第12話 隠し機能
そして放課後。
俺は、屋上へ向かう黒木さんの後をつけた。
せっかく黒木さんと友達になれたというのに、今の俺は何処からどう見てもストーカー。
絶対に通報されない為にも、気付かれる訳には行かない。
それにしても、黒木君は何故か姿を見せないんだけど、メール見てないのかな?
俺一人で止めてもいいけど、いきなり実戦はプログラムがちゃんと動くか不安だ。
懸念事項として、俺の運動能力が低いって事もあるし。
そうこうしているうちに黒木さんは屋上へ出る扉を開けた。
黒木君、早く来て~。
レッドとピンクが来たら色々面倒そうだしな――と思っていたら
「何してるの?」
後ろから突然話しかけられた。
声の主は冬間桃香――ピンクだ。
「階段でコソコソして。もしかして女子のスカート覗こうとしてたとか?やっぱり変態ね」
「いや、意地でもそっちに持ってくの止めてくれない?」
「じゃあ、何してたの?」
言葉につまっていると、屋上から雷が落ちたかと思う程の大きな音が聞こえた。
余波で、屋上に出る扉のガラスが震えている。
黒木さんがナノマシンで怪人を生成したのかも知れない。
「今の何?」
ピンクの言葉とほぼ同時に紋章が緊急信号――紋章を持ってる人にしか聞こえない特殊音を鳴らす。
「怪人発生!ちょっと、イエローも早く変身して!」
「わ、分かってるよ!」
「「チェンジフォーム!」」
俺とピンクは変身すると、屋上へ出る扉を勢い良く開ける。
黒木さんは既にエメラルドに変身していた。
ピンクに黒木さんが怪人と一緒にいる処を見られなくて良かった。
そして、そのエメラルドの横には見た事のある容姿の怪人が……あれって、カメムシだよな?
あれ、つぶすと凄い匂い出るんだよ。
闘いたくないわ~。
「見たこと無いムシね。どんな攻撃をするか分からないわ。気を付けて!」
ピンク、カメムシ知らないって、お嬢様育ちなのか?
人類が科学の粋を集結しても絶滅できない虫の中で、ゴキブリに継ぐ嫌われ度を誇る虫だぞ。
「ピンクとイ、イエローか。まとめて消し炭にしてあげるわ!」
なんでエメラルドは俺の方を見る時、挙動不審になったんだ?
胸揉んだから?
イエローの印象が最悪ってことは、益々正体を知られる訳には行かないな。
黒木君にも重ねて秘密を守る様に釘を刺しておこう。
それにしても黒木君遅いな……あ、場所をメールして無かったから、学校中を探してるのかも?
さっきの音で気付いてくれるかな?
しょうが無い、ピンクと2人で怪人だけ倒して、エメラルドには適当に逃げて貰おう。
「やれ!」
エメラルドの指示でカメムシ怪人は俺達を襲う……かに見えたが、カメムシ怪人がその腕を振り上げて襲いかかった先は、攻撃の指示を出したエメラルドだった。
「な、何故!?ヒーローと闘いなさい!」
慌ててる黒木さん、何か可愛いな。
カメムシ怪人は完全にコントロールを失っているようで、自我すら無い感じで腕を振り回して只管にエメラルドを追いかける。
俺が仕掛けたセキュリティはうまく働かなかったのか?
危ないものを優先排除するように仕掛けたから、暴走によって攻撃対象が切り替わる程度じゃ発動しないのかな?
「チャンスよ!」
とかピンクが言ってるけど、さっきムカツクこと言われたので無視。
とりあえずエメラルドを助けないとな。
俺は右手を開き、掌を上に向けて心の中で唱える。
――『
微かに掌の上でナノマシンが淡い光を放ち立方体を形づくる。
本来は注意して見ないとほぼ見えない半透明の立方体だが、ナノマシンの光学迷彩機能で完全に近い程見えなくなっている。
空気中に漂うナノマシンはかなりの密度で存在しているが、この光学迷彩で光を素通りさせる事により景色の見え方を変えない仕様になっている。
NLL(ナノリンクライブラリ)で操作したナノマシンはこの機能が自動的にOFFになるんだけど、特定の関数を引数として渡してやると光学迷彩をONのまま物質形成できてしまうのだ。
悪用されると怖い機能だけど、NLLにはこれをサーチする関数もある。
但し、この光学迷彩をONのままにする機能に気付いて無い人には、サーチする機能も使えない。
だから俺のゴーグルを通してしか立方体は見えないので、多分ピンクには見えていない筈。
「ちょっと、私の話聞いてる?掌なんて開いて……って、またエッチな事しようとしてんじゃないでしょうね!?」
ほらね、見えてないでしょ?
