第3話 逃走
授業も終わり、放課後俺は図書室へ向かっていた。
特に部活に入っていない俺は、本を読んで放課後を過ごすのが習慣化していた。
20世紀の学校の図書室と違い結構くだけた書籍も多く揃えてあるので、文学少年という訳では無い俺でもそこそこ楽しめる。
最近のお気に入りは「ゲーム制作概論」と「端末構造化プログラミング」。
電子書籍化されていない本に意外な情報が載っていたりするので、実書籍もバカには出来ないのだ。
図書室の扉を開けようとすると、中から声が聞こえた。
いつもは誰も近寄らない図書室に管理人は存在しないので、無人である事が殆どだったのに。
そこに人がいれば否応なしに二人きりだろう。
知らない人と二人きりは気まずいので、俺は少し入るのを躊躇した。
しかし、中から聞こえるのは会話のようだった。
という事は少なくとも二人以上はいるのだろう。
俺は何故かそのうちの一人の声に聞き覚えがあるような気がした。
「じゃあ、連中をおびき出して罠にはめるのね」
女性――?
それにしても何やら物騒な話をしているな。
俺は少しだけ戸をずらして中を覗いてみる。
そこには昨日俺を振った黒木さんと、昨日見たのとは違う怪人が話をしていた。
怪人は、は虫類のような体で全身が緑色。
異常に発達した背びれのようなものがピクピクと動いていて凄く不気味だった。
「エメラルド様は敵の動きを封じるのをお願いします」
「わかったわ」
怪人は何故か黒木さんをエメラルド様と呼んでいた。
黒木さんは怪人と並んでいても可愛いなぁ、とか思ってると黒木さんの胸のあたりが黒く輝いた。
光なのに黒いというのは、新科学でも異常な現象だ。
光はみるみる内に黒木さんの体を包み込み、怪しげなコスチュームへと変貌した。
緑色に怪しく光り、局所を中心に守る鎧のようだ。
顔もマスクのようなもので口以外を覆われている。
変身前を見ていなければ、これが黒木さんだとは誰も気付かないだろう。
何かやばいかもと思ってその場を立ち去ろうと戸を閉めたが、普段使われていない戸はギギッと軋むような音を出してしまった。
油さしとけよぉぉ!
「誰だ!」
当然、秘密の話らしきものをしていた二人はこちらを見る。
捕まったら何をされるか分からないので、俺は一目散に逃げた。
幸い数メートル先は曲がり角で、その曲がった先には階段もある。
顔を見られること無く逃げ切れる!――と思っていた。
全速力で走ったが、曲がり角に差し掛かる前にガラッと後ろで戸が開く音がした。
多分後ろ姿を見られてしまった。
顔は分からなくても走った方向が分かれば追ってくるだろう。
そして俺は予想外の事態に狼狽する。
俺が走った先にはテープで進入禁止の処理がされていた。
曲がった先の階段は来る時に通った廊下とは反対側だったので、工事中で利用できなくなっていることを知らなかったのだ。
「マジか?」
多少曲がり角まで距離が有っても元来た道へ走るべきだった。
でも悩んでいる暇は無い。
階段を降りずにそのまま突き当たりの教室の中へ転がるように逃げ込んだ。
そこは物置のようになっていて古いロッカーがいくつもあった。
俺はその中のロッカーの一つに一先ず身を隠す。
「何が起こってるんだ?昨日のあの怪人も何か関係あるのか?」
そういえば、最近町に怪人が現れるという話も聞く。
都市伝説的な扱いで本気にしていなかったが、2日連続で見ればさすがに信じるよ。
そういえば都市伝説と言えば、ヒーローみたいな奴のことも噂になってたな。
昨日見たコスプレのような二人組はヒーローだったのか?
などと考えていると、戸をガラッと開ける音がした。
「ここに逃げ込んだことは分かってるぞ。出てこい!」
ロッカーの隙間から覗くと、先程の怪人が恐ろしい目つきで辺りを見回していた。
ネットスラング的に言うと、シャベッタアアァァァァ!
まぁ、さっき喋ってたの聞いてたんだけどさ。
あ、俺以外と余裕あるわ。
突然ドガンという音と共に向かい側の一つのロッカーが拉げた。
怪人が信じられない程の腕力で殴ったのである。
あの拉げたロッカーに人が入っていたら、間違い無く重傷だ。
俺、余裕無くなった……。
「全部潰せば出てくるだろう」
物騒なことを仰るぅ!でも、もう逃げることも出来ない。
端末で助けを呼ぶか?でも助けが来る前に俺はぺしゃんこだろう。
「本当に誰かいたの?私の正体を知られたとしたら消さなきゃいけないけど」
部屋に入ってきたであろう黒木さんも又、物騒なことを仰ってます。
こっちの方が正体知られる訳に行かなくなってるけどね。
ドカン!ドカン!と次々に怪人がロッカーを破壊していく音がする。
しかも、音は徐々にこちらに近づいてくる。
もうダメだ……。
そう思った時、急にロッカーの中が明るくなった。
無意識に助けを呼ぼうとして端末を開いてしまったのかと思ったが、違った。
俺の臀部が光ってるんだ!
蛍?
俺、蛍になっちゃったの?
しかも右側の尻だけ。
「何だ!?光?そこか!」
やばい!
そう思った時、臀部の光は一層強くなり俺の目の前が光に包まれた。
瞬間、ロッカーが弾け飛び、それを避けた怪人は俺に殴り掛かる事が出来なかった。
俺の臀部から発した光は部屋中を昼間のように明るく照らした。
徐々に視界が鮮明になって行き、目の前に怪人と変身した黒木さんが立っているのが見えた。
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