第2話
「さっきの……ピアノ弾いてた」
「ミカムラです。覚えておいて損は無いですよ。十年後は、知らない人が少数派になりますから。それよりこんなところで一体何を? もしかして悪事ですか? それともわたしがここに来る事を知って本当に待ち伏せとか……あ、本気にしないでくださいよ? 冗談で言っているんだから」
「……酔いざましに、ちょっと考え事とか、色々。ミカムラさんこそどうしたの?」
「個人的に嫌なんで、名字で呼ばないでください。フウ、で。呼び捨てが一番聞き慣れてるし、楽ですんで、ご迷惑でなければそれでお願いします。まあ別にフウさん、フウちゃん、フウ君でも良いっちゃ良いけど」
上手く言葉が思い浮かばなかった。自分ではそこそこ出来る営業マンのつもりだったんだけど。一か月で随分衰えたのか、作り笑いすら上手く出来なかった。
「ピアノで曲の進行とか考えてたら追い出されちゃって。片付け手伝わないなら帰れって。家のやつより良いピアノだからもうちょっといじりたかったんだけど」
「作曲はやった事無いから上手く想像出来ないけど、大変そうだね」
「わたしぐらい天才でも……まあ結構大変です」
話しながら、自然な動作でフウは隣のブランコに腰を下ろした。ドレスの裾が地面にべったりとついてしまっていたけれど、本人は気にもしていない様子だった。誰かれ構わず話したい内容が山ほどあるらしい。俺が返事をする、しないに関わらずフウは喋り続けた。
将来は作曲家として身を立てたいけれど、現在学校には都合で通っていない。そもそも〝作曲家として身を立てる〟にはどうすれば良いのかも分からない。最近この近くに引っ越して来た事もあってマスターにアルバイトさせて欲しいと頼んだら専属ピアニストにされた。家には中古のアップライトピアノがある。不動産屋は問題無く練習出来る部屋だと言っていたのに、いつの間にか、隣家との取り決めとやらで夕方五時までしか弾けないことになっていた。今作っている曲が〝自分には珍しく〟難航している。この公園は、行き詰った時とか、疲れた時、家にいたくない時の休憩用で、ブランコの、正面から見て右側がいつもの指定席。年は二十二歳で、音楽は内臓みたいなもの、らしい。
「まあそんなわけで、これからどうぞよろしくっていう話でした」
「アルバイトはどのくらいやるの?」
「いつでも来たい時に来いって言われてるからそのつもりです。まあ……三日に一回とか。それより今日弾いた曲、どうでした? あれ、わたしのオリジナルなんですよ」
「始まりがあって終わりがあるって言うか、なんか物語っぽくて恰好良かった……かな。あんまり、そういう感想を言うの慣れていないんだ」
「最高の賛辞、感謝します」
フウが嬉しそうに一礼すると、女の子の、いかにも女の子らしい匂いがした。別れた恋人を少し思い出した。今頃、何処でどうしているのやら。
茶髪を短くした活発な子で、そんな見た目とはあまり関係無く、言いたい事はぎりぎりまで言わないで溜め込む性格だった。爆発すると手がつけられなくなる。〝死ね〟メール以降は電話をかけてもメールを送っても完全に無視されている。やめよう。あまり思い出し過ぎると頭痛がしてくる。
「なんか、パーティーの時もそうだったけど、ずっと難しそうな顔していますね。まあ、そんな様子だったんでわたしも覚えていたわけですが」
俺は自分の現在状況をかいつまんで説明した。訊かれれば誰にだってするような範囲での話だ。例えばマスターだって知っている。俺がいかに情けなくて、だらしなくて、腰が重いのか。そんな話。砕いて言ってしまえば、盛大な言い訳だ。
フウは時折のんびりとした相槌を加えながら俺の大して面白くもない話を、夜にとても相応しい静かで涼しげな表情で聴いていた。
