まずは簡単な問題集を選ぼう! ――「超ズボラ勉強法」の極意・その1の1




 部屋に入ってから30分足らずで学校の試験対策プリントを取り上げられ、勉強のやり方を1から叩きこまれることになった俺。

 若干緊張する俺を前に、夏子はカバンから1冊の本を取り出した。


「それじゃ、まずはこれから始めてみようか」

「ああ、さっきの問題集か」


 表紙を見つめながら俺はつぶやいた。『つまずいたところがよくわかる』ってタイトルが、なんか自分はダメなヤツって感じにさせてくれるんだよなあ……。


「あ、3年のやつでいいのか? さっき1、2年の復習やろうとしてたけど」

「うん、秀ちゃんの学習状態がだいたいわかったからね」


 そう言って、夏子は試験範囲である2次方程式のページを開いた。


「じゃあ秀ちゃん、まずこれからやってみようか」

「なあ夏子」

「なに、秀ちゃん?」


 首をかしげる夏子に、俺は疑問をぶつける。


「こんなこと聞くのもなんだけど、はじめから問題集やっていいのか? 勉強のやり方って言うから、てっきり教科書や参考書を読んでちゃんと理解してから問題を解く、とか言い出すのかと思ってたんだけど」

「すごいね秀ちゃん、ちゃんと勉強のやり方わかってるんだ」

「まあな」

「でも、だったらどうして勉強苦手なの?」

「いや、その……」

「やってなかったんだ、その通りに」

「……はい」


 力なくうなずく俺に、夏子が苦笑する。


「そんなことだろうと思ったよ」

「そ、それより、問題集でいいのか?」

「うん、最初からやるなら問題集の方がいいよ。それもなるべく簡単なものがね」


 そう言って、夏子は問題集を指さす。


「ほら、一番最初に簡単な説明と例題があるでしょ? まずはこの例題をなぞってやり方を覚えるんだよ」

「ふむふむ」

「正確には、最初は覚えなくてもいいんだ。隣のページには問題があるでしょ? その問題を、例題をマネしながら解いてみるんだよ」

「例題見ながらでいいのか?」

「最初はそれでいいよ。そうやってまずは簡単な問題を解いてみて、それから説明を読んだ方が仕組みを覚えやすいよ」

「そういうもんなのか?」

「人にもよるとは思うけどね。でも、最初に説明を一生懸命読んでも、やり方ってなんだか覚えにくいでしょ? 実際にやってみてから説明を読んだ方が、ああ、これはこういう意味だったんだっていうのがわかりやすいと思うんだ。ほら、ゲームで遊ぶ時って、よくそういうことない?」

「ああ、確かに説明書読むよりまず少しやってみた方がわかりやすいかも。昔のゲームとかだと特にそうだな」

「でしょ? それと同じだよ。よくわからないものの説明だけを見せられたら、誰だってイヤになっちゃうよ」


 なるほどなー。教科書や参考書の説明から読んでも、意味わかんなくてすぐイヤになるんだよな。それって普通なことなのか。

 夏子がゲームの取説読まない派だったのは意外だけど、ここは言われた通りにやってみるか!





 さて、いよいよ「超ズボラ勉強法」の具体的な内容に入っていきたいと思います。


 まずはじめに、皆さんは適切な教材を選ぶ必要があります。その教材は何がいいのか。結論から言うと、「なるべく簡単な問題集」をメインに使うべきです。



 なぜ「なるべく簡単な問題集」がメインの教材として適切なのか。それにはいくつかの理由があります。


 第一に、そのような問題集は最も重要かつ基本的な問題のみで構成されているということが挙げられます。「これだけはどうしてもできてほしい、できなければならない」という問題を厳選し、難しい問題は極力排除されているのですね。

 難しい問題が省かれているというのは内容面でマイナスなのではないのかと思われた方、違います。何よりもまず最初にマスターするべきは基本問題であり、難問などというものは、それが終わってから手を付ければいいのです。

 なぜ基本問題が大事なのか。言うまでもないことではありますが一応確認しておきますと、単純に最も出題頻度が高いからです。ここで言う「出題頻度」とは、単に直接問われる場合のみならず、その理解が他の問題を解く際の前提とされている場合も含みます。