ってか、掌開いただけで冤罪って、この世界生き難過ぎるだろ!
もうピンクは無視、無視。
そして、さっき心の中で唱えたキーワードは、ナノマシンで立方体の塊を生成するためのコマンドだ。
昨日見つけたNLLの隠し機能である『精神感応』ライブラリを使っている。
ちなみにこの精神感応は絶対に有る機能だと思っていた。
最初に変身した時、俺は何も口に出していなかったのに紋章が呼応したからだ。
心拍数や体温変化によって変身するのであれば、何らかの運動を行っただけで変身してしまうから、精神が追い詰められた時にだけ発する脳波を感知しているのではと推測した。
そして最初の解析では見つけられなかったけど、無理矢理深い部分も解析して漸く見つける事が出来たのだ。
これを見つけた時は歓喜した。
だって、考えただけでナノマシンに命令を送れるんだぜ?
超能力とか無詠唱魔法みたいで、すげー格好いいじゃん。
通常は音声認識や動作認識でコマンドを送るんだけど、それじゃあ敵にも情報が伝わってしまうし動作速度も落ちる。
それに対して精神感応で命令を出せれば、反射に近い速度でナノマシンを自分の手脚のように使える上に、音声認識や動作認識では出来ない多重操作も可能になる。
但し、多重操作は右脳によるイメージ操作になるのであまり細かい命令は送りにくい。
それでもこの精神感応は俺の運動神経の無さを補って余り有る程優秀な機能なのだ。
俺は掌を、エメラルドを襲っている怪人に向けた。
そして口には出さずに、
――発射!
命令を送ると、半透明の
一撃じゃあ威力が弱いか?
という事で飛んで行ったキュービットに、今度は上空から落下する様にして怪人の頭部を狙う命令を出す。
キュービットに使っているNLLの三つ目の機能、『遠隔操作』だ。
本来NLLは自身の周りのナノマシンしか操作出来ない仕様だが、悪の組織の怪人が自動的に動いているのを見て出来るんじゃないかと思って探ってたんだ。
結果として、怪人には自我みたいなもの――AIを植え付けてる様なので遠隔操作とは違うらしい事が解ったんだけど、遠隔操作は別のライブラリとしてちゃんとあったのだ。
これも隠し機能として通常ではアクセス出来ない領域にあったから、多分俺以外の人は使えない。
『光学迷彩』だけでもかなりのチート機能だけど、『精神感応』と『遠隔操作』はぶっ飛び過ぎる機能だから秘匿しておかないと危険だ。
悪用される事よりも、正義と悪のバランスを崩す事の方が何となく躊躇われるから、レッド達に教えるつもりも無い。
それに、俺TUEEEEEしたいし。
肉眼では見えないが、俺のゴーグルにはキュービットの位置情報が表示されるので、衝撃で上方に移動したのが見えていた。
そのキュービットが俺の命令に従い、方向を変えて再び怪人の頭部を撃ち抜く。
予想外の方向から攻撃された怪人は、今度こそ地に伏した。
もっともナノマシンの集合体でしかない怪人は頭部が弱点って訳でもないだろうから、この程度じゃ倒せないと思うけど。
「な、何をしたの?遠当て?あんたって気功か何かの達人なの!?」
あ、やべぇ。ピンクが騒ぎ出した。
精神感応なんだから俺は動かなくてもキュービットが攻撃してくれるのに、うっかり格好つけて右手を前に突き出したと同時に怪人がダメージ受けたからなぁ。
でもなんか、右手を前に出したくなるじゃん、「やれぇ!」って感じで。
まぁ、バレると色々五月蠅そうだから誤魔化しとくか。
「いや、怪人に攻撃しようとしたら勝手に倒れたんだよ」
「ほんと……?で、何で攻撃しようとしてるのにパーなのよ?普通グーでしょ?あっ!あんたまたエメラルドの胸を揉もうとして掌をっ!」
「TIGEEEEEよ!」
なんなの!?もうホントこいつ何なの!?
冤罪反対!
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