風が少し出てきたようだった。雲が流れて、月がはっきりと見えるようになった。夜が深まっていく。その表情を変える。静けさが凝縮していく。その隙間に挟まれる俺の話とフウの相槌。なんだか、此処だけが世界から切り離されてしまったかのような感覚にとらわれた。
「大人は大変だ……とか言って、わたしも一応大人な上に、こんな適当な感じなんですけど」
「でも、夢があって、それに向かってるんでしょ? いいじゃん。俺なんかと比べちゃいけないくらい充実してると思う」
「誰かと比べてどうこうなんて無意味ですよ。そもそも、そんな立派なもんじゃないですから、わたし」
「そんな事無いって……俺も、もっと必死に頑張らなきゃいけないような気がしてきたし。本当、早く何か始めないと」
「心配しなくても、西から風が吹けば、皆が幸せになれるんです。ずっと昔から、そういう事になっているんですよ」
「何? それ」
「おまじないです……さて、帰ります。何だか、今なら続きが描ける気がするので。お休みなさい……あ、せっかく知り合えたんだから名前教えておいて下さいよ。もしかしたらこれが大きな意味を持つ事になった、なんて事になるかもしれないから」
「タカダシンゴ。鳥の鷹に多いで鷹多。真実のシンに護衛のゴでシンゴ。漢字が一回で変換されなくて迷惑だって、学生の頃はよく言われてた」
「覚えておきますね。あたしの名前もお忘れなく。十年後に少数派にならないように、ひとつ宜しくです」
そう言えば、誰かに名前を訊かれるのも久しぶりの事だった。去っていったフウと、相変わらずブランコの上の俺。自分で気持ちが悪くなるくらいに前向きな気分になっていた。
前向きになった俺に何が出来る? 考え事を更に続ける? それよりも先に家に帰る。出来る事をする。そして、一刻も早く何かを始める。今なら何かを始められる。そんな気がした。
* * *
一週間。七日間。百六十八時間。何を始めるにしたって、その準備くらいには取りかかれるだけの時間量であるはずなのに。人はそう簡単に生まれ変わったり出来ないのだ。結局何も変わらなかったし、何も始まらなかった。
喫茶店に行くのは今日があのパーティー以来だった。間隔が空いたのは、どうにかして少しでも動きだそうと足掻き続けていたせいだ。
扉を開いた店内。先客は一人だけで、ピアノの蓋はぴっちりと閉じられていた。マスターは相変わらず暇そうに文庫本を読んでいた。店もマスターもまた、そう簡単に生まれ変わったりは出来ないらしい。
「今日は演奏は無いよ」
いらっしゃい、より先にそう言われた。何でも、常連客の殆どが店に来る度にその有無を尋ねてくるようになってしまってそれが鬱陶しくなったらしい。
「受け入れられるのはあの子にとっても店にとっても喜ばしい事だけどね。うちはコーヒー屋だ。レコードショップやライブハウスじゃない」
「でも、マスターが始めさせたんですよね?」
「まあ……なあ。何にしても、きっかけってのは必要だろう? 私は思うんだけど、人生って、きっかけが全てなんだ。タカダ君だって分かるだろう?」
分からない。いや、違う。分かりたくない。きっかけなんて言葉、今の俺は大嫌いなのだ。後悔しか頭に浮かばない。どうして動き出せそうだった時に、勢いでそのまま動かなかったのか。きっかけは確かにあったのだ。俺がむざむざそれを無視した。そこに万人を納得させられるだけの理由はあるのかどうか、繰り返し自分を問い質す。マスターとの話を切り上げて、席について、ブレンドを注文して、それを待ちながら繰り返す。だらしない俺はその度に自分に対して言い訳をする。口ごもりながら、思いつく限りの理由を並べる。
体調があまり良くなかった。部屋を片付ける必要があった。その他沢山の、ああでもない、こうでもない。自分で自分の醜さに欠伸が出てくる。ブレンドが目の前で湯気を上げる頃には、もう完全に絶望だ。
