神という絶対

「それでカナデ様、ここに来て何をするつもりなのですか?」

「神が下した何かがあると思う。だからそれをぶっ壊す」


 そんな物、分かるはずもない。だがそれはここにある、と言う直感が、そして天使に似た気配がある。しかし


「あぁ、もう時間が無いようです。天使が降りてきました」

「……全て、殺せ」

「お言葉ですがカナデ様、天使は死にませんよ?」

「え!?」

「天使は神が存在する限り、無限に復活を繰り返しますよ」


 そうなのか、と思いながら階段を降りていると


「あ」

「この雰囲気……天使が密集したような感じですね」

「ああ、そうだな。とりあえず喰えるか?」

「不可能でしょう……触れることすら、出来ません」


 ネクロスはそう言い、背後に目を向けた。そして


「天使共が来ますね。迎え撃ってきます」

「そうか……長い付き合いだったな」

「まったくもって……では、失礼します」


 ネクロスとの契約が失われた。それを実感しながらそこにある、神の像を眺める。これを壊せば何になるのか分からない。だから、大太刀を両手で掴む。もう、ヘカーティアのせいで折れてもおかしくないほどに歪んだそれを振り下ろした。


*****


「花奏?」

「どうした?」

「今……花奏の気配がした」

「あぁ、それは私でしょうね。勘違いさせ、申し訳ありません」

「「「「「ネクロス!?」」」」」


 五人が動揺した。それを睥睨し、ネクロスは深い嘆息をした。


「本来ならばあなた方を遠ざけなければならないのに……今から天使を殺さねばならないのに、どちらを優先すべきか」

「通しなさい、ネクロス。元魔王として命じるわ」

「お断りします。現王の命令ですから」

「あっそ。ならぶっ飛ばす」


 セレナの拳がネクロスの体をすり抜ける、そんな風にネクロスは想像していたが


「魔力だけが豊富なら、ネクロスを包み込めたり出来るからね」

「っ!?」

「ってことで天使に向かってぶっ飛べぇぇぇ!」


 蒼い残光が空へと昇って行った。それを無視してセレナはネクロスが出てきた辺りに向かってある気、見回した。そして


「あ、この穴から出てきたみたい」

「「「待て」」」

「お母様、待ちなさい」

「え!? なんで?」

「花奏がここに入っていったの?」

「んー、匂いが残っているからね」

「龍人って鼻が良いのね」

「鼻も、だね。私はハーフだけど」


 そう言いながらセレナは制止を無視して穴に飛び込んだ。咄嗟に追いかけると


「っ、魔王セレナ! ここで会ったが百年目!」

「結界が解けかけている……? もしかして」


 カナデはこの女を、ヘカーティアを足止めとして利用している? そんな風に思いながらセレナはその結界の横を素通りした。何か色々言っているのが聞こえるけど、無視して歩いていると


「どうも私とお父様が近づいているのが分かるのか、天使たちの気配が降りてきていますね」

「じゃあこっちにカナデがいるって事だね」

「ええ、お母様」


 何故か三人はヘカーティアと話している。だから置いて行った。そして、進んでいる道の置くから、何かが噴き出してきた。


「これは……天使に似ている?」

「みたいですね……お父様が敵対している者がすでに、この奥にいるのでしょうね」


*****


「ヘカーティア」

「なんでしょうか?」

「花奏と戦ったの?」

「はい」

「殺し合ったの?」

「殺そうとはしましたが……カナデは殺そうとしてきませんでした」


 アオイは小さく、誰にも気付かれずに嘆息した。ヘカーティアが殺そうとしたのに、花奏は殺そうとしていない。そう考えると花奏が凄く強く感じる。いや、実際に強いのだろう。魔の領域の地図を一度、セレナに見せてもらったことがある。とても一人で結界を張れるような大きさじゃなかった。


「あのさ、ヘカーティア」

「なんですか?」

「花奏を止める理由って神からの命令的な感じなの?」

「そうですね。人々の模範とならないといけない立場だからこそ、彼を私の手で殺す必要があったのですか……はぁ、相変わらず強さを履き違えていますね」

「それも強さじゃないの?」

「強さとは力です」


 ヘカーティアは言い切った。そして直後、結界に触れていた正樹の動きが止まった。そのまま何度か同じ位置をぺたぺた、と触って


「俊!」

「なんだ?」

「結界の一部を敢えて脆くする理由って予想付くか?」

「時間経過……いや、束縛するつもりが元々無かったと考えるべきだろうな」

「内側からは触れられないみたいだぜ?」

「だとすれば誰かが追ってくる、と思っていたんじゃないのか?」

「俺たちか?」

「ああ、俺たちだ」


*****


「カミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカミハゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイ」


 脳内に差し込まれる不快な言葉に頭痛がする。なんで俺はこんな目に遭っているんだ……分からない。分からない。


 目の前の天使が俺に触れているのも、分からない。


「カミハゼッタイカミハゼッタイカミハゼッタイ」

「……神は、絶対?」

「ソウダソウダソウダソウダソウダソウダ」

「……何が、絶対?」

「スベテスベテスベテスベテスベテ」


 あぁ、分からない。なんで俺は大太刀を持っていたんだっけ……なんで俺は、こんなところにいるんだっけ……


「……俺は、誰だっけ?」


*****


「空がおかしいですね」

「そうですね」

「とりあえず父ちゃんが原因っぽいよな、あれ」


 レンは空を見上げながらそう呟いた。しかしその意味を理解できなかったのか、二人は顔を見合わせた。


「どういう意味ですか?」

「父ちゃんは確か、あん時に魔王側に、悪魔側にいたんだ。だったらあそこで戦っている悪魔と天使……どっちが悪いか分かんねーけど」


 なるほど、それは確かに。そんな風に思いながらすでに崩壊している塔の知覚を探っていると


「こっちから、お母様の声が聞こえます」

「アオイの声にも聞こえるな」

「二人がいるのでしょう」


 三人はその方向に歩いていると……何かが砕ける音がした。そして地面が揺れた。


「これは!?」

「っ!?」

「地震というアレですね……聞いたことはありますが、経験はありませんね」

「それでどうしたら終わるんですか!?」


 揺れている。だから立ち上がれないため、三人で四つん這いになっていると


「あぁもう! 結界壊すから手を貸しなさいよ!」

「分かりましたよ……」


 アオイの声と同時に何かが砕け散る音がした。そして穴の中から何かが噴き出してきた。


「結界の魔力の残滓ですね」

「つまり?」

「しかもこの魔力、お父様の魔力ですね」


 セインが解説している。それはつまり


「この穴の中でお父様がお母様を結界に閉じ込めた、と言うことですか?」

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