魔王セレナという妻

「カナデ……相変わらずあなたはそういった力技しかしないんですね。変わっていないことを蔑むべきでしょうか」

「きちんといない方向を狙って斬った。文句を言われる筋合いはないはずだ」

「あるでしょ!?」


 葵の叫び、いや絶叫にテレーゼと共に顔を向けると


「山が真っ二つになったのよ!?」

「ああ、そうだな」

「そんな一本の太刀で出来ることなの!?」

「いや、普通は無理だろ。剛刀一閃流の本来の使い方じゃないしな」

「本来の使い方?」

「ああ、剛刀一閃流は鬼から省かれた鬼の少女のために考え、作られた剣技さ」


 アクラの言葉にレンが少し顔を顰める。その辺りの事情は聞いていたのだろう。しかし葵は気づいていなかったのか


「鬼……? アクラさんが?」

「ん? アオイ嬢は聞いていなかったのか? あたしらが鬼人だって事」

「聞いていません……花奏?」

「人の事情をべらべらと喋るつもりはない」

「そっか……それもそうだよね」

「葵、来たぞ」

「え、何が?」


 葵と俊、正樹は気づいていないのか。空を覆い尽くさんばかりの大群がそこにいると。そしてそれらは森から、山陰から顔を出している。


「アクラ」

「分かってるっての。全責任はカナデにある、だろ?」

「ええ。セイン、見ていましたか?」

「はい! まさか剣の威力を高めるために魔法を使うなんて思いませんでした!」

「まだまだ視野が狭い……ですが良いでしょう」


 セインの言葉にテレーゼは頷いて杖を構えた。旅をしていた頃から使っている杖だ。先端に水晶の付いている杖だ。


「ドラゴンだな」

「ああ。レン、契約するのか?」

「良いのか!?」

「ああ、俺は構わん。母親の意見はどうだ?」

「べっつに。レンが望むならそれで良いぜ」

「花奏、私も良いかな?」

「葵も? 良いと思うが……契約には俺も付き合うか」

「どうして?」

「気性が荒ければ契約に手間取るかもしれないからな」


 俊と正樹が俺らなら良いのか、と言う顔で見つめていたが何も言わなかった。そして葵は少し顔を赤くして


「それじゃ……お願いするね」

「ああ……まぁ、この辺りのならそんなに強い奴はいないと思うけどな」

「え? 弱いのと契約するの?」

「葵、契約することの意味を説明しただろう?」

「えっと魔法構築速度が速くなるのと相性が合った魔法の威力が増す?」

「ああ、そこに契約対象の力量は関係ない。お前自身の魔力と思考速度、そして向こうが補助する、それが契約魔法だ」

「つまり?」

「高速で放てる高威力と思え。気難しい奴でもない限り使い勝手は良いはずだ」


 葵は頷いて


「それじゃあ他の二つはどうして必要なの?」

「方陣は備えられる魔法だ。事前に描いた物を所持していれば良い。逆に文式魔法は何かをしながらでも集中せずに使える」

「ふーん……花奏は何と契約しているの? あ、あくm「葵」


 唇を手で押さえる。そのまま


「止めろ、言うな」

「……はい」

「だが……まぁ、良いか。この程度なら隠す必要も無いか?」


(かと思われますよ)

(そうか……だったらそれでも良いか)


