寶覺禅寺

 ご飯を食べたら、寶覺禅寺というお寺を見学しに行くことにした。

 日本語の漢字にすると「宝覚禅寺」なのだが、台湾の繁体字だと「寶覺禅寺」と書く。ネットで検索すると「寶覺禅寺」になってたり「宝覚禅寺」になってたりするが、うちは「寶覺禅寺」表記でいきますヨ。



 台中はMRT(捷線・市内の電車や地下鉄)が無いので、まず必死にバスを探す。が、台中のバスは複雑でよく分からない!

 ホテルでもらったバスの地図が、要所要所のバス停しか書いてなかったからいけないのかもしれないのだが、ルートも分かりづらい上にバス停が移動していたりするから、相当手強い。

 あっちにウロウロこっちにウロウロしていたら、パパ吉から「バスが見つからないなら、タクれば良いじゃないか。いぬきっちゃんは目的地について観光するのが楽しいの?それともバスに乗るのが楽しいの?バスを探して歩き回ってる時間を観光に使おうと思わないの?」と怒られてしまった……。


「私は、時間がなかったり、その方がお得だと思うならもちろんタクシーでも構わないけど、でも土地勘もなくただクシーに運ばれてくのは好きじゃないんだ。自分で今どこを走ってるのか理解しながら、現地の人と同じ感覚で、地元民の足で動くのが好きなんだ。それに難しいバスを乗りこなせたら、達成感みたいな?成功体験?そんな感じがするから、バスや電車で動きたいんだ」と思った通り答えましたら。


「……要するに、いぬきっちゃんは苦労するのが好きなんだね……。ツアー旅行も好きじゃないし。修行みたいな旅行が好きなんだね……。分かったよ……」と呆れられてしまった……。


 ……もちろん、慌ててタクシーを拾って寶覺禅寺に向かったのは言うまでもありませんよ……。こんな所でそんなことでケンカしてもしょうがないもんね……。



 タクシーに乗ったら、寶覺禅寺はあっという間だった。

 門の前でタクシーを降りると、「あれ?」と違和感を覚える。普通お寺の門は本殿に対して垂直か平行に作られていることが多いのに、ここの門は斜めについていたのだ。


 そして本殿がまた変わっている。大きな石造りのお寺の中に、まるでマトリョーシカのように、小さな木造の建物が入っている。え?なんで?なんでこんな可愛いことに!?


 ホテルに戻ったらすぐにネットで調べてみたのだが。

 2007年に寶覺禅寺に行かれた方のHPでは、上に覆っている石造りの建物は無い。ふつうのお寺だ。それが、2008年に行かれた方のHPでは、もう石造りのお寺の中に収まっている。


 どうやら1999年の台湾大地震に伴う耐震工事の関係でこのようになったらしいのだが、なかなか思い切った改修工事をする……。っていうか、大きなお寺で周りを覆うことが耐震精度に関係するのかどうか、イマイチよく分からないのだが……。


 しかし、とにかくその石造りの本殿がでかい。とにかくでかい。あまりにでかくて大きさの感覚が分からなくなるくらいでかい。

 そしてその中に、ちんまりと普通サイズの古い本殿が置かれているのが、なんとも可愛らしい。

 いや、普通サイズのお寺の本殿を覆えるほどの大きさの建物、と考えると、その大きさが少しはお分かりいただけるかと思うのだけれど……。

 


 いや、建物の不思議さもさることながら。

 何といっても、寶覺禅寺と言ったら金色に輝く弥勒菩薩像を見なければならないのだ!


 大きな建物の陰からにょっきりと、満面の笑顔を湛えた弥勒菩薩が顔を出して……って、弥勒菩薩!?布袋様にしか見えないんだけど!!弥勒菩薩って言ったら、京都の広隆寺みたいに、半跏思惟像で、物静かで考え深げな像なんじゃないの!?


