リリスという悪魔
「良かった……無事みたいね」
「アオイ……どうしてあなたが? あの結界はまだ、解けていないみたいだよ?」
「うん。だけど思ったの、どうして花奏は私たちを強くしようとしているのかなって」
「ん?」
セレナはそれを知っていた。だけど言わなかった。そして――
「花奏は結界を越えさせないために私たちを強くしようとしているんでしょう?」
「……良く、分かったね」
「だから弱いまま、結界を越えてきただけ。それが花奏の嫌なことでしょ?」
「そうだけどさ……とりあえずこっちの結界に入ったら? 危険かもしれないし」
「ううん、大体は何が危険なのか分かっちゃったから。要するに勇者と魔王が親しくしている現状がダメなんでしょ?」
「っ!?」
なんでそこまで知っているの、セレナの表情から笑みが消え失せていた。だが葵はそれに構わずに結界の中に入り込んで
「花奏とカナちゃんはまだ眠ったばっかりなのかな?」
「うん、そうだよ……そうだけどそれがどうしたの?」
「私もまだ眠いの。だから眠らせて」
そしてセレナは一人取り残されてー―
「どういうことなの?」
ぽつり、と呟いた。
*****
「それじゃ再び葵がいなくなった件について話し合おうぜ」
「俊、分かっているんだろう? 葵は魔王セレナたちのところに行ったって」
「まぁ、置き手紙を読んだ感じそうだろうな」
俊と正樹はため息を潰えテレーゼに手紙を見せた。そこに書いてある文字は日本語だが、アクラは薄々察しているから何も言わず、ヘカーティアは小さくため息を吐いた。そしてそれはまるで葵の独断に何も文句を抱いていない、と言うわけじゃ無かったようだ。
「アクラ」
「なんだ?」
「アオイはどうして私たちから離れて独断で行動していると思いますか?」
「なんだって良いだろう。アオイ嬢が望んだんならそれで良いじゃねぇか」
「アクラ、あなたは良くも悪くも考えなさ過ぎです。アオイがもしも危険なことをしていたら――」
「危険はありませんよ」
「「「「「っ!?」」」」」
「ふん、揃いも揃って間抜け面か。勇者というのが聞いて呆れますね」
その女性は吐き捨て、シュンたち五人を睥睨して
「我が名はリリス。遅れながらに参戦させていただこう」
「えっと……何故ここが?」
「朋友にして盟友のネクロスがいたからな。戦場は少し遠いが……ネクロスがいるのならばこのような距離、有って無いような物だ」
「まぁ、カナデ様の影に直接飛ばすことぐらいならば造作もありませんが」
ネクロスは何でも無いように言った。しかしそれに四人は驚いて――唯一、ヘカーティアだけは別のところに着眼していた。
「それってつまり、結界の影響を受けずに移動できるって事ですか?」
「ご明察です、ヘカーティアさん。まぁ、あなた方が例え影を使って向こうに行こうと何の意味もありませんが」
「でしょうね……それに私が行けば、もっと危険でしょうし」
ヘカーティアは花奏たちに向かって襲いかかっている天使に指示を出す者、、それを崇める宗教の一番上だった。だからこそ動けば操られる程度の危機は感じていた。だから動かない、と心に決めていると
「んじゃちょうど良いな。とりあえずあの国に戻るぞ」
「アクラ?」
「イリアってのが何者か分からねーけどよ、カナデたちの敵っぽいならぶった切った方が良いだろ」
「それが良いな……テレーゼ、ヘカーティア。不満もあるだろうが行くぞ」
「ああ、シュン」
そして――
「空が開いたか」
再び、天使たちの攻勢が始まった。だが、すでに目を覚ましていたセレナは錫杖を構え、起きていた葵は剣を構えた。
「アオイ、魔法使いじゃなかったの?」
「剣を使える魔法使い兼勇者よ」
「不思議だなぁ」
セレナはそう言いながら地面を錫杖の柄で突いた。するとそこから噴き出すようにして現われた溶岩が結界の外にしみ出し、天使立ちに降りかかった。
「もう魔王じゃないんだけどね、この程度ならよゆーよゆー……でも、こんな雑兵ばっかりだったのなら、私たちは逃げる必要は無かったのかもしれない」
「……いや、逃げて正解だったさ。あの時、出産し立てで体力がなかったお前が戦えるコンディションじゃなかった、ってのもあるけどな」
「花奏?」
「おはよ、カナデ。早速で悪いけど戦える?」
「あぁ、戦えるさ……眠いけどな」
花奏は眠そうに欠伸をしながら大太刀を二本、抜いた。そしてそれを握った手が霞んだ。その結果、飛んでいた天使二体以上が地面に落下してきた。一石二鳥以上の成果だ、と思っていると
「セレナ」
「うん、そろそろ良い感じかもね」
「ああ」
「え? 花奏、何を言っているの!?」
「攻め込んでいる時こそ、もっとも護りが薄くなる時だ」
花奏の背中に真っ青な翼が生えた。そして――セレナたち二人と共に、彼は飛び去ってしまった。
*****
「正樹、どう思う?」
「え?」
「この世界についてだ。どうもおかしいぞ」
「何が……管理者のことか?」
「ああ、神のこともあるな」
だが
「王の嘘を見抜け、か。魔王セレナが世界征服しようとしていないのにどうして俺たちは魔王セレナを討伐するように差し向けられたのか、だ」
「それは……」
「所詮、王も神の駒だったというわけだ。だがそれなら、何故花奏は王を殺さなかった?」
「……さぁ」
「俺たちを護ろうとしたのだろう。だからこそ、あいつは娘たちを遠ざけようとしてテレーゼとアクラを引き連れていくことには大して抵抗していなかった」
「で、でもよ。それだったらヘカーティアはどうなんだ?」
「神に近い立場にいるからだろう……だが、こうなった以上、困ったな」
俊は深くため息を吐いて
「信頼していた者すらも疑わないといけなくなったな」
「……今、信頼できるのは?」
「花奏とセレナ、その娘さんぐらいだろうな」
「葵や……俺は?」
「難しいな。そもそも俺たちが召喚された始まりの時点で俺たちは神からの干渉を受けていると言っても過言じゃない。言うなれば今話している内容こそ、神が俺の思考を操作しているのかもな」
この瞬間、神はそんな力は持っていない、と思った。だがそれを知る者はいなかった。
「正樹」
「な、なんだよ」
「あいつらを助けに行くぞ。俺たち二人で」
「え!? このまま王様のところに戻るんじゃなかったのか!?」
「それはアクラとテレーゼ、そしてヘカーティアと娘さんたちに任せる。それで……」
俊は舌打ちし、自分の頬を叩いた。
「俊!?」
「悪い、最悪なことを考えた」
「最悪?」
「世界全土、人間もその他の生き物も全て敵に回るとしたら?」
事実、そうなった。
*****
「異世界人の精神は操りにくいのか」
「そもそも操るって言うか敵対思考を植え付ける程度? そこまで激しい感じじゃないかも」
「なるほどな」
「あのさ、神ってそんな事をしているけど直接殺しに来たりはしていないのよね?」
葵の言葉にセレナが頷くと、葵は頷いて
「だとしたら影響を及ぼせる何かを通じているんじゃないの?」
「「え?」」
「神界と人間界、その二つの間には何かしらの壁がある。だからその壁の影響を少なくするための何かを通じているんじゃないの?」
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