「出来れば、おいしいでしょう? と聞ける温度のうちに飲んでくれると嬉しいんだがね」
「あ……すいません」
言われて顔を上げると、マスターが、俺を見下ろしながら半笑いだった。
「悩むよりは動いた方が簡単だと思うんだが……仕方ないのかね」
「まあマスター、若者は悩むのも商売みたいなもんだから。ちゃんと考えるだけ偉いと思ってやんなきゃ。我ら隠居ジジイは見守るのみ」
三つくらい離れた席にいた、スーツ姿の、いかにも紳士といった風体の男性がそんな事を言った。パーティーにも居た常連のお客だ。会話した事はないけれど、俺も何度か居合わせた事がある。いつもブルマンで、そこらへんの自動販売機やコンビニでは見かけないような、マニアックな銘柄の外国たばこに、やたらと高そうなライターで火をつける、〝古き良き時代とは私の事である〟なんて感じの人。
「老いとは悲しい事だが、良い事もある。こうして、あらゆる出来事に対して観客でいられる。結構なことだ。なあ爺さんもそう思うだろう?」
マスターの顔が半笑いから苦笑いを経由して、ただの渋面になった。紳士がいかにも楽しそうに、フフ、と笑いを一つ漏らすと、それを迎え撃つかのようなマスターの舌打ちが一つ。開戦の合図だった。
「バカな事を言ってるんじゃないよ。何せ私は永遠に若いからね。理解出来ん」
「あんた六十だろ今年。世間じゃ還暦って言って、そりゃもう立派な爺さん社会への仲間入りだ」
「そんなコミュニティに所属する気はさらさら無いよ。私にはやらなきゃいけないことが沢山あるんだ。守るべきもの、果たすべき役割。老いる暇なんか無い」
「そんな事ばっかり言ってると、そのうち誰からも見向きされなくなるよ、マスター。もう既に飽きられてんじゃないの? 今日だって私が来る前は閑古鳥だったじゃないか」
「あんただけじゃないさ。こうして来てくれる若いお客さんがいる。私はまだ必要とされているね、明らかに。あんたはどうなんだ? 会社に行ったところで特にすることも無いんだろう? お役御免になったって喜んでたくせにどうして今でもスーツなんぞ着てるのかね」
「……一応、会長職に就いているんだが」
「お飾りだね、そんなものは。私には分かる」
「失敬な男だな、相変わらず。もう良い、私は帰るよ」
「おお帰れ、さあ、お帰りよ。今日は私の奢りでいいよ。本当はブルマンなんて高額商品だから嫌だけどね、仕方ない。お役御免の人から金取ったりしたら私が懺悔しなきゃいけなくなりそうだからね、さあ、お帰り」
それからすぐに、マスターとやり合っていた紳士は特に何も言わず帰っていった。席にはちゃんと千円札が一枚。俯きながら金をエプロンのポケットにしまうマスターがしょんぼりと項垂れるのが見えた。
「……昔からどうもね……やりだすと戻れなくなっちまう。悪い癖だとは思うんだが。だけどさ、人の店で、人の出したコーヒー飲みながらホスト側をジジイ呼ばわりだなんて、そんな無礼に屈するほど私は善人じゃないんだよ。私がどんな気持ちになるのか考えもしないで言いたい事だけ言いやがって」
「まあ、仰ってる事は分かりますけど」
「分かってない。タカダくん、まるで分かってないって顔……いや、自分は関係無いって顔だな。いいかい? 人はいつだって、何らか役割を果たしていかなきゃならんのだ。それを諦め始めたその時から老いが始まる。社会の中で自分が自分じゃなくても良くなるんだ。誰が交代しても問題の無い人間になったら、その時はもう、死に体だよ」
マスターの言葉通りだとしたら、俺は誰しもが納得するであろう〝死に体〟だ。現時点で、俺は、俺である必要性を何一つとして持っていない。諦めてこそいない自信はあるけれど、役割なんか何処にも見当たらないし、仮に、何処かの似たような奴と入れ替わっても、俺が属する小さな世界は問題なく運営されていく。要するに俺は、マスターの一言でしっかりと落ち込んだのだ。
