俊という――
「……花奏が目覚めない原因はお前なのか?」
「ええ」
「なら何故、目覚めさせないんだ?」
「そうした方が愛を感じられるから」
「愛だと?」
「カナデ様に向けられる様々な愛を――感じられる。それが私の至上の目的にして、視状の喜び」
俊はため息を吐いて
「正樹、お前は花奏のところに向かえ……いや、セレナたちの方が良いか?」
「はぁ!? おま、え!? 何言ってんのか分かってんのか!?」
「ああ、俺は今までになく思考がさえている自信があるぜ」
「ここから出すとでも思いますか?」
「ああ、俺が出させてみせるさ」
俊は不敵に笑い、ネクロスを正面から見つめた。思いもよらない行動にネクロスが動揺していると
「愛が知りたいのなら俺に取り憑け。契約だろうとなんだろうと構わない」
「何を言っているのか、自分で理解しているのですか? カナデはそれで愛を失ったのですよ?」
「いいや、俺のこの愛がお前に奪えるはずがない」
「何故それを断言できるのですか?」
「簡単な話だ。俺が愛しているのは――お前だ」
「「え?」」
*****
「っと、危ないな」
「レン……何をしているの?」
「なんでもねーよ」
廃墟となっている聖都を塔の残骸の上に立って見下ろしていたレンは飛び降りた。そしてそのまま頷いて
「悪魔たちもなんつーか帰って行ったみたいだしさ、そろそろ良いんじゃないのか?」
「良いって……何が?」
「お母さんたちが帰ってきて、何かがどうにかなるのによ」
*****
「アクラ、どうも色々と終わりに向かっているようですね」
「ああ。あたしもぶっちゃけビビりまくってんだけどな」
「私もですよ」
魔王を殺せ、勇者を殺せ、そう言う王に賛同する国民たち。彼らは自分が、自分たちがおかしいなどとは一切気付いていないのだ。
「確かにこれは神の干渉を感じますね」
「神、神ねぇ」
「アクラ?」
「本当に存在しているのかも疑わしいぜ、マジで」
「ヘカーティアがいたらぶん殴られていますよ」
「良いんだよ、あいつは手加減してくれるって」
「アクラ相手には全力の拳だったように見えましたが……」
そうだったっけか、とアクラは思いながら睥睨する。もう、この世界は終わりかもしれない、と思いながら。だってそうだろう、人間を操れる存在がいるのなら、それはもう終わりだ。理論など無いが、終わりだ。
「どうしますか?」
「どう、と言われてもな……逃げるか?」
「何から? この世界から? 神から?」
達観しているテレーゼの言葉に嘆息して
「なんでも良いだろ。んじゃ、あたしはちょっくら、斬ってくるよ」
「はぁ……結局、斬ることの方が楽しいのですか?」
「んな殺人鬼みたいに言うなよ。あたしは大太刀振るえるんが楽しいだけなんだからよ」
「それは充分に危険人物な気がしますが……」
「それにカナデを護らないとレンが泣くしな」
*****
「あなたが私を愛しているというのならば、問いましょう」
「何をだ?」
「愛の在処を。あなたの愛はどこにあるのですか?」
「――愚問だな。俺の愛は俺の心に、そしてお前にある」
「え」
ネクロスは動揺した。自らが作りだした存在が作り出したそれ、それがどこにあるかを悩んでいたのにここまで真っ直ぐに、迷い無く言われるとは思ってもいなかったのだ。そして
「シュン……」
何故その名を口にするだけで、ここまで自分の中に熱い想いが流れ、甘い気持ちになるのか、と。神は愛などしない、恋など出来ないはずなのに。
ネクロスは気付いていない。自分が創り出した世界の外の世界では神が恋をし、子をなすことなどざらだと。ネクロスは知らないが――俊は知っていた。そして
「一目見た時から気になっていた。その理由が今まで分からなかった」
「……それは、一体どういう意味なのでしょうか?」
「一目惚れ、ということだろうな。だが敢えて言わせてもらおう」
「何をですか?」
「俺はお前を愛したい」
「――――なりません。私は神の身、人間の伴侶になることは……」
「俺は人間だが勇者らしいな。それでも足りないか?」
ネクロスは困惑を隠せない。何故彼はここまで熱い言葉を向けてくるのか、何故私の胸が高鳴っているのか、と。そして――何故、彼に抱きしめられたいと心が叫んでいるのか。
「シュン……」
「ネクロス、俺の妻になれ」
「ですが……」
「くどい! さっさと来い!」
ネクロスは近づかれていたことに気付かなかった。心的距離も、物理的距離も。そして驚く間もなく、手を掴まれて
「俺の妻になれ、ネクロス」
「ダメです……私には、神としての責任が!」
「――なら俺がそっちに行く。それまで待っていられるか?」
「……本気、ですか?」
「何がだ?」
「神になると言うことは永遠となることです! あなたにその決意があるのですか!?」
「――ネクロス、お前は良い奴だな」
「へ?」
余りにも場違いなそれに戸惑っていると
「俺の身を案じてくれるんだな」
「それは……その……」
もじもじ、としおらしい態度のネクロスに俊は微笑んで手を引いた。ネクロスの手を掴んでいる手を引いて抱きしめた。
「シュン……?」
「愛している」
*****
「で? どうして俊と正樹とオマケが戻ってきたのにカナたちは戻ってきていないの?」
「カナたちが踏み込んだ神層領域は複雑なのですよ」
「……次。なんでアンタと俊は仲良さげに手を繋いで汗掻くような行為をしたの?」
「なんでと言われてもな……」
「ええ……」
「「愛」」
「いっぺん死ねやゴルァ!」
葵の高速の拳が俊の頬に迫った。だが俊はそれを軽々と避けて
「相変わらず躊躇のない拳だ」
「殴らないといけない者があるのなら、私は殴る」
「良いじゃないか」
「花奏が大変だって言うのにアンタはネクロスとセックスしていたんでしょ?」
「ああ」
葵の蹴りが俊の手の甲に受け止められた。しかしそのままの拳は脇腹で受けた。
「痛ぇよ」
「現在進行形で大変な花奏に土下座しなさい」
「カナデ様はそこまで狭量ではありませんよ?」
「え? そんなことないと思うけど」
「この世界を滅ぼそうとしていませんでしたし」
*****
「さて、困ったな。あのハーレム願望のあった俊が嫁を手に入れたからな……俺も誰か女と仲良くなりたい」
「何言ってんだよマサキ」
「女の人と仲良くなりたいのですか?」
「葵ではダメなのですか?」
「ダメだよ。葵は花奏が好きだからね」
確かにそうだな、とレンは頷いた。確かにレンの目から見てもアオイは父親に好意を寄せているのは明白だったからだ。しかし――
「どうして父ちゃんは何人もの女と関係を持っているんだ?」
「そりゃ……アレだろ。花奏がモテているんだろ」
「モテているからってそんな節操ないのかよ……」
「つかあいつ、なんでヘカーティアとテレーゼはともかくとして、アクラとセックスしたんだ?」
その場にいた全員が首を傾げた。そして――
「その問いにはあたしが答えるぜ」
「アクラ!? どうしてここに!? 王の様子を見に行っていたんじゃなかったのか!?」
「見てきたよ。酷ぇ有様だった……ま、こっちが良いかって言われるとすんげー悩めるけどな」
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