第18話
黒煙のあがる街が見えた。
蒼也はにこやかな顔のままで舌打ちをした。この『頂』の欠点は、制限時間と浮かんで消えない笑みだ。
古城の考えは読めないが、その話術に蒼也は従わざるを得なかった。みとれを残し、行方を暗示するような大雨の中を突き進む。
「作戦はわかってるな」
並走して飛ぶ古城が話しかける。
新型の飛行可能なアーマースーツを着込んでいるとはいえ、自分とほぼ同じ速度で飛べていることに、蒼也は改めて舌を巻いた。
「遠距離攻撃だろ! わかってるよ!」
「それでいい。接近されても教えたことをすればまず負けない。冷静にだ」
鬱陶しく思いつつも、蒼也はそれを心に刻んだ。散々付け込まれ、自身でも欠点であると嫌というほど実感させられてきた。
黒煙と逃げ惑う人々をたどると、伊那崎の姿は簡単に見つかった。
交差点で横転させられ、潰された車が何台も転がっている。いくつかの肉塊は、挑んだ人々のものらしかった。
『頂』の発現は、危害を加える存在に対して有用な手段であると同時に、逃走でなく反攻を優先させるきらいもある。銃を持っていることと同じなのだ。腕自慢が挑んで、被害を拡大させる事案は珍しいものではなかった。
思わず息を呑んだ蒼也に、気付けのつもりか古城が肩を叩く。少なくとも通行人は逃げ去っているので、避難や周囲を気にしての闘いを強いられる必要はない。
「あそぼうよお」
伊那崎は、今まさに飛び立ち遊び仲間を探そうとしているところだった。
浴びたばかりの返り血が降り注ぐ雨と共に体から滴り、沁みついた古い血を浮かび上がらせている。
格好はともかく、迷子の少年のままの顔がより一層不気味な迫力を醸していた。
彼にとっては、何故自分と誰と遊んでくれずあまつさえ拒絶し、少しちょっかいをかあけただけで責められ逃げられるのかがわからない。
「いくぞ」
「う、うん。『轟雷』!」
雷が伊那崎を直撃する。
間髪入れず、古城が腕の射出口から円弾を発射する。伊那崎の足元で炸裂したそれは粘性のある紫煙を吹き出した。
「うえ? げほっ! ぐえっ!」
「『轟雷』‼」
自身も苦しめられた、刺激成分を含んだ煙と落雷のダメージの残る伊那崎に蒼也は『轟雷』を重ねた。
「うえええええ!」
耐え兼ね、煙をあげたまま紫煙を飛び出し空に向かう伊那崎を2人が追う。
咳き込み、空中で静止した伊那崎の首筋に、古城が強烈な肘を叩きこむ。蒼也が熱線で追撃し、伊那崎は地上に落下する。
「『火山』!」
迎えるように、大噴火が起こった。吹き出す溶岩に飲み込まれた姿を見ても、2人は気を抜いていない。
案の定、まとわりつく溶岩をものともせず飛び上がってきた。雨で冷却された酢蒸気が立ち上り、さながら霧の中に佇んでいるようだった。
「なにすんだよ! おまえらだれだよ!」
拗ねたように伊那崎が叫んだ。
蒼也は戦慄する、これだけ攻撃され出てきたセリフの凡庸さに、改めて強さとそして言いしれない狂気を感じ取った。
目の前にいるのは、『子供』なのだ。操作されてるのでも、思い込みでもない『子供』そのものだ。
「タートルマイスターだ」
「え? ……うわ、ダサッ。なにそのかっこう―」
「!」
「わあ‼」
古城が伊那崎を銃撃する。
大口径弾が顔面に直撃し、伊那崎が大きくのけ反った。
背中のブースターの勢いを上げ、その突進力を持って強烈なパンチを叩きこむ。
「ぶっ! や、やったな!」
伊那崎の大ぶりのパンチをいなし、カウンターを叩きこむ。それは普段見せる流麗な型でなく、荒々しいものだった。
「やっぱ気にしてるのか……」
「蔵!」
「! あ、ご、ごめん! 『雷鳴』!」
「うああああ⁉」
「せい!」
一方的な展開になった。
古城は伊那崎の打撃を完封し、的確な反撃を加える。蒼也は距離をとって『天罰』を落としていく。伊那崎が逆襲を図って蒼也に突進してきても、蒼也が防御に徹しているうちに古城が引きはがす。
蟻の一噛みも数を重ねれば象も屠る。蒼也のタイマーが3分経過を示し鳴り響いたころ、伊那崎の動きが鈍り始めた。
「いけるぞ!」
「う、うん」
「攻撃の手を休めるな! 攻め続けるんだ!」
古城の鼓舞と蒼也の雷光を優にしのぐ閃光が走ったのは同時だった。
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