「出てこい、フェニックス」

「うふふふふふ」


 俺の影から出現する朱い影。それは艶然と微笑んで


「ごきげんよう、皆の者」

「何がご機嫌ようだ。俺の頭に立つな」


 脅威の首筋で耐える花奏。それを朱い女性は微笑みながら見つめて、そっと降りた。着地の音は聞こえなかった。それほどに軽いのだ。


「フェニックス……? 不死鳥なの!?」

「不死じゃないな。死を繰り返すだけの存在だ」

「我が輩の炎をそのような表現をしないでいただきたいのぅ」


 フェニックスは純白のシャツに真紅のブルゾン、そして深紅のズボンを履いている。朱色の長髪を一本に纏めたそれはお世辞抜きでカッコいい。花奏がそう思っていると


「フェニックスって美女じゃないといけないのか?」

「男のフェニックスを俺は知らないね」

「言われてみれば確かに」


 フェニックスは二人の言葉に頬を緩ませて


「貴殿らは見る目があるのぅ。どれ、契約の手助けでもしてやろうか?」

「マジスか!?」

「良いんですか!?」

「構わんよ……構わんよな、カナデ?」

「ああ、構わない。とりあえず護って上げろよ」

「言われずとも。我が輩の炎をなめるでないぞ」

「お前の炎は料理に最適って覚えているよ」

「良かろう」

「「「良いの!?」」」

「何を惑う? 例えどのような評価だろうと褒められているのを喜ばぬのは損じゃぞ」


 フェニックスの深い言葉に正樹は目から鱗、俊はなんだこいつ、葵は畏敬の念を込めた瞳で見つめた。そして


「カナデ、ドラゴン共が来ていますがどうしますか?」

「葵、俊、正樹。落ち着いて契約を持ちかけろ。契約に決められたスタイルはない」

「そうなの?」

「ああ。フェニックスが着いているから比較的楽に契約できるはずだ」

「我が輩の力に怯える龍というのも異な者よの」

「火の鳥だしな。実際ドラゴンに食われる側だし」

「そうなれば内側からこんがりと焼き尽くして我が輩の食料としてやろうぞ」


 フェニックスはそう言って空から降りてきたドラゴンの頭に乗った。もちろんドラゴンはまだ飛んでいた。そしてそれにドラゴンは気づかない。そのままフェニックスは手を上げて


「はぁっ!」

「がっ!?」


 ドラゴンが地面に叩きつけられた。しかしそのドラゴンは死んでいない。何故なら不死鳥の炎が死を許さないからだ。燃え盛る極炎がドラゴンを再生させ


「何をする!?」

「今だ、契約を持ちかけろ。フェニックス、そいつを従わせろ」

「余裕じゃな」


 ドラゴンが反応するよりも速く、フェニックスの拳が叩き込まれる。そして抵抗する気を失わせて


「ほれ、さっさとしやれ。今ならば楽じゃぞ」

「う、うん」


 そしてこの日、ドラゴンとの契約者が4人、この世界に生まれた。


*****


「花奏、ちょっと来て」

「……なんだ?」

「良いから」


 何故か葵に手を引かれ、葵の部屋に連れ込まれた。そして真剣な表情で


「あなたの事情について、話して」

「……」

「今話して。嫌なら……良いけど」

「葵……誰にも話さないと誓えるか?」

「うん、誓う。花奏が望むのなら誓う」


 花奏は少し躊躇う。本当に話しても良いのか、と。だが葵の真剣な眼差しを見てー―ふっと微笑んだ。そして


「何について知りたいんだ?」

「……魔王の旦那について。あなたは……魔王セレナと知り合いなの?」

「ああ。魔王セレナは俺の親しい相手だ」


 この言葉から葵は現魔王セレナのことも知っていると思った。だから何も言わなかった。だがこれだけは言わせてもらった。


「魔王セレナと結婚していたの?」

「……ああ。俺はセレナを愛している」

「……そっか、そうなんだ。羨ましいなぁ」

「……葵」


 花奏は複雑な表情だ。それを眺め、葵は少し嫉妬する。魔王セレナに嫉妬する。


「ちなみに魔王セレナのどこが好きだったの?」

「……何もかもが好きだった。俺は彼女を心の底から愛していた」

「……そう。ちなみにおっぱい大きかった?」

「いや。非常にスレンダーだった……ヒップ以外」

「尻派?」

「ヒップ派」

「そう……ちなみに私と比べると?」

「話にならん」

「ちょ!?」

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