* * *
マスターと紳士の騒ぎの間も、そして、俺が暗澹とした気持ちをどうにか立て直そうと試みている今も、BGMが、淡々と店内の隙間を埋め続けていた。もしこの場に音楽が無かったら、そもそも、気持ちを立て直そうとも思わなかったかもしれない。BGMという奴は時々、そういう効能を持つ。色々な事を保留にして、沢山のことを〝なんとなく〟に塗り替えてくれる。
今日は知っている曲だった。ショパンの、ピアノソナタ二番。マスター達の騒ぎの途中でスケルツォが台風のように通り過ぎて行き、今は第三楽章、葬送行進曲。大切な記憶を一欠片ずつ愛しむかのような優しさに溢れたトリオが終わり、主題が戻ってきたところだった。終わりに向って、和音が物悲しく響いていた。
大学で所属していた音楽サークルで何十回も聴いた曲。夕焼けの時間帯で、色々な格好をした学生が思い思いに外に出て行くのを見下ろしながら、がお決まりのパターンだった。サークルの部室が寄り集まっている建物の三階。帰ろうか、それとも、もう少し此処にいようか。そんな事を考えながら何度も繰り返し聴いた。
今思えば奇妙なサークルだった。自分達でバンド演奏もするけれど、クラシックやオールディーズの名盤を聴いてみんなでぼんやり過ごすことが殆どだった。それでもって、学園祭では、ベートーヴェン交響曲五番のヘヴィメタルアレンジをバンド演奏したりして周囲の失笑を買ったりするのだ。変わり者が寄り集まって出来ている、変わったサークル。俺はギターを担当していた。張られた弦に指を押し当てて、時々、意味も目的も無くコードを鳴らしながら沢山の曲を流した。
あんまり思い出すと戻りたくなる。どうすれば戻れるのかを本気で考え始める。ただでさえ動けないのに後ろに下がるわけにはいかない。冷めたブレンドの苦みが俺を止めてくれた。一つ、頷いておく。分かっている。逃げたりしない。
入口扉につけられているベルがカラコロと音を立てた。まるで、俺の小さな首肯がキュー出しにでもなったみたいなタイミングだ。やって来たのは黒いパンツスーツ姿で身を固めた女性が一人。小さめの眼鏡をかけていて、色白で、長身。肩につかないくらいの黒髪をピンでまとめていて、その姿は何処か、変装している芸能人のようだった。
「こんにちは、ご無沙汰してます」
「お、なんだ今更、パーティにも来なかったくせに」
「それなりに忙しいんです。新しいお店、素敵ですね」
女性はそう言って、深く一礼。暗い、かすかに湿り気のある声だった。マスターはほんの少し前までのつまらなそうな表情から一転、心から信頼のおける仲間との再会を果たしたような笑顔だった。
「今月の所見。良い傾向です」
「色々と状況が変わったんで、それが奏功したのかね。何にしても解決に向かってるなら結構」
「このまま行けば何よりですが、後戻りする事例もあります。これまで通りをきちんと意識してください」
「分かってるよ、センセイ」
「……所見の報告と請求書、置いていきますね」
水色の大きな封筒がカウンターに置かれた。俺の席からでは、それがどんなものか今一つはっきりとはしない。マスターはそれを受け取り、どこかわざとらしい一礼。恭しさすらうかがえる仕草だった。
それから程なくして、先生と呼ばれた女性は「次に行く場所もあるので」と帰って行き、店内は幸せそうなマスターと俺だけになった。BGMがドヴォルザークにの「新世界より」に切り替わった。
「マスター嬉しそうですね。何か良い報せですか?」
「ん……まあ、毎日生きてりゃ良い事もあるし悪い事もある。今日は総合的に見たらきっと、良い日なんだな。いつまで続くかどうかは分からんが……こうして少しでも上向きに終わってくれる日がたまにだけどあるから、私達は生きていける。つまらん喧嘩の後だから尚更に嬉しいね。世界には無意味そうに見える出来事が山ほどある。だけど意味の無いものなんか実際は一つも無いんだ」
