第21話
最初はみとれだった。一人、二人、三人。それ以上蒼也は確かめられない、限界だ。
「やめろお!」
「は!」
パワーは上、おまけに格闘術も遥か格上。そんなあいてによそ見をする余裕などあるわけがない。
学園の生徒が見守る中、古城と蒼也は激戦を繰り広げた。
「『轟雷』!」
空ぶった雷が、地面に着弾し焦げをつくる。熱が降り注ぐ雨に冷やされ、蒸気をあげた。
強烈な一撃が首に炸裂する。鞭のような横手打ちだった。
「ぐうう!」
「蒼也様!」
そのまま首に腕が巻き付いて締め上げる、首の骨が悲鳴を上げた。
「せ、『旋風』‼」
咄嗟に突風を起こして、古城諸共地面に激突する。僅かに緩んだ腕の隙間から逃れ、大きく息を吸った。
一回だけだ。二回目の前に古城が飛び掛かってくる。初撃は防いだが、以降の打撃は食らい放題だった。すべてが急所を抉った。
「ぜあっ‼」
「ふん!」
がむしゃらに出した大ぶりのパンチ。古城は受け流すと、躊躇なく肘をへし折った。そこに蹴りを叩きこむ。
「いがああああ⁉」
頭突きが下唇にめり込んだ。あふれ出る血に混じって、折れた歯が舌に当たる。
「ご……『轟雷』……」
何とかひねり出した。
自分ごと古城を雷で貫いて、思い切り蹴りを出す。どこかはわからないが、当たった。少しは吹き飛ばして、時間を稼げるはずだ。
「ぶ、ぶっは……!」
口の中のものを吹き出す。血の味と折れた腕の痛みにむせて吐きそうだ。
「蒼也様!」
みとれの声が聞こえる。声に案じる感情が混じっていたのが嬉しかった。
逃げろといいたかったが、叫べそうにもない。
「良い蹴りだ」
目の前に、古城が舞い降りる。『轟雷』で湯気を上げている以外に、目立った外傷はなかった。
古城は嗤い、蒼也は顰め面だった。
「……師匠が良いからね……」
「……ありがとう」
それなりに習ってきたつもりではあった。
だが、実戦で習った通りにできたのは今の蹴りが初めてだった。
「遠距離攻撃に徹しろ。伊那崎のときに言ったはずだ。同じ『頂』なら対処も同じだ」
「無茶言うよ……」
それを図らないわけがない。
悉く、古城に潰されているのだ。
「……なんでこんなことするんだよ?」
「……」
「亀男らしくもないよ……」
時間を稼ぎたい。
超パワーは回復能力も底上げしてくれている。歯は再生を始め、腕の痛みが若干引いてきている。
「『頂』が手に入ったからだ」
「……ん?」
「俺も『祭典』に出たくてな。けど、『新人類』には生まれなかった。初めて聞いて理解したお袋の言葉は『どうして『頂』がないのよ』だった。親父は……声を聴いた記憶がない」
「……」
「両親とも『次』に期待していてな。俺は自由だった……。調べたよ『頂』について、そして『祭典』に自然にたどり着いた。……憧れた」
「オレだってそうだよ……」
古城が微笑んだ。
蒼也も返す。口は完全に治った。次は腕だ。
「それで?」
「待った、『頂』ができるのを。が、その前に両親は死んだ。交通事故だ」
「ご愁傷さま」
「どうも。……幸いかどうかわからないが……俺は優秀だった。両親の会社を継いで、伸ばしていった。これだけで本になるような体験だ、まだ子供の時にな。安定すると、信じられない大金が転がり込んできてるのに気づいた、会社を維持するのに必要な分を除いてもだ……そして、バカなことをした」
「『頂』なしで『祭典』に。……映画だね」
「ああ、自伝に書き込もうと思ってる」
蒼也は笑いながら、腕を動かした。もう痛みはなく、僅かな違和感が残るだけだった。
「1位はすごいと思うよ。2位の人……なんていったか忘れたけど、弱くないよ」
「どうかな……俺は学園を選びに選んだ。新興のここは……おあつらえ向きだ。あとはスーツの拡張と、相手の研究……13年かかったぞ」
「オレだってそのくらいだよ」
「そうだな……知ってる。調べたからな」
蒼也は大きく息を吐いて、構えをとる。冷静さが戻ってきた。
「だが、俺にとっては急に入った横やりだ」
「ふふん」
「みとれという相方までいる。……全力を出しても敵わなかった。……妬ましかった。転校を考えたが……俺が1位になれるところもない。だが―」
「『頂』……今ならあるね」
蒼也の顔に、笑みが戻る。
古城の顔から、嗤いが消える。
「チャンスだろ?」
「そうだね」
2人は再度、激突した。
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