第6話 Another Route


         1


「よし、行くぞ!」

 佳純は頭のハチマキを締める。

「先輩……もう少し緊張感を出しましょうよ」

「私はこれが一番気が入るんだよ。さあ、行くぞ」

 振り返ってみれば、新は佳純がハチマキを巻いているところを見たことなかった。もしかしたら、本当に気合を入れるときは付けるのかもしれない。

 神敷基地に盗まれたディバイスがあるとわかり、すぐさま新たちはそこに突入することにした。幸いにして、昨日の調査によって、核シェルター内の大体の経路は把握していたし、それが神敷基地に繋がっていることも容易に想像できた。そこで、先輩の号令の下、調査の身支度を整え、昨日と同じ場所――学校の裏の近くの核シェルター――にやってきた。

ただ、前回とは挑む思いが全く違う。今回は冬華を、助けに来たんだ。


          2


 スムーズに歩を進め、昨日佳純が様々なモノを回収した場所にやってきた。その様子は前回とあまり変わらない。だが、その事実が新を不安にさせた。

「先輩、どっちですか……」

「こっちね。こっちに行けば、基地のある方角だわ」

「ここからは、知らない道ですね」

「そうね。気を付けて行きましょう」

 突如、甲高い音が耳を刺した。警告音だ!

「きゃあああああ」

 玲菜の悲鳴がそれに重なる。

「先輩……どうします……」

 ピリリとした緊張感が張り詰める。ここは軍の基地なんだ。下手なことをしたら……

 思わず、息を呑んだ。

 佳純は困惑した顔を浮かべながら、

「そうね……今回は、一旦引き返しましょうか」

 佳純が踵を返したその時、

 銃声が鳴り響いた。

 反射的に身体が強張る。恐怖で声も出なかった。

「いた!」

 聞き覚えのある声だった。

「冬華!」

 思わず、新は叫んだ。

「……」

 冬華は顔を伏せたまま、何も語らなかった。

「知り合い?」

 隣にいる少女が冬華に尋ねた。冬華は少しの沈黙の後、

「………ううん。知らない」

 と答える。すると、少女は銃を構え、

「なら、撃っちゃっていいよね!」

 パンと銃声が響いた。銃弾が新の頬をかする。痛みと共にポタポタと血が流れるのを感じた。

「悠莉……ここは私に任せてくれない?」

「おっ、そうだね。うん、久々に見せてよ」

 冬華は一歩前に踏み出した。

 新は叫ぶ。

「冬華! どうして?」

「……関係ないだろ。あれは、私であって私じゃない」

 その声はひたすら冷ややかで、他人を遮断するような言い方だった。

 新は意を決した。

「…………冬華。無理してない?」

「…………!」

 銃声が鳴る。新の足元をかすめた。冬華は声を張り上げる。

「もう、私に関わるな!」

 同時に銃弾の雨が飛んだ。しかし、一つも、新の体に当たることはなかった。

「冬華……」

 新は、じっと冬華を見つめる。

 少女はそんな冬華を見かねたのか、

「あー、もう私が撃っちゃうからね。報酬は折半でいいよ!」

 銃を構えたその時、

「伏せて!」

 佳純の声が響いた。

 佳純は右手に持っていた発煙筒を宙に投げる。一瞬で煙がシェルター内に充満し、視界を妨げた。

「逃げるよ!」

 新たちは、全力で走った。


         3


「……はあ……ッ、はあ……」

 なんとか、核シェルターを抜けた新たちは、校舎裏で一息ついていた。日はもうとっくに暮れていた。

「流石にここまで追ってこないと思うわ……。核シェルターの外で変な動きもしたがらないでしょうし、日本の法律が適応されるからね……。それにしても、あれは、どういうことかしら……」

 佳純は疑問を呈した。

「冬華は、なんか無理をしているようだった。関わるなって言っていたけれど……きっと、本心じゃないと思う。…………助けたいよ」

 新は、冬華と初めて会った日のことを思い出していた。あの言葉は本心から出たものだ。断言できる。

だから、僕はあのときの約束を守らなければならない。

 新は、心の中でそう誓った。


         4


「あーあ、逃げられちゃった」

 悠莉は顔をしぼませながら、足元の小石をけった。

「ねえ、蛍。教授にどう報告しようか? このままじゃ私たちペナルティ確実だよ?」

「……」

「蛍?」

バタリと蛍は倒れた。


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