第20話

 蒼也には『それ』がわかった。

 専門的な知識も、何が起こったのか理解できる頭脳もない。

 だが、見ればわかることがある。

 伊那崎の『頂』が、古城に移った。そして伊那崎は、塵芥に消えた。


「お、おい?」


「……」


 10歳の古城は、蒼也を無視してひたすらに己の手を覗き込んでいた。

 ようやく視線を外すと、今度は空を見上げた。雨が降り続いていた。


「……」


「うお⁉」


 空に向かって拳を振り上げた。

 拳圧が雨を弾き空中を伝って竜の様に駆け上り、分厚い雲を突き抜け小さな穴をあける。そこから差し込んだ光が、古城を照らした。

 神々しい、光景だった。


「亀男―」


「っは……」


 古城は


「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」


 嗤った。

 心の底から、おかしそうに嗤った。涙を流し、腹を抱え、転げまわった。

 どうしたらいいかわからず立ち尽くす蒼也を置いて、嗤った。

 

「亀男! どうしたんだよ⁉ え、えっと……ま、円姉ちゃんならなんとか……」


「はははははは……」


 そしてそれは、また唐突に終わった。

 立ち上がった古城は、急に飛び立ち蒼也が慌てて後を追う。

 伊那崎の残骸が、雨に濡れて見ずに溶け込んでどこへともなく流れていった。




 古城の向かった先は、学園だった。

 数秒遅れ、蒼也が到着する。雨で髪は乱れ、称える微笑みは消えている。事態を把握できず、もはや叫ぶことしかできなかった。


「おい! 亀男!」


「……始めよう」


「はあ⁉」


 古城は、嗤っていた。

 笑顔が、貼りついていた。


「ランキング戦だ」


 雷が、鳴り響いた。


 

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