できるところまで戻ろう! ――「超ズボラ勉強法」の極意・その1の2




「それじゃ、まずはここからやってみようか」


 そう言って、夏子は開いたページの問題を指さした。今回の試験のメインとなる、2次方程式の問題だ。


「左のページの説明と例題を見ながら、まずは例題の解き方をなぞってみてね」

「おう」


 うなずくと、俺は鉛筆を手に取った。


 が……。


「なあ、夏子」

「うん、なになに?」

「ここ、なんでこうなるのか全然わかんないんだけど……」


 俺が指さしたのは、2次方程式の途中式の部分だった。どうしてかっこが2つになったのかがわからない。

 夏子が問題集をのぞきこんでくる。


「どれどれ……あー、なるほど、秀ちゃんはここの因数分解がわかんないんだね」

「因数分解? 中間で範囲だったやつか」

「そうそう、それそれ」


 少しだけ考えこむ素振りを見せた夏子が、一人うなずいた。


「うん、決めた」

「決めたって、何を?」

「ここをやる前にまず因数分解をやろう、秀ちゃん」

「えええっ!? だって、そこは試験範囲じゃないだろ!?」


 驚く俺に、夏子は首を横に振る。


「2次方程式って、因数分解がきちんとできてないと解けないの。正確には、解けないこともないんだけど、ものすごく効率が悪いんだ。だから、まずはそっちをやるね」

「うう……」


 そう言って夏子は俺から問題集を取り上げると、無情にもペラペラとページをめくっていく。


「はい、それじゃここからやってみようね」

「おう……」

「ちなみに、もしここもわからないようだったら展開のところまで戻るし、展開もわからなかったら中1のところまで戻るからね?」

「わ、わかる! わかるから! だからもうこれ以上前には戻さないで!」


 俺は必死にできるアピールをしながら、夏子にそう懇願した。








 さて、前回、教材としてなるべく簡単な問題集を選びました。

 ですが、それだけでは勉強を進めることはできません。いったいどこから勉強を始めるのかということが大事になります。

 ではどこからやるべきかということなのですが、結論としては、自分が無理なく理解できるところから始めるべきです。


 まずはどこから始めても構いませんので、好きなところから始めてみてください。とりあえずは今学校で勉強している単元から始めればよいでしょう。

 その際に例題や問題がわからなければ解答を見るわけですが、その解答を見てもどうしてそうなるのかがまったくわからない場合、そこよりも前に戻るべきです。


 戻り方についてですが、もし自分でどの部分がわからないかが把握できる場合は、そのわからない要素があるところへ戻ればいいです。

 逆にどこがわからないかもわからない場合は、まずは直前の内容に戻りましょう。そこもわからない場合はさらに前へと戻り、学年のはじめの単元に戻ってもわからない場合は、その前の学年の問題集に戻ります。やや非効率的ではありますが、どこがわからないのかがわからない以上、このようにしらみつぶしに戻っていくしかありません。これを怠って先に進めば、それこそ無駄に時間を費やすことになってしまいます。

 なお、どこがわからないのかがわからない場合であっても、先生や友人に自分はどこがわかっていないのかを聞くことができるのであれば、迷わずそうするべきです。そうすれば、しらみつぶしに問題をさかのぼっていく手間が省け、効率的に学習することができます。冒頭の例では夏子が秀哉の理解できていない内容を指摘していますが、実際には秀哉の方から夏子に聞くべきです。


 一度学校で習った内容なのにまたそこへ戻るというのは面倒に感じる人も多いかとは思いますが、以前習った内容を理解できないまま学習を進めていくというのは完全に自殺行為です。

 この振り返りをやらない人が本当に多いのですが、これを怠っていると最後の最後で1からやり直すはめになったり、あるいはその暇すらなく本番に臨まざるを得ない事態に陥りかねません。いいかげんにごまかすことなく、わからないところがある場合は絶対にきちんと戻って勉強してください。

 もっとも、そんなに気負う必要はありません。ちょっとわからないなと思ったら、すぐに前に戻ってやってみればいいのです。難しいことは考えず、とりあえず問題ができなければ前に戻る癖をつけてもらえればと思います。


 以上、「超ズボラ勉強法」の1つ目の極意について説明しました。次回は2つ目の極意に入ります。どうぞお楽しみに。





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