第3話「私は捕まった。」
第3話 01:鳥篭牢の囚人
森の上空はうっすらと赤みがかっていた。
朝が近い。
ピンク色に近づきつつある空の下。
今日もお城は豪華絢爛、百花繚乱としてそこにある――。
「アニー。話を聞いてもらえるか?」
「口を慎みなさい、罪人よ。……ですが、許可しましょう」
その特殊な牢獄で、女王は囚人と対面していた。
女王の後ろには大勢の護衛が控えている。
女王アニーは鳥篭牢を見上げ、罪人アリスは王国の者たちを見下ろす。
立場関係は依然変わらぬままなのに、罪人は余裕のある態度を今も崩さない。
「私は未来を知る能力を持っている。
それを貴女のために役立てようと思う。取引をしないか」
「……だから、釈放を。と言いたいのですね?」
「ご名答」
「話にならない! そんなこと誰が信じるかっ」
女王よりも早く、傍らの従者が声を荒げた。
「取引になっていない!
優勢なのは間違いなくこちら。貴様は自分の立場を理解しろ!」
「ダイナ。おやめなさい」
「しかし女王っ」
「……ダイナ」
主の静かな制止に、従者は口を閉ざす。
会話をさせたくない、と思ったのだ。
この女は、気持ちが悪い。言葉を交わしてはいけない。
惑わされる。
この態度にも。
きっと目隠しの下で笑っているであろう瞳にも。
おかしな力が宿っている、何かとても悪しきものが。
そう感じられて、ダイナには不安でたまらなかった。
「貴女の言葉を、信じる根拠がありません。ですから残念ですが」
「そう。でもこれで、私は一応の命乞いはした、ということになる」
「……?」
「いや、何でもない。親愛なる女王陛下、裁判はいつ?」
「五日後。城内裁判室で行います。
傍聴人も訪れますが知己との面会は、勿論許されません」
「構わない。むしろ、もっと早く執り行って欲しいくらいだ」
「なんですって?」
意外な言葉に女王は驚きを隠せない。
「どうせ有罪判決で死刑なのだろう。それなら少しでも早く殺して欲しいのだよ」
それは自棄とも、強がりとも違う。
落ち着き払った、まったく平生とおりの口調だった。
ダイナが露骨に食いつく。
「罠だっ。女王様、こいつ、何か仕組んでいるに違い在りません。
警戒したほうが良い――」
「いえ……ええ、いいえ……そう、ね、少し、考える時間を頂戴。
今晩には、答えを出しましょう。それでいいかしら」
「感謝するよ。迷惑をかけてすまない。それじゃあまた今晩」
「ええ……」
何故だろう、この囚人はちっとも顔色を変えない。アニーは戸惑う。
早く、できることなら早く係わり合いを断ちたい。
しかし、ダイナの言う通り罠だとしたら。その可能性はある。
何故彼女はこんなに冷静なのだろう?
女王は、思う。
罪人アリスのこの態度。
まるで、とうの昔に覚悟を決めたようではないか。
――予め知っていたみたいに。
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