第27話
予感、だった。ベッドで目覚めた蒼也は、体に絡みつき寝息を立てているみとれを揺り起こした。みとれの『頂』は、無意識で使えるものではない。
「ん……」
「みとれ、起きて」
「あ、やっぱりその気になった? 蒼也様ったらうぶなんだから。でも大丈夫、あたしがリードしてあげる」
「そういうんじゃないって……変身するぞ」
「? うん?」
蒼也は『頂』を使い、みとれを抱き上げてドアを睨んだ。体中に緊張感が漂い強ばるのがわかる。
「どうしたの?」
「何か変な感じがしてよ……外出るぞ」
宙に浮くと同時に、廊下から多人数の怒声を伴った足音が聞こえてきた。
蒼也は咄嗟に、古城になにかがあったのでは? と思った。もし、最悪の事態が起きたときにその矛先を自分に向けるものがいるだろうことは、古城自身から聞いている。だが、それにしても雰囲気が異様だった。何かを壊す音や、悲鳴まで混じっている。
「何かしら?」
「わかんないけど、良いことじゃないよ」
まずは距離を取ろう。蒼也はそう判断し、窓を開けようと浮遊し移動を始めた。怒声と足音がドアの前まで近づいてきた。乱暴なノック音、というよりも殴る音が部屋中に木霊した。
「おい! 開けろ!」
「逃がさねえぞ!」
「佐野! ここ破っちまえ!」
やはり何かがおかしい。脱出を急ぐ蒼也が窓の鍵に手をかける。
瞬間、窓がぐにゃりと溶けた。否、部屋そのものが溶けて、濁流の様に流れ二人を包んだ。徐々にそれは狭まり、カプセルホテル並みの空間に二人は閉じ込められてしまった。
「んな⁉」
咄嗟に手足を伸ばし、みとれのスペースを作る。感触は生暖かいゴムのようであり、このまま全身を包まれれば窒息する。
「『頂』?」
「みりゃわかるよ! 耳塞いでろよ『轟雷』‼」
穴でも開けられればと考えた蒼也だが、意に反し部屋全体に雷が走ると大きく震え、蒼也たちは校庭側へ放り出された。
「みとれ!」
空中でみとれを抱き留める。
「見て、蒼也様」
みとれが指さす先には、部屋があった。先刻までの奇怪な姿は欠片もない、見慣れた光景だ。
乗り出して憎悪の目でこちらを睨む生徒たちを別にしたらだが。刑部等、見知った顔もいる。
「蔵!」
「殺してやる!」
「降りてこい!」
蒼也は古城の事を案じた。もし推測が正しければ、古城に何かあってその報復である可能性が高い。古城自身からその危険性は伝えられていたし、そうでもなければ稚拙な嫌がらせからいきなりの直接戦闘は考えられなかった。刑部ら初日に仕掛けてきた連中だけならまだしもだが、数が多すぎる。
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