第50話 ポジション
俺達4人の前に現れたレッドは、既にエクステンションを手に入れているようで、体から赤い光の粒子が大量に吹き出していた。
俺達を完全に悪と断定した物言いは一見操れているようにも見えるが、生徒会室で話をしていた時から絶対的な正義主義者というか、悪に情けを掛けない狂信的な部分があったので、実は正気なのかも知れない。
いずれにせよ、何を言っても聞く耳は持たないだろう。
「イエロー、ここは撤退すべき」
「僕もそう思うよ」
「だな。じゃあ、逃げるって事で」
「ちょ、ちょっと待ってよ!レッドを説得しなきゃでしょ!」
ブルーとブラックの撤退提案に同意した俺に、ピンクが焦ってツッコミを入れる。
「何でそんな面倒な事しなきゃいけないんだよ?あの手の奴は何言っても自分の考えを曲げないぞ。そもそも、俺達の目的はエメラルドの救出なんだから」
「え?救出?聞いて無いわよ!レッドがトゥルーに賛同するのを止めてくれるんじゃ無かったの?」
「あいつは自分の意志でトゥルーに参加してるんだろ?ほっといてやれよ。はっきり言ってトゥルーとかヒーロー協会なんてどうでもいいんだよ。司令官はちょっとお世話になったから、ついでに助けようと思うけど」
俺の本音にピンクが仮面の下で唖然としているのが分かった。
この闘技場がハズレだと分かっているのに、ここに留まって、しかもレッドと戦うなんて無意味だし時間が勿体ない。
操られているなら同情もするが、自分の確固たる意志でトゥルーに参加してるなら、俺が止める理由も無い。
俺から視線を逸らすようにピンクが俯く。
華奢な肩が微かに震えていた。
「いいわよ。じゃあ、私だけで説得するから」
悲壮な決意を込めたような声で呟き、ピンクはレッドに向けて一人歩を進めた。
その後ろ姿が、俺の胸に僅かな痛みを走らせる。
何だ?
ついさっき迄どうでもいいと思ってた事が、どうでも良く無くなってる気がする。
同情?
いや、違うな。
いつも俺に文句を言ってるピンクが、少しでも俺を頼りにしていた。
そんな彼女を見捨てて逃げるって事に、俺の中の何かが異を唱えている。
「アキト……」
心配そうに俺を覗き込むブルーを見て、俺は自分の心と素直に向き合う。
「分かってる。女の子を見捨てて逃げるなんて、真のヒーローのする事じゃねーよな」
「うん!やっぱりアキトは真のヒーローだね」
俺の言葉にブルーが明るい声で喜びを顕わにする。
黒木さんを助けに行きたいのは山々だが、俺の中のちっぽけな正義が許してくれそうに無い。
俺がブラックに視線を移すと、ブラックは俺の心情を汲んでくれたようで、一つ頷いてくれた。
彼もホントは姉を助けに行きたいだろうに、付き合わせて申し訳ない。
大丈夫、レッドなんかに時間を掛ける気は無い。
速攻でぶっ倒して、黒木さんを助けに行く。
説得は倒した後で引き摺りながらやればいいだろ。
「レッド……。紅貴、もう止めて。トゥルーは間違ってる。その正義は間違ってるよ」
ピンクの言葉に、レッドは全く動じる様子も無い。
「いや、正義は絶対だ。間違っているのは君達だ。僕はナノレンジャーのリーダーとして、悪に堕ちた者達を断罪するよ」
レッドが拳を振り上げて駆け出し、ピンクへと急迫する。
その拳がピンクへ届く前に、俺はキュービットを飛ばしてレッドの腕を跳ね上げた。
「きゃあっ!」
「ぐっ、何っ!?」
何も無い所で攻撃を弾かれた事に驚愕しているレッドに向けて、俺は思い切り蹴りを放つ。
しかしそれは、バックステップで躱されてしまった。
取りあえず相手がエクステンション持ちでも、初見ならキュービットは有効のようだ。
レッドは見えない敵との戦いにはまだ慣れていないか、ステルスされた敵を見つける術を知らないんだろう。
そして、俺を見たピンクの声が震える。
「な、なんで……?」
「ナノレンジャーとか正義とかマジでどうでも良いけど、俺達の突入の為に体張ってくれたウルフフェイスさんに悪いから、助けてやる」
「アキト、素直じゃない」
「五月蠅いよ」
ブルーのツッコミは流して、俺はレッドに向き直る。
「どうせ俺が説得したって考えを改めないだろうから、ぶっ飛ばすけど悪く思うな」
「ふふっ。たかがイエローのポジションで、大した自信じゃないか。君が僕を倒す?」
