第22話

「倒れろ!」

「ぐっ!」


 蒼也は基本に立ち返る。ひたすら距離をとって、古城の接近を阻止するのだ。目からの熱線、『天罰』、途切れず放ち続ける。

 とはいえ古城も容易くそれを許してはくれない、間隙を塗って、鳩尾に強烈な貫き手を叩きこんだ。


「ご―『轟雷』‼」

「がっ!」


 鋼鉄の腹筋を貫いた手を抱えて、諸共雷に身を晒す。熱と衝撃に焼かれながら、蒼也はどこか冷静だった。


「⁉ だりゃ!」

「‼」


 それも、以前なら思いもつかなかった発見だった。『轟雷』を身にまとったままに、相手を殴りつける。それまで僅かも揺るがなかった古城が、初めてほんの一瞬だけ怯んだ。

 

「なんだそれは?」

「必殺技……かな?」


 雷撃を曳いて走る蹴りが、古城のこめかみに食い込んだ。速さも、重さも、飛躍的に上がっている。

 よろけながら、古城が笑った。


「ずるいな」

「そうかな?」


 そのまま殴り合った。身体能力が同程度でも、技量で大きな差がある。さらに、『轟雷』を纏う時間には制限があるようで次第にキレが落ちていく。再度自分に『轟雷』を放ちたいが、気づいた古城がそれをさせなかった。

 本当に、強い。

 何度目かわからない呟きは、喉にめり込んだ古城の親指で掻き消える。器官に血が溢れ、鮮血交じりの咳がこみ上げる。

 ふいに、声が聞こえた。


タートルマイスター‼ タートルマイスター‼ 

古城! 古城! 古城!


 自然にか、誰かの『頂』か。内情を知った生徒たちの、古城への応援だった。苦笑を漏らそうとしたときに、蒼也はそれを間違いなく聞いた。

 

蒼也! 蒼也! あおあああああ! きたあああああああああん!


 応援―嬌声か。みとれの声が確かに聞こえた。ただ一人の、否―


蔵! 蔵! 蔵!

あ―く、くら……くら……。

 

 一人は大きく、一人はおどおどと。行人とゆうの声であった。

 三人の応援だ。

 過去最高の円、太郎、瞬にしてもらった応援と同じ人数の応援が、蒼也に向けられていた。


 何かが、沸き上がった。



「がざん……『火山』‼」


 噴火と共に、溶岩が2人を包んだ。

 古城は僅かに身を縮め、蒼也はなすがままだった。

 イメージは、身にまとうこと。

 体に―

 腕に―

 もっともっと先端に、そう―


 拳に―


「だああああああああああああ!」


 噴火の炎が、一瞬で掻き消える。

 全ての溶岩を蓄え、集約した灼熱の拳が古城の古城の胸に炸裂した。

 古城に習った、突きであった。衝撃を逃がさず、相手の体にすべて叩き込む一撃。

 古城は微動だにせず、焼け焦げ凹んだ自分の胸とめりこんだ蒼也の拳に眼を落して―


「参った」


 笑って血を吐きながら、地上へ堕ちていった。

 ほぼ同時に、蒼也は『頂』を解いて、同じく落ちていった。

 生徒の一人が広げたクッションに着地したのは、古城の方が先だった。

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