悪例で見るラノベ用物理学

七次元事変☄️💥

力学 その1

このエッセイでは物理学を数式をできるだけ使わずに何となく分かる様に初歩から解説します。

 今まで某小説家になれそうなサイトやここカクヨム、またはテレビで見つけた間違った物理学を紹介しながら具体例で進めたいと思います。コメ欄あればネタを気軽に募集できるんですけどね。


物理学編は力学、熱力学、流体力学、電磁気学、光や音の順番でいきます。いけるか?

工学編は未定です。多分歯車とか精度の話とかになると思います。

第一章は力学からです。




【曲がる拳銃の弾】

腕を振りながら拳銃を撃つと、弾が曲がって柱の裏にいる敵に当たったり、人質を回り込んだりしていませんでしたか?

これはありえません。そんなのどこの誘導ミサイルですか。普通の銃は撃った後に好きな方向に軌道を変えられるようにはできていません。そんなことが出来るのはエアガンだけです。ライフリング(ドヤ顔)なんて言っている主人公や脇役の銃では絶対にやらないようにしましょう。


ニュートンの運動の第一法則によれば、物体(ここでは弾丸)は外から力を加えられない限りずっと静止しているか、または延々とまっすぐ進みます。近距離では空気抵抗は無視できるので、この法則にのっとれば銃弾が曲がるなんてありえない。ただしライフリングをしていない銃や(後述のナックルボールと同じ原理)、銃弾の軌道の途中に強力な磁石でもあれば話は別で銃弾は曲がりますが。


ところで発射時に腕を振っていれば銃弾がまっすぐ飛ぶ速度ベクトルと腕を振る速度ベクトルが合わさって斜めに飛んでいくのでは? と思う人もいるかもしれませんが、ここで銃弾の速度と腕を振る速度について考えてみましょう。

銃弾の速度は低くても音速の七割程度、時速900km/h。腕を振る速さはプロ野球選手の投手でも最大で150km/h。それが拳銃を持ちながら腕を振るのに加え、狙いながらでは時速40km/h程度以下になるでしょう。

つまり腕を振る速さは銃弾の速さに比べて大体5%以下。

はっきり言って誤差です。近距離射撃では気にしなくていいレベルです。銃弾は銃口が向いている方向(からほーんのちょこっと斜め)に飛んでいくでしょう。


また、腕を振って銃が回転しているのだから銃弾も回転する、従って曲がるだろうという発想はやめましょう。確かに腕を振れば、銃弾を撃った後銃口の向きは変わるでしょう。しかしそれで銃弾が曲がるというのなら、普通に銃を撃った後銃をくるくると回せば銃弾は渦巻きのように飛んでいきますよね?多分



つまり大まかに言えば銃弾は「発射した瞬間の銃口の向き」に向かってまっすぐ進みます。柱の裏側になんて回りこみません。

魔法なども無しに銃弾を曲げて命中させたことがある方、それが銃をメインとした物語ならプロットを練り直しましょう。最悪ストーリー展開が変わります。



【投げナイフ】

投げ手を離れてから回転せず、刃を常に標的に向けてまっすぐ飛び突き刺す投げナイフ、かっこいいですよね。そして威力も高い。

これも嘘物理学です。

野球を例にとって考えてみましょう。

人間が小さなモノを投げるとき、特殊な技術を使わない限り投げられたものは回転します。(槍は銃弾と同じ向き、進行方向と垂直に回転させて投げるため銃弾のようにまっすぐ飛びます。ダーツには羽がついているので安定します)

物を回転させずに投げる技術。それは例えば野球のナックルボールです。ナックルボールは周囲の空気の流れがランダムなためどこに曲がるか分かりません。それがナックルボールの打たれにくいという強みですが、同時に弱みもあります。


まず一つ目「どこに曲がるか分からないのでキャッチャーが捕りにくい」

これは野球では利点と表裏一体ですね。この現象の原因は、仔細は異なりますが大体ボールの回転(ナックルでは最初は回転0)が安定しないことによるランダム性が理由の一つとして挙げられます。

回転していないボールは縫い目による空気抵抗、揚力でのモーメント、回転力により少しずつ回転していきますがどの向きに回転し始めるかが分かりません。

ナイフでも同じことが言えます。回転していないナイフは不安定です。ちょっと風が吹いただけで回転を始め、刃ではなく持ち手が標的に当たってダメージ0ということもあり得ます。経験の浅い者が無回転で投げようとした場合、ステータスで言えばLUC値4倍差ほどなければ刃は当たらないでしょう。

追記:回転しているナイフはずっと同じ向きに決まった回転をし続けるという意味で安定しています。


そして二つ目「球速が遅い」

ナックルボールは球速を早くすることが難しいです。150km/hの速度でストレートを投げていた投手がナックルボールに転向した場合110km/h程度しか速さが出ません。

これは手首や指までを球速にあてられないためなのですが投げナイフでもそれは同じです。

引っ掛かりが悪いとかそんなところでしょうか。

まっすぐ飛ばすと速度が犠牲になります。おそらくダーツのような投げ方になるでしょう。すると威力が落ちます。

ナックルボールの弱みは以上ですが、さらに投げナイフが回転しないことによる弱みもあります。



最後に三つ目「同じ速さの回転する投げナイフより切断量が少ない」

ナイフは投げられたときに与えられた運動エネルギー(の二分の一乗)に比例した長さ(厚さ)の肉を切り進むことが出来ますが、物体の運動エネルギーは

(1/2×重さ×速度の二乗)+(回転運動のエネルギー)

で与えられます。

つまり速さが同じなら回転している方が威力が高いということですね。刃を命中させることが出来れば回転している方がお得です。


さて、以上の理由から投げナイフ使いは回転させずにナイフを投げることはありません。投げにくいし。(追記:回転させないスリケンや投げナイフもあるみたいです。それが暗器かと言われると首をかしげたくなりますが)


ではどのようにナイフの刃を標的に命中させているのかといえば、秘密はフォームにあります。

ナイフを投げるときのフォームを常に固定できていれば、ナイフの速度、回転の速さを固定できます。

従って投擲者の位置から決まった距離で常に刃は正面を向きます。

このフォームを距離ごとにいくつも用意すればどんなときでもナイフを標的に刺すことができるでしょう。


ですので投げナイフ使いは魔法などで飛ばさない限り、メインウェポンな人は確実に練習の鬼です。努力の人です。勘で当てていてもそれはきっと今までの練習の賜物です。

投げナイフは転移したばかりの日本人やただDEXが高い系の新米ゲーマーにはやらせないようにしましょう。



本日はここまでです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る