第二章

問題点1 難しい問題解かなきゃ! ――課題の難易度は適切か?




「それじゃ、さっそくよろしく頼むよ」

「うん、よろしくね、秀ちゃん」


 机に向かった俺の隣に座ると、そう言って夏子は笑った。


「じゃあ、とりあえずこれ教えてくれよ。今度のテスト範囲」

「え? ちょ、ちょっと秀ちゃん、それをやるつもり?」


 俺がカバンから取り出したプリントを見て、夏子が慌てた様子で聞いてくる。


「当たり前だろ。このプリントから問題出すって言ってたんだから」

「それはそうなんだけど、それって一番最後の発展問題だよ? 秀ちゃん、そんな問題できるの?」

「できるわけないじゃん、だからお前を呼んだんだろ。お前ならこのプリントの問題、全部わかるだろ?」

「そりゃわからなくはないけど……」


 夏子が困った顔をする。


「でもたとえばだよ、この問題ってまずここの交点を求めないといけないんだけど、秀ちゃんって交点の求め方わかる?」

「いいや。俺にわかるわけないだろ、そんなこと。だから教えてくれよ」

「教えるって言っても、この問題をいきなり説明して、秀ちゃん本当にわかるの?」

「お前、俺のことバカだと思ってるだろ。俺だって教えてもらいさえすればちゃんとできるよ。だいたい、自分がわかる問題を教えてもらっても意味ないだろ。こういうわからない問題を教えてもらわなくちゃ」

「それはそうなんだけど……」


 なんとも気乗りしないといった顔をする夏子。いいから早く解き方教えてくれよ。細かい話なんていらないからさ!








 さっそく夏子が頭を抱えてしまいました。これに近い状況、あなたの周りでも見かけたことはありませんか?

 実際、自分の今の学力に見合わない教材や学習内容に突撃して玉砕する人たちの多いこと多いこと。残酷なことを言うようですが、それは一生懸命自爆を試みているのと同じです。そんな破滅への一本道に迷いこまないように、私たちはよくよく注意する必要があるわけです。



 上の例は、期末試験という決められた日時に行われる課題に向けて秀哉が試験勉強するという話でした。

 当然、試験は間近に迫っているのですから、勉強はやらなければいけません。いけないのですが、ここでやみくもに学習を進めていくと、せっかく十日も前から準備を始めたにもかかわらず前回の試験と似たり寄ったり、あるいは前回よりも悲惨な結果に終わりかねません。

 秀哉の問題点は、現在の授業内容についていくことができていないにもかかわらず、理解不能な難易度の課題に取り組もうとしている点です。これには単に内容が理解できないという問題の他に、もう一つ大きな問題が潜んでいるのですが、そちらについては解決編で指摘したいと思います。


 ここでは「理解不能な難易度の課題」に取り組んでも「内容が理解できない」ということについてもう少し掘り下げてみましょう。

 通常、よほどずば抜けた頭脳の持ち主を除けば、人間は自分の能力を遥かに超えた課題にいくら取り組んだところでそれを理解することはできません。これは、あなたが東大数学の過去問を手渡されて、解答なしでいきなり解けと指示されるという状況を想像してみれば直感的に理解できるでしょう(東大入試をパスされている方は、小学生の頃の自分に置き換えて想像してください)。

 それは極端な例だ、と思われたかもしれませんが、皆さんがいきなり東大の過去問を解かされるのと、たとえば小学生がいきなり方程式を解かされるのとは、課題処理のプロセスという点においては同一と言うことができます。


 さて、課題処理のプロセスという言葉が出てきたので、これについて説明しなければいけませんね。ここでは先ほどの、小学生が方程式を解く場合を例にとってみましょう。ここでいう「方程式」とは、中1で学習する1元1次方程式のことです。

 一般に、ある課題を処理するためには、その課題を処理するために必要な知識や技術などを習得している必要があります。方程式を解きたいのであれば、移項のルールや係数処理を身につけていなければいけませんよね。

 ですが、実はそれだけでは方程式を常に正確に解くことはできません。なぜなら、それに先立つ知識として「文字式のルール・計算」を習得していなければならないからです。例を挙げれば、たとえ移項したとしても、同類項のまとめ方を知らなければ結局答えにたどりつくことはできませんよね。同様に、文字式の乗除計算を身につけていなければ係数処理もままなりません。このように、ある課題を処理するためにはそれに先立つ知識・技術等が必要となるのです。

 これは、基本的にはどこまでもさかのぼっていくことが可能です。今の例で言えば、同類項や文字式の乗除を習得するためには文字式の表記ルールや正負の計算を身につける必要がありますし、正負の四則計算を完璧にこなしたいのであれば、分数や小数の計算を身につける必要もあるでしょう。


 ですが、現実にはこのプロセスを適切に経ないまま、目の前の課題に取り組まざるを得ないという状況に追いやられる人は多いと思います。というより、程度の差こそあれ、ほぼすべての人がそのような状況にあります。

 そうではあるのですが、ここで焦って理解不能な課題に取り組んでも、プロセスを無視している以上効果はありません。

「そんなことはない、がんばれば、努力すればどうにかなる」とお考えの方、残酷なことを言いますが、そんなことをいくらやったところでどうにもなりません。確実に無駄です。もう少し言うと、それは努力でも何でもなく、冒頭で指摘した破滅への一本道、貴重な時間を惜しげもなくドブへと投げ捨てる行為です。


「じゃあどうすればいいんだ!」 

「このまま座して死を待てとでも言うのか、お前は!」


 いえいえ、とんでもない。そんな人のために「超ズボラ勉強法」があるのです。解決編まで目を通していただければ、そんな悩みはあっという間に解消します。本当に簡単な、ちょっとしたことなんですよ。特に学力低迷者が成績を上げる方法なんていうものは。


 それでは、今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。



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