 例を挙げると、たとえば連立方程式の問題が出た時に、その中には当然方程式の処理や正負の計算の処理が含まれますよね。基本問題とは、より高レベルの問題を解くにあたり当然のように要求される知識・技術なのです。

 そのような観点から見た場合、「なるべく簡単な問題集」というのは絶対に習得すべき基本問題のみで構成されている最良の教材なのです。先ほども話した通り、難しい問題を解きたいのであれば、まずはこの「なるべく簡単な問題集」を完璧にマスターしてからにすればよいのです。

 逆に言えば、「なるべく簡単な問題集」がマスターできていないにもかかわらず難問に手を出すのは自殺行為です。完全に時間の無駄ですので、決して手を出さないでください。


 ちなみに、「なるべく簡単な問題集」をマスターしたと言えるラインは最低でも正答率95%以上です。このレベルの問題集で正答率が95%を切るなど言語道断、論外であるということを肝に銘じてもらえればと思います。

 とにかくまずは「なるべく簡単な問題集」をマスターすることが最優先事項です。



 次に、「なるべく簡単な問題集」をメインの教材とすべき第二の理由ですが、学習をアウトプット型で進めることができるという点が挙げられます。


 参考書などの説明をまず理解するというインプット型を否定するつもりは毛頭ありませんが、はじめからすべての内容を理解しようとしてもなかなかうまくはいかないものです。参考書を読み始めたはいいものの、途中で挫折してしまったという人も多いのではないでしょうか。


 それよりも、まず最低限の説明に目を通したら、すぐに簡単な例題に手をつけてみるべきです。そうすることで、実際の問題の解き方が実感できたり、自分はどこがわかっていないのか、できないのかが自覚できたりするのです。

 冒頭の例にもありましたが、ゲームを遊ぶ時もずっと説明書を熟読するよりも、まずは最低限の操作を確認してとりあえず遊んでみる方がそのゲームを理解しやすいでしょう。それと同じことです。


 また、初学者や勉強が苦手な人を対象にした問題集は、最初に簡単な例題と解法が配置されていることが多いです。流れにしたがって解法をなぞることができる構成になっているんですね。

 これはゲームにたとえれば、チュートリアルにしたがって操作などを覚えていく形に近いと言えるでしょう。実際にやってみることで、必要事項がスムーズに身につくわけですね。


 なお、注意しなければならないのは「参考書を読んだだけでわかった気・できた気になる」というパターンです。塾や予備校の授業を聞いただけでわかった気になるというのも同じですね。

 よくできた参考書や先生の授業というのは確かにわかりやすく、その場では理解できたような気になります。ですが、大抵の場合そこで満足してしまい問題演習が足りず、結局模試などを受けた時には手が動かないことが多いです。

 十分なアウトプットがないと、せっかくインプットした知識や技術も無駄になってしまうのですね。


 ちなみに、ある程度学習が進んでいたり成績が安定している人は、今メインで使っている問題集を使ってもらってもいいですが、可能であれば「これなら簡単にできる」と感じる問題集を準備してください。ほとんどの場合、これならできると思っていても穴だらけであることが大半です。

 目安としては、正答率が最低でも95%を超えなければその問題集の内容はまるで身についていないと思ってください。当然です。あなたがみずから「簡単な問題集」と判断したにもかかわらず、20問中1つは取りこぼしているのですから。このラインをクリアできてはじめて、その問題集をマスターしたと言えるのです。


 以上の話をまとめましょう。

 教材を選ぶ時には勉強が苦手な人はなるべく簡単な問題集を選ぶべきです。なぜなら、そのような問題集は絶対に必要不可欠な最重要レベルの問題を厳選しているからです。

 また、問題集をメインの教材にすることによって、自然と問題演習が中心のアウトプット型学習が可能になります。これにより、説明を読むだけではなかなかわかりにくかった部分が理解しやすくなり、演習量が増えて知識・技術も定着します。


 皆さんもまずはここまでの話を参考にして、すぐに「超ズボラ勉強法」を実践できるよう手元に問題集を準備しておいてください。

 次回は、このように選んだ問題集をいったいどのあたりから始めればいいのかについて説明しようと思います。どうぞお楽しみに。




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