途方もない絶望

柊 愁は、とある研究員の息子として生まれた。

愁は生まれたときから精霊と契約を結んでいる『初期型精霊魔法師』と呼ばれる精霊魔法師で、生まれた後に契約を結ぶ『後期型精霊魔法師』よりも強大な力を持つ、強い精霊魔法師だった。

その息子に、研究員の両親は莫大な愛情を注いだ。研究サンプルとか、そんなよくある話では断じてない。いや、もしかしたらそんな思考を少しはあったのかもしれない。だが、それよりも、両親としての愛情を注ぎ込んだのだ。


そんな愛情を注ぎ込んで愁が五歳の時、両親が愁を呼び出した。


「愁君。ごめんね。少し我慢してほしいんだ。少しだけ協力してね?」


突如としてそう言われ、両親は真っ白な空間に愁を閉じ込めた。

愁は訳が分からなかった。いつも優しかった両親に裏切られた感覚が過る。しかし、それは間違いだとすぐさま思った。

協力してほしいと言われたのだ。そこに強制の意思はない。そう重い、幼い愁は部屋の中で待っていた。


「愁君。どうしたの?浮かない顔をして。」


ションボリしている愁に、契約精霊の【リーゼ】が声を掛ける。このときリーゼは五歳。愁と同い年だ。

そう、初期型精霊魔法師の特徴として、契約精霊は、契約者が生まれたときと同時に生まれ、ともに成長していく。しかし、そこに兄弟愛に近しいものはなく。専属の従者のような形になるのだ。そう。愁とリーゼを除いて。

「うぅん。大丈夫だよリーゼ。ひとまず早く協力して出してもらおう!」

「うん!分かったー!」


という風に、精霊と仲良く会話をしていると、突如部屋に声が鳴り響いた。


「はーい。愁君。急にごめんね?精霊の力の出し方は分かる?」

「え...と...あ、!うん!出来るよ!」


初めて聞く声に困惑するも、早く出たい一心で愁は答える。すると、次に冷静な声が部屋に響いた。


「じゃあ、限界まで力を入れて、能力を使ってくれるかな。制限する必要はない。そうすれば出られるからね」


そう言われ顔をパァと明るくさせる愁。そしてリーゼのほうに駆け寄った。


「リーゼ力を限界まで使えば出られるって!頑張ろう!」

「うん!」


出られると言われ、輝かしいほどの笑顔を浮かべるリーゼ。


「じゃあお願い」

「うん!リーゼ!」

「はァァァァァァァァァァァァァ」


愁の声に同調するかのように、低く、唸るような声を上げるリーゼ。瞬間。あたりが閃光に包まれる。

反射的に目を瞑る。そして、しばらくたち、うっすらと目を開けると、今までと違う景色が広がっていた。

ただ一つ変わらないのは、横にリーゼがいることのみ。しかし、そのリーゼも気絶して、倒れている。

そう、眼下に広がっていたのは、真っ新な、荒れた土地のみだったのだ。

愁に途方もない絶望が広がる。

幼いながら理解したのだ。両親も、その下で働いていた研究員も、すべて、すべてすべて自分のせいで、殺してしまったのだと。

失いかけた意識の中には、あらゆる負の感情が渦巻いていた。

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精霊魔術師の夜想曲 さざなみ @bazirusousu

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