第22話 セーラー服とポニーテール

 出動要請なんてシステムが有るとは、迂闊だった。

 ヒーロー協会に登録すると休日でも出動しなきゃ行けないのか?

 なんというブラックな協会だ。

 これはちょっと登録も考え直した方がいいかも知れないな。

 休日出動手当とか出るのか?

 そもそも怪人を倒したところで報酬とかあるのかな?

 テレビの特撮ヒーロー達は無償の正義で戦ってるけど、現実もそうなの?

 春野は正義感が強そうだから無償でもヒーローやってそうだけど。

 ヒーロー協会の運営資金とかも、出所が良く分からないからな。

 スポンサーがいたとして、そのスポンサーに還元される利益はどこから捻出される?

 お金の流れが明確じゃない団体って、凄く危険な臭いがするよ。

 しかも休み無しで働かされるとか、絶対関わっちゃいけないとこだ。

 お義母様への印象が悪くなってしまうかも知れないけど、やっぱりここは一旦登録を見送ろう。


 それにしても視線が気になるなぁ。

 さっきのトレーニングルームからずっとだ。

 目だけはいいから、周辺に違和感があるとすぐ分かるんだよ。

 俺の洞察力を見くびって貰っちゃ困る。

 でも紋章の索敵システムの範囲には入ってないから、正確には何処にいるか分からないんだよな。

 ヒーロー協会に居たんだからヒーローだとは思うけど、影でこそこそ見てるのは気に入らない。


――キュービット4機起動。周辺索敵。


 キュービットで、上空からの映像を俺のゴーグルに映し出させる。

 ヒーローってだけで無条件に味方だとは思わないんでね、場合によっちゃ攻撃対象に認定だ。

「おお、いるいる。……えっ!?」

 次々にキュービットからの映像が途絶える。

 キュービットの位置情報も消えたって事は、撃墜された!?

 彼奴ら、ステルス状態になってるキュービットの位置が何で解るんだ?

 いったい何者?

 明らかにさっき戦ったタイガーフェイスとは一線を画す力を持っているぞ。

 俺のNLLに匹敵するプログラムを備えているのか、はたまた達人級の使い手とか?

 キュービットを感知するような奴相手だと、一対一でも苦戦すると思う。

 そんな奴が複数人。

 露骨に敵対するのは避けた方がいいか。


 俺は向けられる視線を無視して、司令官に教えてもらった現場へと駆ける。

 環境や景観向上の為に作られた森林公園。

 その木々に囲まれた、少し開けた広場に辿り着いた。

 報告通りに、そこに怪人はいた。

 そして、その怪人に連れ添うように悪の組織の人間らしき体の大きな男もいる。

 何故それが悪の組織の人間であると分かったかと言えば、エメラルドの外装に似た爬虫類を模した鎧を着ていたからだ。

 その人物は、不思議な事に索敵システムに反応しなかった。


 まぁ、それはいい。

 それは後で考えればいい事だ。

 今はそんな些事に構っている暇は無い。

 俺の眼に留まった、その広場にいる三人目の人物が重要なのだ。

 先ずは服装。

 いや、その第一段階である服装すら大問題なのである。


――セーラー服。


 セーラー服の何が問題なのかと思われるだろう。

 そのデザインは、本来なら紺色である部分が浅葱色に染色され、胸の前で結ばれているリボンがサイズ間違ってるんじゃないかと思う程デカく、コスプレ感満載なのだ。

 一応、着ている人物は体のラインから明らかに女性であると分かるので、それだけは救いか。

 これが男だったら目も当てられない。

 まぁ、そこまでは良かった。

 いやあまり良くは無いのだが。

 少し混乱してきたが、気を取り直して次へ進もう。

 その人物が怪人に攻撃を加える度に左右に揺れる長い髪のポニーテールが、次の大問題だった。

 その人物は眼の周りだけ仮面で覆っているのだが、特徴的なポニーテールのせいで俺にはそれが誰であるのか一目瞭然だった。

 俺の認識が正しければ、彼女の年齢は20歳を超えている筈。

 そんな人がセーラー服とおっきなリボン……。

 痛い!痛いよぉぉ!!心が痛いっ!

 何故俺はこんな現場に出くわしてしまったのか。

 どんな数奇な運命を辿ったらこんな痛い姿を目の当たりにしてしまうのか。

 因果律恐るべし。

 俺は前世でどんな悪業を重ねたと言うのだろう?

 いや、現世で振られた女の子を揉みまくった罰かも知れない。

 俺に出来るのはそっとこの場から離れる事だけだ。

 今ならまだ気付かれていない筈。

 俺が逃げようと一歩後退った所で、俺の足が小枝を踏みつけてしまった。

 ベッタベタな見つかり方。


「あっ!増援で来てくれたヒーローですね!」

 セーラー服の人がポニーテールを揺らしながら、此方へ振り向く。

 俺を増援と呼ぶって事は、やはりこの人もヒーローなのか。

 問い合わせられたら俺の正体もバレちゃうんだろうな。

 まぁ別に俺の側には後ろめたい事は何も無い。

 寧ろ彼女の方が羞恥で悶える事になるだろう。

 願わくば俺の正体を知ろうとしないでくれ。

「私は『美少女銃士セーラーポニー』です」

 自分で美少女って言っちゃったぁ!!

 黒歴史確定です。

 俺の正体を絶対知られる訳に行かなくなった。

 きっと、羞恥で乱心した彼女にぶん殴られる。


 セーラーポニーは右手に持ったレイピアを下方に掲げ、左手を腰に当てて正にビシィッという効果音が聞こえてきそうなポーズをとって佇む。

 戦闘中にそんなポーズとってていいのかと思ったが、怪人はちゃんと待っててくれた。

 変身ポーズとか名乗りとかも待ってくれるのかな?いい奴じゃないか、怪人。

 因みにその怪人の容貌は台所とかにいるGである。

 だが、そんな事がどうでもいい。

 普段ならば小さいGが出ただけで、地球が侵略されるレベルで大騒ぎする所だが、今の俺にはGなど些事でしかない。

 遠い火星での出来事にすら思える。

 それ程にセーラーポニーが……痛い。


「さぁ、共に戦いましょう!」

 ノリノリで手を差し出し、俺を誘ってくる処がもの凄く痛い。

 まさかと思うが、先程から俺へ向けられている視線は、俺が逃げ出さない為の監視じゃないだろうな?

 この窮地を脱する方法は一つ。

 一刻も早くこの場から去る為に、早急に怪人を倒す!


 お姉ちゃんと共闘して――。

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