第5話 OS

 俺と赤い人とピンクの人は、今生徒会室の前にいる。

 この生徒会室へ来るまでの道のりは、二度と通りたくないものだった。

 生徒会室は、先程戦闘があった2階の部屋と中庭を挟んだ、向かい側の建物の3階にある。

 俺の腕を掴んだまま、赤い人が次にとった行動は『窓から飛び下りる』――ではなく、『窓から飛び上がる』だ。

 そのまま宙を駆けながら2階3階を通り越して屋上に着地。

 俺は腕を掴まれたまま、なすすべもなく放り投げられたような軌道で背中から屋上に落下した。

 そのまま赤い人は俺を引き摺って屋上を走る。

 建物同士を繋ぐ渡り廊下の分、建物間には隙間があって屋上は繋がっていない。

 そこを赤い人は俺の腕を掴んだまま次々に飛び移っていく。

 御陰で引き摺られている俺は柵で頭を何度も打った。

 ヘルメット被ってなかったらアホになってたわ!……既にアホだよって、つっこむ人がいなくてよかった。

 そして屋上の非常階段から生徒会室のある3階まで降りた。


「なんで、生徒会室?」

「いいから早く入りなさい」

 ピンクの人に尻を蹴られ、室内に倒れ込む。

「ちょっ、扱い非道すぎない?」

「変質者に人権なんて無いわよ」

「いや、だからあれは誤解で」

 そう、黒木さんが悲鳴を上げた後も一回揉んだのは、本能だから仕方が無いのである。

「最初のは事故に見えなくもないけど、手を離す前に一回胸揉んでたよね?」

 赤い人、余計なこと言うんじゃねぇぇ!

 ピンクの人の視線がとっても痛い。

 痛すぎてなんか逆に気持ちよく……。

 と、赤い人とピンクの人が変身を解いた。

 俺は2人に見覚えがあった。

 一年にして、生徒会役員になった優等生。

 普通の学校では上級生を中心に生徒会を構成するが、この学校では春に学校長が直々に指名する。

 学年や成績等一切考慮せずに選抜されるシステムに疑問を持っていたが、今2人を見てヒーローと何らかの繋がりがあるのではと気付いた。

「さぁ、顔を見せて」

 そういえば、どうやってこの変身解くんだろう?

 どうやって変身したかも分からないし。

「あの、俺初めて変身したんで変身解く方法分からないんですけど……」

「そう、初犯ってことね。でも痴漢に情状酌量の余地は無いわ」

「だから、いつまで犯人扱い!?」

 隙を見て逃げだそうか?

 でも、こいつら運動神経良さそうだから逃げ切れないかも。

「音声認識で『アンフォーム』って言えば変身は解けるはずですよ。変身する時は『チェンジフォーム』って言ったでしょ?」

 いや、何も言わなくても変身しちゃってたけど?

