問題点4 もっとゆとりを持って生きようぜ! ――日頃から時間を意識しているか?

 俺のありがたい言葉に何か思うところでもあったのかはわからないが、夏子はしばらく俺が勉強するのを黙って見ていた。

 俺も夏子の指示にしたがい、まずは基本問題から解いていく。まあ、さすがにこのあたりは俺にも解けるな。


 そんな調子でつっかえつっかえしながらもなんとか問題を解いていた俺だったが、しばらくして夏子が声をかけてきた。


「ねえ、秀ちゃん」

「どうした? もしかして、俺がどんどん問題解いていくことに驚いてるのか?」

「うん、それはいいことなんだけど……」


 うなずくと、どこか申し訳なさそうに夏子が聞いてきた。


「秀ちゃん、時間はチェックしないの?」

「時間? 何時間勉強するかとか?」

「それもそうなんだけど、問題解く時に全然時計見てないなって思って」

「は? そりゃそうだろ。勉強してるんだから、問題解くことに集中しなきゃ」


 まあ、そもそも時間なんて気にしたことないけど。


「でも、それだとこの単元を終わらせるのにどのくらい時間がかかりそうとか、この問題には何分くらいかかりそうとか、そういうことがわからなくなっちゃうよ?」

「バカだな、問題なんて解くか解けないかしかないだろ。時間なんて関係ねえよ。時間のあるなしにかかわらず、とにかく解けるところまで解くんだよ」

「そ、そうなんだ……」


 そんなこと、言うまでもないだろうに。時間がないからって問題を解かないわけにはいかないだろ。妙なことを言うヤツだな、こいつも。








 さて、皆さんは勉強する時、どの程度時間に気を使っていますか?

 冒頭の例でもそうでしたが、多くの人は程度の差こそあれそこまで厳密には時間を管理していないのではないでしょうか。

 私も冒頭の二人のように、とりあえず生徒に普段通り勉強をしてもらうことがあったのですが、大抵の場合秀哉のようにただやみくもに問題を解き始めるんですね。で、問題が解けたら先へ進み、問題が解けないとそこでずっと止まったりするわけです。解けないところで止まることについての問題点は、前回の話でも指摘しましたね。

 で、勉強が苦手な人に「その問題、どのくらいで解けそう?」と聞くと、ほぼ間違いなくあやふやな答えやいいかげんな数字が返ってくる、あるいはそもそも答えが返ってこないなんてことになるわけです。今回はこちらの問題について見ていきたいと思います。

「別にどのくらいの時間で解けるかなんてわからなくても、問題が解ければそれでいいじゃないか」

 そんな声が聞こえてきそうです。いえいえ、とんでもない。問題の解答時間を意識しないということには、大きく2つの問題点が潜んでいるのです。


 まず1つ目の問題点は、問題の解答時間をある程度予想できないと、試験問題の時間配分に支障をきたすということです。

 基本的に、試験を受ける際は試験時間という限られた時間の中で問題を解くことになりますが、この時に自分がどの問題をどの程度の時間で解けるか、あるいはどの問題に時間がかかりそうかということを把握していないと、本来なら解けるはずの問題にたどり着く前に試験時間が終わってしまうということになってしまうわけです。

 ちなみに、試験の最初に難易度の高い問題を配置すると得点率が大きく下がるというのはよく知られた話です。心理的なダメージの影響もありますが、最初の問題に余分な時間を費やした結果時間配分が崩れてしまうことが大きな要因と考えられます。



 2つ目の問題点は、たとえある問題が解けたとしても、その問題の解答に時間がかかり過ぎては大きなマイナスになりかねない、ということです。


 これはどういうことか、例を出して説明しましょう。今、A君が全30問、試験時間30分の試験を受けるとします。それぞれの問題はおおむね1分弱で解くことができる簡単な基本問題なので、誤答する可能性はほぼありません。

 試験が始まりました。最初は快調に問題を解いていくことができましたが、10問目の問題の解き方をたまたま忘れてしまいました。しばらく考えれば思い出せそうなので解けるまでがんばってみたところ、5分後に解き方を思い出し、合計6分かけて無事解くことができました。ですが、最後は時間が足りなくなり、25問目を解いたところで試験時間が終わってしまいました。その後返却された試験は25点でした。

 さて、第10問を解けるまでがんばったA君の判断は正しかったと言えるでしょうか?


 A君は6分かけて第10問を解きましたが、それと引きかえに最後の5問を解く時間を失ってしまいました。

 もし彼が1分で第10問に見切りをつけ、残りの5分を最後の問題に回していたならば、おそらくは第10問以外を全問正解し29点を取ることが可能だったでしょう。

 さらに言えば、第10問の解き方を思い出せるという保証はなかったわけですから、下手をすれば5分どころか10分以上かかる可能性もあったわけです。

 以上の点から、A君の判断は試験で高得点を目指すという観点からすれば正しかったとは言い難いと言えるでしょう。


 上の例を見れば、単に問題が解けるというだけではいけないということがイメージしやすいのではないでしょうか。ある問題が解けたとしても、そのことによって他の問題にしわ寄せがいってしまってはいけないのです。


 この話は普段の学習においても言えることで、一問一問の処理速度が遅ければ、結局決められた時間内にトータルで処理できる問題数はそれだけ減ってしまいます。

 これは単にある問題に時間がかかるという話にはとどまりません。たとえば方程式の処理に時間がかかるのであれば、方程式を利用する問題すべての処理速度が落ちますし、四則計算が遅ければ四則計算を用いた問題すべての処理速度が落ちてしまうということです。

 この結果どういうことが起こるかと言うと、同じ1時間の勉強でもA君は10問しか解けないのにB君は20問解けてしまう、といったことが起こるわけですね。こうなってしまうと、同じ時間勉強しているにもかかわらずどんどん差が開いていってしまうという事態に陥ってしまうのです。


 このように、自分が目の前の問題をどの程度の時間で解けるか、どれだけ速く解けるかなど、常に時間を意識していないと、大変なことになってしまいかねないわけですね。皆さんにはぜひ気をつけてもらえればと思います。

 それでは次回をお楽しみに。




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