ネクロスという殺戮者
「葵……確かにそれはあると思うんだが……それは一体、なんだと思う?」
「宗教」
「なるほどな……なら、どうしたら良いと思う?」
「神具ってのが有るんじゃ無いの? それを見たら天使と似た力を感じる、とかあったりしない?」
「俺は、俺たちは聖都の塔を昇ったことは無い。教導院は地下にあったからな」
ふーん、と葵は思い
「地下で聖女候補を作っていたのならその側に神具が有るんじゃ無いの? 間接的に神の影響を受けた子が、強くなって聖女になるんじゃないの?」
推測だ。全ては推測なんだ。でも花奏とセレナは真剣な表情で頷いて
「目的地が決まったな」
「そうだね」
ちなみにカナは疲れ、ぐっすりと眠っていた。
*****
「俊」
「ん?」
「俺たち二人だけで動かね? ぶっちゃけ言えば何が信用できるか分からないしな」
正樹の言葉に俊は少し、考えて――頷いた。そして
「テレーゼたちには王の方に向かってもらうか。それで俺たちはどうするんだ?」
「それなんだけどよ、神に反抗心を抱いているのって悪魔で良いんだよな?」
「多分そうだと思うが……花奏に全部着いて行っているんじゃないのか?」
「違うんだろ? ネクロス」
その言葉に俊はぎょっとした。そして正樹の影から這い出すようにして現われたネクロスを見て、さらにぎょっとした。
「ネクロス……お前、ずっといたのか?」
「いえ、カナデ様の影に潜んでいたところ、面白そうな話題だったので顔を出しちゃいました」
「……ネクロス、どこから聞いていた?」
「内緒です」
うふふ、と笑う美女。それに見惚れそうになりながら
「ネクロス、悪魔は神の影響を受けているのか?」
「受けておりませんよ。ただ、無視されているだけのようにも感じますが」
「……俺たちが神に反抗するって言ったらどうする?」
「笑ってカナデ様に伝えますね」
「そうか……花奏はどうしているんだ?」
「現在は聖都に、この都市に乗り込んでいますね」
「「え!?」」
あいつもここにいるのか、と二人が驚いていると
「ネクロス、そんな言い方はないだろう?」
「そうだよ」
「お父様、ここは一体……あのお二方は?」
「「花奏!?」」
「あ、俊と正樹だ」
「「葵も!?」」
「あれ、私たちは無視なの?」
「初対面ですし」
*****
「つまりシュンタロウとマサキングもそこまで分かっていたの? 凄いなぁ」
「その呼び方はなんなんだ」
「え? あだ名って言うんじゃないの?」
セレナが馬鹿なことを言っている。葵はそう思いながらカナと同時にお茶を飲んだ。そして驚いた。
「美味しい」
「慣れていますから」
「凄いね」
「ありがとう、アオイ」
「カナちゃん、ありがとう」
「私も飲みたかったので良いんですよ」
カナはそう言いながら、褒められたのが嬉しかったのか笑みを浮かべた。そして
「お父様たちは一体、何を話しておられるのでしょうか」
「さぁ……きっとまだ、重要な話じゃないみたい。どうも見た感じ、雑談の域ね」
「そう、ですね」
カナは微笑んでいた。そして――
「お父様、お母様。そろそろ本題に入ってはいかがですか?」
「……そうだな。そろそろ雑談は終わりにしよう」
「ああ、だな」
「でもさ、二人は良く逃げ出せたね」
「逃げてないよ。テレーゼに直接伝えてきたからさ」
俊と正樹は少し不敵に笑って
「ま、俊の推理が全部正しかったら、だけどな。ネクロスから全部聞いているんだろ?」
「ああ。ネクロスは凄く楽しそうに報告してきたさ」
「ええ、たかがあの程度の情報でそこまで辿り着けるとは思いもしませんでした」
「俊は頭が良いんだ。だからおかしくも何ともない……が、凄いだろう?」
「どうしてカナデ様が自慢げなのですか?」
「俺の親友だからだ」
俊が照れたように頬を掻き、そんな様子を眺め、葵と正樹は笑った。そして――
「俊」
「ん?」
「全てを話す、だから手を貸せ」
「言われずとも……だが花奏、お前は良いのか?」
「何がだ?」
「テレーゼが、ヘカーティアが、アクラがお前の敵に回るかもしれないんだぞ?」
「はっ」
花奏は笑って
「俺はあいつらが嫌いだ。だから関係ない」
「「「花奏……」」」
「じゃあカナデの娘さんたちは?」
「……斬り殺せない、が敵対程度なら出来る」
今言外にテレーゼたちを斬れると言ったぞこいつ、と俊は思った。だがそれを口に出さないでいると
「それじゃあ、聖都の中央、教会の塔に攻め込む計画を立てるとするか」
親友がテロリスト紛いの思考をしている、そんな風に俊と正樹は動揺した。
*****
「ネクロス、どうだ?」
「相も変わらず、我らを阻む結界が張ってありますね。ですが生憎と、あの程度なれば私たち全員を止めることは出来ません」
「そうか。なら行け」
「承りました、カナデ様」
あまたの悪魔が地面を、空を埋め尽くした。それを見た人々は逃げ惑う。それもそうだろう、平和な生活を送っていたはずなのに、いきなり悪魔が現われたのだから。
「さぁ、人間共よ、恐れ戦きなさい! 我ら「おいこら」
容赦のない蹴りがネクロスに叩き込まれた。そしてそれにネクロスは艶然と微笑んで
「良いではありませんか。人間は全て、神の影響を受ける存在……全て殺してしまっても構いませんよ」
「俺が構うんだよ馬鹿野郎。誰も殺すな、結界の突破を目的で動け」
「では間接的に殺してしまっては?」
「好きにしろ。例えあの塔を崩壊させて、その瓦礫で人々が死のうと構わない」
「おい!」
「……なんだ、正樹。まさかこの状況で殺すな、とでも言うのか?」
「いや、それお前が言ったじゃん……じゃなくてよ、それだとたくさんの人が死ぬだろ」
構わない、花奏はそう言い切った。そして
「俺は護りたい者のためなら他の者は犠牲に出来る。正樹、お前たちも護るから――見逃せ」
そして15分後
「そろそろ出た方が良いでしょう」
「ん? 何かあったのか?」
「気配が多数、近づいておりますね。どうやら神に操られているのか……いえ、どうも雰囲気的には敵対意識をはっきりと持っているようですね」
「なら殺せ」
「仰せのままに」
ネクロスはそう言い、扉を開けて出て行った。そして直後、多数の悲鳴が聞こえた。
「カナデ」
「ああ」
「お父様、お気を付けて」
「ああ。セレナ、頼んだぞ」
「うん、任された」
*****
「花奏? 何を言っているの?」
「お前たちはここから動くな。ここからは俺とネクロスだけで行く」
そう言い、花奏は扉を開け、出て行った。咄嗟にそのドアノブを掴み、開けようとしたが
「開かない!?」
「あ、それカナデの結界だよ。それやられたらもう、カナデが解こうとしないと解けないはず」
「え!? なんでこんなことをしたの!?」
「だからさ、カナデは危険だからって私に護るように頼んだんだ」
まぁ、結界があるから手出しできる存在の方が少ないんだけどね、と思っていると葵は鋭い表情をして
「俊、正樹」
「ん?」
「なんだ?」
「結界をぶっ壊すわよ。力を貸しなさい」
*****
「さてと」
葵たちがいたからこそ、俺は戦えなかった。だが――彼女たちはいない。だから
「邪魔をするなら、斬り殺す」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます