第7話 邂逅
俺と黒髪の少年は二十メートル程先にあるファーストフード店に入った。
まだ昼には早いが、店内は喧噪に包まれていた。
土曜日ということもあるが、新科学都市では若者が遊ぶ場所としてはこの辺が最適なので、人も多く集まる。
そして若い程、食と時間が融合しない。
現在の時刻は十時を少しまわったところなのにこれ程混み合うとは、朝食でも昼食でもない食が出来るのは若いうちだけだよね。俺はこれが朝食だけど。
「何がいいですか?」
少年に聞かれ、俺は
「じゃあ、ウーロン茶とブレックセットで」
と頼み、先に席に向かった。
しばらくして、俺が注文したセットとコーヒーを持って少年も席まで来た。
「あ、じゃあこれ」
先に特典のキャラカップを少年に渡す。
「ありがとうございます!」
少年は男の俺が見ても可愛いと思える笑顔で、目をキラキラ輝かせてヘイトの絵を眺めていた。
口元はもうユルユルだ。
「ホントに好きなんだね~」
こんなに喜ばれると譲ったかいがあったと思える。
そこで少年が自己紹介した。
「あ、僕、黒木琥珀っていいます。新科学高校の一年です」
「へぇ。俺は、真黄秋人。同じ新科学高校の一年だよ」
「え、ホントに?」
黒木君か。まさか同じ学校だったとは。
ん?どっかで聞いた名前のような……気のせいかな?
「すごく嬉しい!同じ高校にナノカ見てる人がいるなんて。真黄君、アドレス交換しよう」
「うん、いいよ。俺もナノカの話できるのは嬉しいし」
俺と黒木君はお互いの端末を表示してアドレスを交換した。
現代のアドレスはメールだけでなく、通話からファイル転送等さまざまな用途に使える。
旧時代のようにいくつも番号やアドレスを持つ必要な無い。
アドレスを交換したら、すぐに黒木君は何かを送ってくれた。
開いてみると、それはナノカの変身シーンの特大画像だった。
「おお、これ結構レアな画像だ。ありがとう」
「いえいえ。僕の方がキャラカップ譲って貰えてすごく有り難いし」
俺と黒木君は、それからたっぷり一時間ぐらいファーストフード店でナノカについて語り合った。
割とイケメンなのに相当なナノカマニアの黒木君は、周りの目も気にせずに大興奮で話していた。
好きなキャラは違っても、不思議と対立することなく有意義な時間を過ごせたな。
ナノカ好きに悪い奴はいないのである。
黒木君と別れた俺は、しばらくブラブラと買い物や立ち読み等をしていた。
ナノカのDVDを買う以外に目的も無かったので、ホント暇つぶし程度。
親友の守でも誘ってみようと思ってメールしてみるが、「土日はデートなので無理」と断られてしまった。
おのれリア充め……。
そのまま二時間程街を歩き回った。
疲れたのでそろそろ帰ろうと思い、駅に向かって歩いていた。
途中、何気なく路地へ視線を向けるとおかしな人影を見つけてしまった。
おかしなというのは、それ以外に形容しようがなかったからである。
普通の大人ぐらいの身長で風貌は、黒い帽子とコートで体を覆いマスクをしていたので顔等は殆ど見えない。
それはいいのだが、コートの膨らみ方が明らかにおかしいのである。
以前の俺であれば特に疑問も持たずに立ち去っただろうけど、ヒーローに変身できるようになって気持ちが高ぶってしまった。
もしかしたら怪人かも知れないし、俺には戦う術がある。
俺は人目につかない場所を探して周りを確認すると、気持ちを高めてポーズを決めた。
「チェンジフォーム!」
俺の尻が煌めき、紋章から出た光が俺の体を包み込む。
ナノマシンが黄色に白のラインが入ったスーツとヘルメットを形成し、俺はヒーローの姿へと変身した。
若者の街と言われているだけあって、各所にコスプレイヤーが歩いているから、俺が変身した姿で歩いていても不審に思われることはないと思う。
でも羞恥心が働いて若干こそこそする俺。
素早く先程の路地に向かうと、まだコートの人(?)はそこにいた。
俺は意を決して声をかける。
「「おい!」」
って、ん?ハモった?
コートの人の奥に、黒いスーツにヘルメットを被った人が立っていた。
スーツに入った白いラインは、俺の変身後のスーツにそっくり。
その彼を見た時に漸く黒木琥珀という名前をどこで聞いたか思い出した。
新科学高校にいるヒーローの一人、ブラック――あれは、黒木君だ!
「さすがヒーローだ。俺のことを見破るとは」
コートの男はそう言うと着ているものを脱ぎ捨てた。
そこに現れたのは、人間のように二足で直立した昆虫。
黄金虫のような体は緑色に輝いている。
やはり怪人!
あれを俺一人で倒せるのか?
いや、ブラックもいるけど、レッドが言ってた事も気になるんだよな。
『正義の為に闘ってるわけじゃない』
ブラックなりに思うところがあるのかも知れないけど、意見が違う者と共闘してはくれないのでは?
というか、俺自身まだヒーローに成り立てで確固たる信念があるわけでは無いし。
でも、悪の怪人を放ってはおけない。
「な、何?ヒーロー?」
突然後ろから声がした。
人が来たのか?
一般人だとしたら危険だ!と思って振り返ると、黒髪の美少女は俺に向かって目を見開く。
「あ、あなたは……」
俺には一瞬でそれが誰か判別できた。
高校に入学してから毎日目で追っていたのだから当然だ。
昨日は事故とはいえ、俺が押し倒して胸を揉んでしまった少女――黒木さんだ。
怪人は黒木さんを見て不可解なことを言った。
「ターゲットが向こうから来てくれた」
ターゲット?
黒木さんの所属する組織の怪人じゃないのか?
ヒーローもそれぞれの思惑で行動してるし、悪の組織内で複数の思想があっても不思議じゃないけど。
などと考えている余裕は無かった。
「ガアアッ!」
怪人が口から怪光線を、黒木さんに向かって発した。
「危ないっ!」
俺は自分の体を投げ出して、黒木さんの前に飛び出した。
「ぐはっ!」
背中に光線をあびて黒木さんごと倒れ込んでしまう。
激痛が背中を襲って、視界が歪む。
スーツが一部吹き飛んでズタズタになってしまった。
痛みで意識を失いそうな中、黒木さんの無事を確認する。
「だ、大丈夫……?」
「は、はい……」
黒木さん、少しほほが赤くなっているがケガは無さそうだ。
良かった。
後ろでブラックが怪人と闘っていた。
俺みたいな素人と違って、一人で互角以上に怪人と渡り合っている。
ブラックの右手が強く輝き、その拳が怪人を貫いて腕を一本を吹き飛ばした。
そこまで確認すると俺の意識は闇の中へ落ちた……。
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