セインという娘

「器を描いて意味のある言葉を描く……どうやったら空中に描けるの?」

「魔力を指先に集めて……ってテレーゼ、葵たちのステータスを見ていないんだが」

「あら、そう言えばそうでしたね」


 ステータスと聞いて三人のテンションが上がり出した。それを軽く呆れと共に見つめ、花奏は方陣を描く。使う言葉は視る、状態、指し示す者、橘葵。


「えっと……今、花奏は何をしているの?」

「葵のステータスを視ている……しかし、凄いな」

「え!? そんなに凄いステータスだったの!?」


 テンションがさらに上がった葵、それを見つめる花奏。その様子を眺め、察した正樹はにやにや笑って


「花奏、葵の何が凄かったんだ?」

「上から順に84、58、78だ」

「上は平均的だが下はすらっとしているのか」

「ふむふむ」


 男三人の会話に女四人は呆れる。


「っ、酷すぎ!?」

「葵、男子高校生なんてこんなもんだぜ?」

「カナデってあんな感じでしたっけ?」

「少なくともあたしは見たことないな」

「私もですよ」


 それはそうだろう、愛したのはたったの一人なのだから。花奏がそう思っていると


「花奏はむっつりなんだよ。自分の感情を隠すタイプなんだよ」

「ははは」


 正樹の言葉にアクラは笑った。そして


「おいカナデ、さっさとその魔法をみんなに教えてやれよ。レンにも教えてやってくれよ?」

「……お前はどうなんだ? 魔法は使えるようになったのか?」

「いーゃ、もう剣だけで充分さ」


 アクラは腰の大太刀の柄をぽんぽん、と叩いて笑った。そして


「それでアオイ嬢のステータスはどんなもんよ?」

「そうだな……こんな感じだ」


『橘葵 17歳 女

腕力 やや高い

思考力 非常に高い

思考速度 非常に速い

速度 少し速い』

『称号

音楽を好みし者

勇者を愛している者』


「どんな感じが口で言えよ。あたしには見えないっつ―の」

「ん……魔法使い適性があるとでも思え」

「おっし、分かった。アオイ嬢、頑張れよ」

「ありがとう、アクラさん。それじゃあ花奏、私にもその魔法を教えて」


 そう言うわけで説明した結果、


「それじゃあ花奏で試しても良い?」

「良いけど……あ」


 見られたら困る物もあるかもしれない、そう言おうとしたがもう遅かった。葵は素早く六方星を描いて視る、状態、対象花奏と描いた。そして方陣の中央を指先で押して


「ふむふ………………え」

「アオイ? どうしました?」

「花奏……なにこれ」

「葵……ちょっと待て」


 葵の口を手で塞ぐ。そのまま耳に口を寄せて


「今はまだ、話せない」

「ふご!?」

「……悪い」


*****


『天宮花奏 17歳 男

腕力 少し高い

思考力 少し高い

思考速度 非常に速い

速度 非常に速い』

『称号

勇者

王女と交わりし者

剣聖と交わりし者

聖女と交わりし者

魔王と交わりし者

魔王の旦那

剛刀一閃流始祖

魔王の父親

悪魔を率いし者

悪魔の王

|死者の王(ネクロス)との契約者』


「花奏……あなた、何をしていたの?」

「葵、まだ話せないって言っているだろう」

「でも」


 言おうとした、その口が塞がれた。さっきみたいに手じゃない。唇だ。


「……葵、説明しても良いけど、二人きりじゃないと話せない。それぐらい複雑なんだ」

「花奏……でも「あんましいちゃついていると気づかれるぞ」

「アクラ……だな。助かった」

「良いって事よ。それよりもテレーゼがあの三人に教えているからよ、アオイ嬢だけ遅れているぞ?」


 花奏はあっさりと話を切り替えた。でも私はその衝撃から我に返ることは中々出来なかった。


(魔王の妻で魔王の父親……現魔王セレナは本物の魔王セレナの娘? 襲名制なの?)


 この時、葵は真実に近づいていた。だけどそれを口にすることはなかった。


*****


「何かと契約したい?」

「そうよ。せっかく契約魔法も使えるって学んだんだし。契約相手がいないと使えないんでしょ?」

「ああ、そうだが……俊と正樹もそうなのか?」

「ああ」

「当然」


 花奏は少しため息を吐いて


「レン、お前はどうする?」

「あたしも良いのか?」

「ああ。お前は……妹のようなものだからな」

「娘じゃねぇのかよ」

「感覚的にはな」


 レンはため息を吐いてアクラを見た。そしてアクラは頷いた。


「お願いするぜ、お父さん」

「……慣れねぇ」

「では私の娘も呼びましょうか?」

「テレーゼの娘……嫌な予感しか無いから止めようぜ」

「ふふふ」


 そして15分後


「初めましてお父様、私はセインと申します」

「……お父様って……」

「お父様のことは常々聞いておりました。お目にかかれて光栄です!」

「……テレーゼはどんな風に言っていたんだ?」

「毒にも刃物にも負けず、前進し続けたと」


 それ、両方あいつが原因なんだけど。そう言おうとしたんだがさすがに娘の前で母親に真実を教えるのはどうかと思った。だから何も言わず、セインを見つめる。テレーゼと同じ蒼い髪の色だが……瞳の色は俺と同じ茶色だ。


「世界を救った後、姿を消したと聞いていました。この世界に危機が迫ったから、また来たのですか?」

「……俺はもう、この世界に来たくは無かった。でも来てしまっただけだ」

「え?」


 テレーゼの方を見るセイン、その表情は戸惑いがあった。だがテレーゼはそっとセインの頭を撫でて


「人の言うことを全て鵜呑みにしてはいけませんよ」

「お母様?」


 疑惑の表情、それを見ないように顔を逸らして


「葵、お前は何と契約したいんだ?」

「えっと……ユニコーンとか?」

「あいつらか……処女厨の変態馬共だぞ?」

「え?」


 葵は少し戸惑い、そう言えばと呟いた。ユニコーンの伝承は汚れのない乙女、処女を指していると思い出したのだろう。そして


「なら大丈夫、かな?」

「一回でもすれば見限られるけどな」

「……ちょっと考え直すわ」


 する機会があるのか、と思いながら辺りを見回す。この辺りで契約できるのは小さな精霊程度だ。戦うには向いていないだろうな。そう思いながら頭の中で地図を広げる。


「……テレーゼ、少し出かけてくる」

「一人で大丈夫ですか?」

「ああ。それよりも葵たちをよろしく頼むぞ」

「ええ。アクラ、あなたはどうしますか?」

「んー、どうでも良いぜ」

「だったら着いて来てくれ。今の俺の実力じゃ危険かもしれないからな」


 アクラはニヤリと笑って


「ドラゴンとでも戦いに行くのか? 手伝うぜ」

「良く分かったな」

「「「ドラゴン!?」」」

「へぇ」


 三人が驚き、レンが愛刀を握りしめる。そして


「「「「行きたい」」」」


*****


「テレーゼ、アクラ。4人を護っていてくれ」


 花奏はそう言い、手元に魔方陣を描いた。オーソドックスな五方星、それにさらに五方星を重ねた二重魔方陣。描かれた文字は全て加速。


「剛刀一閃流奥義閃き……それの真の技か」

「ああ。これが一番速いと思うからな」

「ははは」


 アクラは持ち前の筋力でこれを再現している。だが俺にはそれが出来ない。だから魔法の力を使って


「閃き」


 ドラゴンがどこにいるか分からないから、とりあえず山ごと切り裂いた。

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