフラれたとか?」

「それに近いな」

 俺が答えると、桜井が興味深そうな目を向けてきた。

「おいおい。誰にコクったんだ? おい」

 肩で小突いてくる桜井は、うざいと思うほど、俺の方へ顔を近づけてくる。

「別に。俺は誰にもコクったわけでもないし、誰かが好きだってわけでもない」

「じゃあ、何だよ?」

「嫌われたんだよ」

「嫌われた?」

「ああ」

 俺は桜井から視線を逸らし、おもむろに教室の出入り口となる引き戸を見る。

 と、昼休みに俺を呼びつけた高塚が入ってきた。

 瞬間、俺は強い地震があったかのように、机の下に隠れた。

「おい、八坂?」

「今の行為は突っ込まないでくれ。突っ込まれると、色々恥ずかしいからさ」

「何だかわからないけどさ、まあ、八坂が大変そうなのは何となくわかるけどさ」

 桜井は明らかに戸惑ったような表情をしていた。何人かのクラスメイトも、何事かといった感じで、俺の方へ視線をやってくる。

 問題は高塚だ。

 俺は恐る恐る、机から出てきた。

 高塚は廊下側にある自分の席に座り、文庫本を読み始めていた。

 俺は安堵のため息をつくと、自分の席に座った。

「とりあえず、視界に入らずに済んだみたいだな」

「視界?」

「何でもない。ちょっと、まあ、色々あってさ」

「ふーん」

 桜井は不思議そうな声をこぼしたが、特段問い詰めようとはしなかった。まあ、俺が少しおかしくなったぐらいにしか思わなかったのだろう。

「にしても、あれか? 俺は今後も、高塚に対して、ビクビクしながら、高校生活を送らなきゃいけないのか?」

 俺は桜井に聞こえないぐらいの小声で口にした。

 視線をやれば、高塚は俺の方へ目をやらず、静かに文庫本のページを開いていた。

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