第29話
「亀男!」
蒼也とみとれは、道場に駆け込んだ。古城の部屋には誰もおらず、追って襲ってきた生徒をねじ伏せた。途中、逃げていた生徒を避難させ彷徨った末に、道場を思い出したのだ。
「?」
2人の目に飛び込んできたのは、うつぶせに倒れ微動だにしない古城と、傍に立つ少年だった。だが、古城は『頂』により変わったはずの少年の姿ではなかった。始めて会った時の、頑強な肉体に変貌していた。その一方で、少年の姿は黄色と緑を基調とした全身タイツに、真っ赤なマント。輝くばかりの笑顔。大人びたつもりで、幼さを強調している固められ、皺ひとつない額を出したオールバック。古城がそうであるべき姿だった。
「蒼也様あれって……」
「亀男!」
蒼也でも、何が起きたかすぐに理解できた。何らかの理由で古城の『頂』が消えて、研究員に移ったのだ。咄嗟に古城に駆け寄り、抱き起す。胸に耳を当てなくとも、『頂』で超聴力を得た蒼也には心臓が鼓動を刻んでいないことはわかっていたが、やらずにはいられなかった。この『頂』が消えているということは……。
「くそ! 『轟雷』‼」
蒼也は、諦められなかった。咄嗟に思いついたのは心臓マッサージだ。古城との闘いで得た、『轟雷』呼び寄せを手にまとう技。それを心臓マッサージをしようとする。それはある意味正しかった、他に今蒼也ができるのはそれくらいだったろう。
だが―
「あ」
その拳が、古城の胸を貫き赤く染まった。理由は二つ、第1に、古城の肉体が『頂』の解除によって常人に戻っていたこと。第2に、蒼也はこれを救命に使ったことなどなく、加減を知らなかったことだ。
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