 いやいや。大きな建物の陰からにょっきり姿を現す、布袋様にしか見えない巨大は大仏は、まごう事なき弥勒菩薩だ。

 中国大陸でも弥勒菩薩像は色々見たのだけれど、どこに行っても「弥勒菩薩」はほぼ全てこの布袋様みたいな像で。「なんで日本と中国ではこんなに弥勒菩薩感が違うの!?」とずっと思っていたので、今回調べてみた。


 まぁ要するに、中国では、布袋様というのは弥勒菩薩の化身なのだそうだ。

 ……なるほど。じゃあこれは弥勒菩薩像じゃなくて、どっちかというと布袋像と捉えた方が良いのかな……。

 もちろん、日本の布袋様は弥勒の化身じゃないけれど、似たような話は日本にもある。シヴァ神が仏教に来たらまず大黒天になって、おっかないはずの大黒天が日本に来たら優しくも愛嬌のある大黒様になった、というヤツだ。まぁ、大黒様と布袋様、似てるしな……。その辺も、面白い符号と言えなくもない。



 それにしてもこの弥勒像、でかいのもすごいけど、金色というのが何とも俗っぽい……。

 元々は白かった物を途中で金色にしたらしいのだが、なんでそんな要らんことしちゃったんだろうか……💦


 説明書きには「大きさは30.1m」と書いてあるが、どう見てもそんなに大きくない。これって、この弥勒菩薩が立ち上がったら30.1mって事なのかな?それとも本当に30.1mあるの?周りの建物が大きすぎるせいで、自分の感覚がおかしくなって、これを「そんなに大きくない」って勘違いしちゃってるだけなのかな……。


 しげしげと弥勒菩薩像を眺めていると、おへそが窓みたいになっているのを発見した。


「これは中に入れるに違いない!」と裏に回ってみたら。


 ……うわ!!怖っ!

 弥勒菩薩の背中、丸い窓が大量に開いていて、なんか、背中ニキビがたくさんあるみたいに見えるんですけど……!!!ひぃいぃぃぃ!!誰か、クレアラシル塗ってあげて~~!!!


 そしてこんなにニキビ……もとい、窓がたくさん開いてるのだから、どこかから入れるはずだと探してみたら、裏側に扉を発見。だが、扉は固く閉ざされていて、今は中に入れないようだ。……残念!!


 話を真面目な来歴に戻すと、寶覺禅寺は日本統治時代に日本人として死んでいった台湾兵3万3千人の霊を祀る、日本ととても繋がりの深いお寺だ。

 境内には台湾兵を祀る慰霊碑や、日本統治時代に台湾で亡くなった日本人居留者約1万4千人の納骨塔があり、今でもお花が供えられいる。お参りに来るのは台湾人だけでなく、日本人もよくお参りに来るのだそうだ。


 その為だろうか、奈良の法隆寺から寶覺禅寺に夢違観音像が贈られていたり、また、日中友好を祈願して、友愛の鐘が贈られている。


 ……しかし、この2つがどこにあるのか探したのですが見つからず。お寺の方に「どこにありますか?」と訊いたら「非公開です」と言われてしまった……。とほほ~ん。特に夢違観音像は見たかったなぁ……。


 しかし!観音様は秘仏になれても、鐘はそうそう隠せないだろうと思い辺りを見回し、あちこちうろついてみた。……が、結局分からず……。どうやってどこに隠す!?いや、でもここの境内、建物はどれも大きいしな……。どこかにしまってあったら、鐘といえども分からないのかもしれない。う~ん、見たかったなぁ……。


 後ろ髪を引かれるように寶覺禅寺を出て、通りを渡って寺を振り返ると、巨大な塀の上から金色の弥勒菩薩像がにょっきりと上半身を現して、あの笑顔を振りまいていた。ひぃ、なんかすげぇインパクト!!

 車よりも何倍もでかい姿は、「ひょっとしたら本当に30.1mあるのかも……」と思える姿でしたよ……。

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