 取りあえず、赤い人の言う通りにしてみる。

「アンフォーム!」

 俺を覆っていた、ヘルメットと服は粒子状になって消えた。

「やっぱりこの学校の生徒だったわね」

「はぁ、まぁ……」

 どうしていいのか分からず、しどろもどろになってしまう。

「じゃあ、警察に」

「そのくだり、もういいよ!」

 もはや自分がボケなのかツッコミなのか分からない。

 いや、それ以前に解決しなければいけない事があるんだった。

「さっきのって何?俺、訳も分からず怪人に襲われて。逃げた先で何故か変身しちゃったんだけど」

「落ち着いて。先程あったことを詳しく教えてほしい処だけど、まずは自己紹介をしよう。僕は一年一組の春野紅貴はるの こうき。生徒会長でヒーローのレッドです」

「私は生徒会書記の一年四組冬間桃香とうま ももかよ。ヒーローのピンク。で、あなたは?」

「俺は、一年二組の真黄秋人まおう あきと。たぶん、さっきのスーツの色的にイエローなのかな?」

 同じ一年とは言っても別のクラスではほとんど面識が無いので、お互いにほぼ初対面の様なものである。

 でも、ヒーローを名乗っているのだから悪人ではないはず。

 俺のことは完全に悪人扱いだけど……。

「とりあえず、さっきあったことを話すよ」

 俺は先程、生徒会の二人が来る前に何があったのかを詳しく話した。

 もちろん、黒木さんのことは伏せて。

 冬間は俺を疑っていたが、春野は直ぐに信じてくれた。

 生徒会長だけあっていい奴なのかも。

「なるほど。偶然エメラルドと怪人に出会ってしまって隠れていると突然変身した。簡潔に言えばそんなところかな?」

「うん、まぁ。俺から話せるのはその程度だよ。何で変身できたのかもさっぱりだし。」

「何故変身したかは、僕らの方で大凡の見当はついているよ。最近何か心が強く揺さ振られるような出来事は無かったかな?」

 ありましたとも。絶対言わないけどね。

「女の子にでも振られたんじゃない?」

「なんで分かるんだよ!」

「図星なんだ……」

「しまったあぁぁ!」

 巧妙な冬間の言葉のトラップにかかってしまった。

 俺はその場でorzのポーズ。

「まぁ、よくあるよね……」

 フォローしてくれるなんて春野、いい奴だな。

 でも今はその慰めいらない。

「真黄君、体のどこかにこういう紋章ないかな?」

 春野が右腕の袖をめくると、微かに光る紋章が現れた。

 ゲームとかでよく見る魔方陣のようなデザイン。

 発光型ナノマシンのある新科学市では、体の一部を光らせることは左程難しいことじゃない。

 でも、その紋章はそういったフェイクの類いではない様に見えた。

「いや、そんな紋章無いと思うけど」

「変身する直前に、体のどこかが強く発光しなかった?」

「あ、そういえば尻が光った」

「やっぱり変質者!」

「ちがあぁぁうっ!」

 冬間め、どうしても通報したいらしい。

 特定されてたまるか!

 事案とか発生して無いんだからねっ!

 コラコラ、俺の方を見ながらガクガクブルブルすんなよ、何なのこの女?

 もうこいつは無視して春野と話をする。

「その紋章って何なんだ?変身と関係あるの?」

「うん、じゃあその辺から説明しようか」

 春野が説明してくれそうになったが、冬間がそれを静止する。

「待って。うかつに話して、もしこいつが悪の側の人間だったら危険だわ」

「たぶん大丈夫だよ、桃香。話を聞く限り悪人じゃなさそうだし、少なくとも紋章を持っていて変身出来るってことは、正義の適正があるってことだから」

 俺ってモテない自覚はあるけど、ここまで嫌悪感を持たれるのは初めてだな。

 冬間とは相性が悪すぎるのか?

 昨日今日と女運最悪だ。

「この紋章は君の予測どおり、変身をサポートするためのものだよ。精神が高ぶって心拍が上昇するとこの紋章へエネルギーが送られて変身するんだ」

「なるほど。でも、あのヘルメットとかスーツはどっから出てるんだ?次元転送なんて今の科学じゃ不可能だろ?」

「スーツを形成しているのは、ナノマシンだよ。紋章が周りのナノマシンにアクセスして外装を作り出すんだ。スーツは動作補助や敵の分析もしてくれる。」

「つまり、この新科学市限定の能力なのか。でもすげえ!それだけでも十分オーバーテクノロジーだよ。あ、でもOSはどっかのサーバーに置いてあるのか?」

「いや、OSはこの紋章自体に入っている。一度変身すると、端末からログインできるようになるはずだよ」

「へぇ、そうなのか」

 新科学市では、空中にディスプレイやキーボードを出現させることができる。

 ナノマシンが自己発光して恰もそこに物体があるかのように見せ、更にお互いに電磁波でリンクして通信等を行う。

 市の中央サーバーに格納されているデータに端末でアクセスすれば、通常のPCと同様の作業が出来る。

 現代では、新科学市以外でもPC内にOSが入っているということはほとんど無い。

 サーバー側に入ったOSにアクセスして作業するのが主流だ。

 俺は、端末を開いてみた。

 表示されている情報の中に、ローカルOSという項目が追加されている。

 今朝、守のシステムを見てやった時にはなかった項目だ。

「これがそうなのか」

 ローカルOSにアクセスしてみると、俺の臀部が少し光った。

 冬間の「キモっ」と言う声は無視してキーボードを叩く。

「OSのバージョン……Meeって、駄OSかよ!」

 OSはバージョンによっていいOSもあれば駄目なOSもある。

 開発者達が一回置きにβバージョンとしか思えない駄OSを作ってしまうからだ。

 OSは古いものから、NTR、Mee、Foxp、Vesta、Heven、hate、Decadeといったコードネームをつけられている。

 その中でも最も駄作と言われている駄OSであるMeeが俺の紋章のOSだった。

「かなり長い間紋章が使われてなかったんだね。先代のイエローは相当昔の人なのかい?」

「いや、先代とか知らないし」

「そうなんだ。それはいいとして、マイナーアップデートは自動でやってくれるけど、コードネーム変更程のアップデートは手動でやらないとだからね」

「そっか。あとでバージョンアップしとこ……」

「ちなみに僕と桃香のOSはHevenだよ」

 くそう、一番安定しているOSじゃね~か。いいな~。

「OSあるってことはプログラミングで動作を変更できるのか?ナノマシンでスーツなんかを形成できるってことは、巨大ロボとかも呼び出せるかな?」

「それはよした方がいい。紋章は君自身の体のエネルギーで動作しているんだ。変身も長時間続ければかなり体力を消耗するよ。巨大ロボを呼び出す程のエネルギーを紋章に供給したら命に関わるかもしれない」

「マジ?」

 聞いておいてよかった。

 自分のプログラミング能力にまかせて色々試そうと思ったけど、基本システムを見直すぐらいにしよう。

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