文庫本から顔をあげ、店内に目線を向けてにこにこしながら、何度も、何度もマスターは頷いていた。俺は代金を支払い店を出た。少しでも一日を上向きに終わらせるために、何かまだ出来るような、そんな気持ちが俺を急かしていたのだ。
* * *
すり鉢の底、駅前まで出た。食材が尽きかけていたし、生活費を引き出さなければいけなかった。いずれにしても一日の着地点について考えた以上、そのまま帰宅するわけには到底いかなかった。
不動産屋がちょうど店じまいをしていた。社会人時代末期には、引っ越しを目論んで何回か足を運んだ。ただの延命治療だ。何かを変える事を目論んで、それをあたかも直近の目標ででもあるかのように振舞わせる。結局、変える前に力尽きた。延命失敗? 自決だ、と自己主張しておくことにする。塵の主張。誰も聞いてくれなさそうだ。
スーパーで数日分の食糧を買って外に出ると、駅前にある小さな広場に一人のストリートミュージシャンがいた。始めたばかりなのか、足を止めて聴いている人は誰もいなかった。両方の耳に、重たくないのか心配になるくらいのピアスをつけた二十歳くらいの男がアコースティックギターを騒々しく鳴らしながら、聞いた事のない歌。少し割れ気味だけれど伸びのある、この季節に良く似合う声だった。
「しばらくの間は夜六時から、なるべく毎日やりたいと思っているんで、これからも宜しくお願いします。自主制作でCDもあります。是非、買って下さい。生活の糧になるので」
何曲か立て続けに演奏され、足を止める人が少しずつ増えていったタイミングでのそんな挨拶。興醒めだ、とでも言いたいかのように、何人かの観客がその場を離れて行った。構わずに演奏が始まった。〝生活の糧〟なんてフレーズが俺に小骨のように刺さった。しんどくなって俺もその場を離れた。俺の一日は、そう簡単には上向きに終わらない。
帰路、歩きながら、あのストリートミュージシャンが路上ライブを行うようになるまでの道のりを想像してみた。何がきっかけで今の道を歩き始めたのか。目指すべき場所を定めた、その直接の理由は? 音楽に魅せられて学校を中退、ギター片手に家出。或いは、誰かしら圧倒的な魅力を持った先輩だか師匠だかがいて、その人からのアドヴァイスに従って、とか。さすがにマンガ過ぎるかもしれない。しばらく考えて、それが物凄く無駄な思考だと気付いた。世の中には、俺なんかが想像もつかないくらいの行動力を持っている人間がいるのだ。悩んだり検討したり背中を押されたりする前に、〝とりあえず〟で行動出来る人。あのミュージシャンがそうなのかどうかは知る由も無いけれど、要するに、誰かが何処かで手にしたきっかけなんか何の参考にもならないのだ。それは、同様の経験を出来たとしても俺にとってのきっかけにはなり得ないのだ。
けれど、自分がもしもあのストリートミュージシャンのように明確な行動を起こす事が出来たらきっとそれは素晴らしい事だ。今日は明日のためで、繰り返される日々はいつか来るその日のため。迷ったり立ち止まったりしている暇なんか何処にも無い生活。今の俺の対極だ。
考えれば考えるほどに焦りが深まってきて、どうしようもなくなってきた。自然と身体が走り始めた。家に向かいながら、坂を駆け上りながら思った。手に持つスーパーの袋ががさん、がさんと揺れた。中身のインスタント食品やらが抗議の音色を立て続ける。特に根拠も無く、ただ唐突に、しかし、明確に、俺は自らを追い立て続け、走る。〝もう時間は無い。〟繰り返し、そう思ったのだ。
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