それを戯言だと一笑に付したレッドは、体から吹き出る粒子量を更に増大させる。
それと共にレッドの背中から炎を模した翼が生え、雄々しく羽ばたいた。
「リーダーであるレッドの力を見せつけてあげるよ」
エクステンションを得た事で強くなったつもりだろうが、ウルフフェイスのように2つ同時に使う等の特殊な事をしていなければ、せいぜいSS級程度の強さの筈だ。
こっちにはエクステンション保持者が2人いる上に、黒木君も俺からのパス限定だがデュアルドライブが使える。
ピンクを数に含めなかったとしても、3対1で絶対に負ける訳が無いんだよ。
数の暴力を思い知らせてやる。
「虎ンザム!」
「おう!」
「ピーちゃん!」
「ピー!」
俺が虎ンザムを、シャナがピーちゃんを呼んで、『エクステンション・リンク』を発動した。
エクステンション達の体が発光して、俺とシャナのスーツに溶け込むように吸収される――筈だったが、
「うおっ!」
「ピッ!」
虎ンザムとピーちゃんの体は、俺達のスーツから弾かれてしまった。
「な、何だ!?」
「え?『エクステンション・リンク』出来ない?」
エクステンションをスーツ内に取り込んでリンクさせなければ、強力なプログラムは使えないのに、何故かエクステンション達を取り込む事が出来なかった。
この闘技場の特性?
いや、レッドはエクステンションを使えている。
って事は、まさか……。
「察しの通り、僕のエクステンションは他者のエクステンションを使用不能にするからね。君達がエクステンションを持っていても、それは僕の前ではガラクタ同然なんだよ」
レッドが嘲笑うように解説してくれる。
エクステンション無しで戦わないといけないのかよ。
やっぱり逃げれば良かった。
「ふっ!」
一呼吸を吐き出したレッドが、赤い光の粒子を撒き散らしたと思った瞬間、消えた。
一瞬後、目の前に現れる。
「ぐっ!」
辛うじて腕を上げる事で防げたが、衝撃で少し後ろに飛ばされてしまった。
速度はシャナがエクステンションを使った時に匹敵する。
そして、シャナの体重では発揮出来ないぐらいの攻撃の重さ。
黒木君の格闘技よりも洗練された無駄の無い動き。
さすが、リーダーを自負するだけあるな。
俺へ攻撃を加えた後、流れるようにブルー、ブラック、ピンクに攻撃を仕掛けるレッド。
「っ!」
「くうっ!」
「きゃあっ!」
ブルーとブラックは何とか防いだが、ピンクはモロに攻撃を受けて白い壁際まで飛ばされてしまった。
ピンクだけは他の2人と違って格闘がイマイチ強くないから、眼で追えない程のレッドの攻撃は防げないようだ。
拙い!と思ったが、レッドは何故かピンクに追撃を掛けなかった。
悪に容赦しないと思ったが、流石に倒れている幼馴染みに追撃はしないか。
少しホッとしたのも束の間、次のレッドの攻撃が飛んでくる。
もしかして、単純に俺達3人が攻撃を防いだから、追撃されないようにピンクへの攻撃を見送ったのか?
多対一では、一人ずつ行動不能にするのがセオリーだと思うが、力量差が圧倒的だから動いている奴を次々に片付けようと考えてるのかも。
レッドは俺達3人に眼にも留まらない速さの攻撃を繰り返す。。
シャナはボクシングのディフェンスを駆使して的を絞らせない事で躱している。
黒木君は攻撃する事で相手の動きの選択肢を減らして、後は勘で捌いているようだ。
俺は2人のような格闘センスは無いので動体視力頼みで避けようとするが、肉眼ではほとんど捉える事が出来ない。
システムが動きを予見して表示してくれるのを見ながら、なんとか防御し続ける感じ。
ハッキリ言って、俺が一番攻撃を受けている。
「くそっ、これじゃジリ貧だ!」
余計な事を叫んだ瞬間、俺はレッドの蹴りを左脇腹に食らい、吹き飛ばされて壁に激突した。
「ぐへっ!」
レッドは俺への追撃もせずに、残った2人へ攻撃を集中する。
なるほど、全員に力の差を見せつけようって訳ね。
エクステンションが使えない俺達を下に見てる訳だ。
それなら、イエローのポジションを甘く見た事を後悔させてやるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます