第23話 G
俺の家の隣に住んでいるお姉ちゃん――
最近では父母があまり家に居ない事もあり、毎日の様に食事を作ってくれたりしていて、そんな世話好きなお姉ちゃんを俺も妹も実の姉のように慕っている。
そんなお姉ちゃんは世間では容姿端麗、文武両道の完璧美女と思われているらしい。
後ろで細く束ねた長い黒髪は白く美しいうなじを強調させ、黙っていれば大和撫子と形容されるに相応しい和の美貌を持ちながら、学生時代はフェンシングという洋式のスポーツを嗜んでいた。
実際は清楚可憐どころかお転婆であると知っている俺からしてみれば、お姉ちゃんはフェンシングどころかチャンバラやってる方が似合うと思うが、学校では『
俺と妹はその話を聞いて「「猫被ってる」」と笑ってしまい、お姉ちゃんから拳骨をいただいた。
俺達兄妹の前では素をさらけ出すお姉ちゃんは、見掛けと違い活発で明るい性格だ。
そんな幼い頃から見てきたお姉ちゃんが、今更多少おかしな事やっても俺は動じない自信があった。
だがしかし、この目の前の姿は想像の斜め上を行ってるだろ。
もういい年だし、社会人だし、セーラー服でコスプレして『美少女』は完全にアウトやないか!
いや、一部のオタク的な人達の間では、20代はギリギリセーフなのか?
あと『セーラーポニー』って、たぶんポニーテールから取ってるんだろうけど、テールの部分を省略してるから馬になっちゃってるし。
俺の姉がこんなに残念なわけがない。
そうだ、きっと人違いだ。
仮面で顔を隠してるし、ポニーテールなんてそこら中にいるのだから――そう思ってた時期が俺にもありました。
セーラーポニーが怪人の方へ向き直った時、翻ったスカートの中身が見えてしまった。
通常であればそれはご褒美以外の何物でも無いのだが、今の俺には天罰にすら思えた。
クマさんパンツ……。
しかもあのクマさん、お姉ちゃんのオリジナルだよ……。
お姉ちゃんである事を確信するとともに、20歳超えてクマさんパンツだという衝撃で、俺はorzのまま蹲ってしまった。
「えっ、大丈夫ですか!?何時の間にか怪人から攻撃を受けたんですか!?」
心配そうに俺に呼び掛けるセーラーポニーの声が、俺の意識を引き戻す。
そうだった、今は怪人を倒す事だけ考えねば。
雑念を捨てろ!
クマさんパンツなど見なかった。
俺の精神はもう限界ギリギリだから、早く倒さないと。
これ以上(味方から)ダメージを食らったら持たないぞ。
俺はヨロヨロと立ち上がりながらも、怪人に向かって戦闘の構えをとった。
「おいおい、お前既に満身創痍じゃないか?そんなんで大丈夫か?」
敵でありながらGが俺に気遣ってくれる。
こいつやっぱりいい奴だな。
Gなのに俺の心のダメージを解ってくれるなんて。
もっと違う形で出会っていれば親友になれたかも知れない。
……いや、Gと親友ってやっぱり人としてダメだな。
って事で、いい奴だけど倒す!
――キュービット4機起動。2機はセーラーポニーを援護。残りは俺の側でGを迎撃。
俺が駆け出すと同時にセーラーポニーも駆け出す。
フェンシングに限らず運動神経がいいお姉ちゃんならGごときに遅れは取るまいと思うが、意外とドジなとこも有るからキュービットの護衛を付けておいた。
セーラーポニーが細身の剣を突き出すと、Gは背中の羽根を羽ばたかせ宙に舞って躱した。
「ひっ!」
可愛らしい悲鳴を上げるセーラーポニー。
お姉ちゃん、G苦手だもんな。
得意な人なんているのか知らんが。
台所にいて、突然飛び上がられると戦慄するよね。
いや、このGは日本の台所に最も多く存在するチャバネGでは無い。
艶の無い外観、黒い頭部。
こいつ一見クロGに見えるが、台所ではなく屋外で見るタイプのヤマトGという種類か!
カメムシに続いて、何故俺はこんなにもGに詳しいんだ?
謎は深まるばかり。
そんなどうでもいい事を考えてる間に、Gは空中から急降下してきて俺を襲う。
でも残念ながら、俺にはキュービットがあるんだよ。
Gの人間的な右拳をキュービットで弾く。
連続で繰り出される左拳もキュービットでいなす。
次に飛んでくる右拳を……え?なんで腕がもう1本!?
辛うじて右腕で防いだが、衝撃で数m後方に飛ばされてしまった。
こいつよく見たら腕が6本ある。
いや、カメムシ怪人も一応腕は6本あったけど、彼奴は一番上の両腕が太かっただけだから人間と変わらなかった。
でもこいつは6本共人間並の太さで、器用にそれぞれの腕を使い分けている。
このG、侮れない。
「はああっ!!」
地上に降りて来たGに向けて、セーラーポニーが細身の剣で斬撃を数度繰り出す。
だがそれはGに難無く躱され、再び空中へ逃げられた。
追撃の手を緩めまいと、セーラーポニーは剣を鞘に収め自身の腰に装備していた2丁の銃を抜く。
銃口をGに向けて引き金を引くと、閃光が一直線に放たれた。
レーザーガンか。
ナノマシンの機能で再現された銃だから、電磁波の応用でレーザーを撃てるんだろう。
レッドとピンクが使っていた『ファイナルフラッシュ』の縮小版だな。
出力を抑える事で体への負担も減らして連射が可能になっているようだ。
でも、Gは空中を悠々と飛んでセーラーポニーの放つ光線を躱し続ける。
それにしても、この場にいるもう一人の悪の組織の大男は全く喋りもせず微動だにしないな。
「zzz」
立ったまま寝てるー!?
寝る子は育ち過ぎてそんなに大きくなっちゃったのね。
タイガーフェイスと互角以上の体格だ。
まぁ、寝てるんならほっとこう。
セーラーポニーは空中戦が苦手なようで、Gが台所を飛び回るかのように宙を舞うので苦戦を強いられている。
銃を使ってるから相性は良さそうなものだが、お姉ちゃんはフェンシングをやってたから剣での戦いの方が慣れてるのかな?
じゃあ何故『美少女銃士』?剣士でよくね?
あ、まさか先代のセーラーポニーとかがいて、その特性か?
お姉ちゃん、頭はいいのにプログラムとか苦手だった筈だから、先代の使ってたシステムを改変とか出来ないんだろうな。
あの戦いぶりでは中々倒せなくて増援を要請されるのも頷ける。
さて、じゃあそろそろあのGを倒しますか。
キュービットを拡大して前後の壁面を解除し、デザインを五角形にして上部を屋根状に変形。
形を変えたキュービットをステルスのまま上空へ飛ばす。
ブンブンと飛び回っていたGが、見えないキュービットの中へ飛び込んだ瞬間に、
――硬化光発動!
キュービットの各面から内側に向けて、エメラルドの杖の技術を応用した硬化光を照射した。
「ぐむっ!?う、動けないっ!?」
Gは体内のナノマシン密度が変化して身動きが取れなくなり、Gホイホイに捕まったかのように空中で動きを止める。
「今だ。撃って!」
「え?は、はいっ!」
俺の指示に何が起きたか把握出来てないお姉ちゃんは素っ頓狂な声を出すが、直ぐに気を取り直して銃を構えた。
そして両方の手に気を込めるように力を入れて引き金を引く。
双銃から放たれた2つの閃光は絡み合う様に上空へと放たれ、身動きが出来なくなったGを貫いた。
「ぐぎゃああああああああっ!!」
雄叫びを上げて、Gは空中で霧散するようにバラバラになって消えた。
Gを構成しているナノマシンが宙に還って行ったようだった。
だが、俺達にそれを喜んでいる暇は無かった。
「んぁあ。なんだ、彼奴やられちまったのか?」
先程まで寝ていた大男が欠伸をしながら俺達に近づいてきた。
その男は、見ているだけで背筋に冷たいものが走る程、膨大な覇気を撒き散らしていた。
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